自由と安定をどう両立?シェアリング・エコノミーの光と影

Uber Eats、AirBnB……日本でも、シェアリング・エコノミーあるいはプラットフォーム・エコノミーと呼ばれるビジネスが拡大しています。当初はこうした動きに一定の当惑、反発もあったものの、少しずつ日本でも定着してきているようにも見えます。シェアリング・エコノミーの特徴や、新しいフリーランスの働き方が潜在的に抱える問題点などを考察します。


Uber Eatsの時代?

2020年のコロナ禍で、Uber Eatsなどのデリバリースタッフを、都内で見かけることは今やさらに日常的な光景となりました。

海外旅行をしている方にはおなじみですが、このUber社、海外ではむしろ、シェアライドの会社として有名になりました。シェアライドとは、Uberなどのシェアライド提供会社に登録したフリーのドライバーが、自分の自家用車などを使っておこなう新しい配車サービスを指します。利用者は利用者向けアプリを使い、GPSの位置情報によってドライバーにピックアップしてもらい、行き先もアプリの地図上で事前に指定でき、決済もアプリからクレジットカードによっておこなわれます。同様のシェアライド会社としてLyftなどもあります。

2010年ごろから、こうしたビジネスは、自分の持っている資産や技能を皆で共有することから「シェアリング・エコノミー」とも呼ばれるようになりました。そこには、スマートフォンのアプリによって、市民どうしのニーズをマッチさせる仕組みが発達したことが背景にあります。こうした経済は発展を続けており、2016年を「シェアリング・エコノミー元年」だとする見方もありました。

私が2019年にアメリカ・シカゴの空港から市内へLyftの車で移動した時は、ドライバーは地元の主婦の方でした。「このシェアリングって考え方、すごいと思うんです!」とおっしゃっていたのを覚えています。従来の海外のタクシーと比べ、料金も少し安く、行き先を告げる必要やチップのやりとりも必要ないため、海外の主要都市ではますます広がっています。働くドライバーからすると、ライセンスも必要なく、参入へのハードルが低いようです。

シェアリング・エコノミーの企業の代表格はこのUberと、日本でも少しずつ広がってきた、市民が自宅の空き部屋などを宿泊として貸し出す、いわゆる民泊のAirBnBです。

さらに広くとらえれば、メルカリやネットオークションなども、以前から受容されてきたシェアリング・エコノミーなのかもしれません。シェアリング・エコノミーを論じた記事などの中では、クラウドファンディングのサイトなどもシェアリング・エコノミーに含めている場合もあります。人と人とのニーズのマッチングという意味では、このコラムでも以前取り上げた出会い系アプリ(マッチングアプリ)にも似た面はあります。

シェアリング・エコノミーとは

このように、従来の資本主義とは違ったかたちで、市民同士が資産やモノを共有するといったイメージがシェアリング・エコノミーという言葉にはあります。

情報社会学の荘司昌彦先生もシェアリング・エコノミーについて「『カネのにおいがしない』思想や心理にもとづく経済活動と考えられ、これまでの農耕社会、産業社会の価値観では理解しきれないものが現れてきている」と述べています。*1 地元の人とおしゃべりする、あるいはAirBnBで地元の人たちと同じように暮らしてみる。そういった体験のあり方はしばしば Authenticity – 真正な、本物らしい体験の価値 -- として語られています。

働き方に則して言う場合、「ギグ・エコノミー」という言い方も一般的になってきました。イギリス英語ではいわゆるライブやコンサートのことを「ギグ」と言いますが、ギグに関わるミュージシャンたちがそうであるように、1回ごとの単発の仕事を請け負い、その仕事が終わればそのチームはいったん解散、といった自由な働き方を指しています。Uberのドライバー、Uber Eatsのデリバリースタッフや、リクエストがあった時にだけ応じる民泊のオーナーなども、広い意味ではギグ・エコノミーの担い手であると言えるでしょう。

さらに、プラットフォーム・エコノミーという言葉もあります。これは、アプリなどのプラットフォームを通じておこなわれる経済活動全般を指します。要するに、モノの「共有」という行為に期待をかければシェアリング・エコノミー、自由だけれども時に不安定な「働き方」に注目すればギグ・エコノミー、「アプリ」によるマッチングの側面に注目すればプラットフォーム・エコノミーと呼ばれやすいようです。UberアプリやAirBnBサイトでも、サービス提供者と受給者双方が評価され、互いへの感想コメントを書ける機能などが備わっています。

シェアリング・エコノミーは、少なくともその先導者からは、これからの未来の働き方のスタイルのひとつとして喧伝されています。「今まで有効活用されていなかった潜在的資源を、必要とする小さな個々のニーズと[アプリやインターネットを通じて]マッチングさせることで、資源の有効活用を可能にした点で非常に将来性のあるビジネス」との指摘もあります。*2 「2018年度のシェアリングエコノミーの国内市場規模は824億円となり、2022年度に1386億円に膨らむ見通し」との予測もあります。*3

アメリカの研究では、こうしたプラットフォーム・エコノミーの従事者の実像について、少しずつ明らかになってきています。アメリカでの従事者は1000万から4000万人とも言われ、通常の労働者の平均像と属性はそう変わりなく、大半の人は副収入としてこうしたビジネスをやっているそうです。「就労者は、補完的な収入や在宅時間や労働時間を決められることをメリットと感じているが、収入・仕事が不安定な点、待遇が不公正な点に不満を感じている」。*5 2016年ごろの調査で、こうした労働者の、シェアリング・エコノミーから得た月収平均は533ドル(約5万5千円前後)。また、女性の従事者のほうが収入がやや少ないこともわかっています。

*1 https://www.dhbr.net/articles/-/5111
*2 國見真理子 2019「新たなビジネスモデルとしてのシェアリングエコノミー:今後の規制を視野に入れつつ」『慶應法学』42、p. 104。
*3 『日経コンピューター』2019年11月28日号、p. 64。
*5 藤木貴史 2018「アメリカにおけるプラットフォーム経済の進展と労働法の課題」『季節労働法』261号、p. 63。

シェアリング・エコノミーの光と影?

シェアリング・エコノミーの問題点として、よく議論されるのは次の2点です。1つめは、その従事者たちに、いわゆる被雇用者としての地位がないことです。Uberのドライバーなども、独立事業主として働いており、充分な社会保障、保険などがないといったことが危惧されています。Uberドライバーを初めて包括的に調査した社会学のアレックス・ローゼンブラットも次のように述べています。

「[Uber社は]あなたがたは『自分自身の上司になれる』アントレプレナー(起業家)なのだと鼓舞する。Uberは法的なねらいから、ドライバーを個人事業主に分類している。つまり彼らは、従業員が受ける資格のある雇用および労働の法的保護から、ほとんど除外されている」*6

2019年に米・カリフォルニア州では、Uberドライバーなどを「従業員」であると認める法案が通過しましたが*7 、世界的には、まだこれは非常に例外的かつ稀有な事例です。

Uberに代表されるようなシェアリング・エコノミーの問題点の2つめは、それが現実には非常に不安定な労働なのではないか、という懸念です。労災などへの保障が不充分であるという指摘は根強くあるようです。ある研究では、ギグ・エコノミー従事者について「選択やコントロールがないこと、無力感の経験、低い賃金、ひどい労働環境、疎外、不安、そして不安定さ」があると主張しています。*8

日本のUber Eats従事者たちでさえ、「ウーバーイーツユニオン」を結成し、報酬が一方的に引き下げられたことに対してUber社に抗議し、団体交渉に応じるよう、2019年11月に要請しました。*9

また、プラットフォーム・エコノミーの根本的特徴として、賃金やアルゴリズムの決定が、親元のアプリ提供会社にほぼ完全にゆだねられているという状態を問題視する見方もあります。そしてそれは、GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)が支配する今のインターネット界とも通底している、とローゼンブラットは示唆しています。

「グーグルは、その検索プラットフォームが本質的に民主的で公正であるという信念をうまくつくりあげてきた。同じように、フェイスブックも……『中立的なフェイスブックの偽りの夢』と名付けた危ない橋をわたっている……顧客利益第一を主張するアマゾンが、ランキングを利用して、より高額な製品へと顧客を導いている」*10

シェアリング・エコノミー、プラットフォーム・エコノミーに関して、ほかにも社会的に議論を巻き起こしてきている事柄は、こうしたテック企業の市場参入に対する、既成業界からの反発をめぐるものです。

2015年に、日本でも福岡県でUberの実験が開始され、運賃は取らずに、公募採用されたドライバーに「データ提供料」として対価を払うというかたちでおこなわれました。*11 しかし、国土交通省は、それが道路運送法に抵触する可能性があるとして、実験の中止を呼びかけたそうです。つまり、営業許可なしに自家用車で営業してしまうと現在の日本では「白タク」行為(白ナンバープレートをつけた車[自家用車]による違法なタクシー営業)と同じ扱いになってしまうのです。

AirBnBなどの民泊へも当初、反発があったのは記憶に新しいところかもしれません。オリンピック開催やインバウンド消費の受け皿として民泊が期待されたものの、旅館業法などに抵触することや、一般のマンションを民泊に提供する際の近隣住民からの苦情などで議論が巻き起こりました。それらを受け、2018年にようやく住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行されています。日本人のあいだには、素人が第三者に対して責任を負うことをめぐって、一定の忌避感が存在しているのかもしれません。

*6 アレックス・ローゼンブラット 飯嶋貴子訳 2019『ウーバーランド:アルゴリズムはいかに働きた方を変えているか』青土社。
*7 https://wired.jp/2019/09/17/california-gig-workers-become-employees/
*8 MacDonald & Giazitzogle. 2019. “Youth, Enterprise and Precarity: Or, What is, and What is Wrong with, the ?” Journal of Sociology. Vol. 55 (4): 724.
*9 https://www.ubereatsunion.org/
*10 ローゼンブラット、前掲書。
*11 https://jp.techcrunch.com/2015/03/04/jp20150304uber/

シェアリング・エコノミーのこれから

2019年3月には、シェアライドに反対するタクシー400台が、監督官庁である経産省のまわりを囲む「デモ」をおこないました。*12 こうした経過もあり、配車サービスとしてのUberは、日本ではまだ導入がなされていないに等しい状況です(東京のごく一部でのみ、既存のハイヤー車両とプロのドライバーによる試験的Uberサービスが実施されています)。シェアライドが解禁されないあいだに、一部の日本のタクシーアプリは、ウーバーの機能をほぼ実装しているようにも見えます。

1年延期された2021東京オリンピックを見に来た外国の方々は「え、東京ってUberもLyftもないの?」とびっくりするかもしれません。

現代の都市では、移動、宅配、あるいは技能・知識などをめぐり、従来の産業では対応しきれない一定の様々なニーズがあります。他方、スキマ時間に自分のスキルを活かし副収入を得たいという人々もまた一定数存在しています。それらをマッチングするプラットフォームは、今後もなくなることはないでしょう。

「自由と安定というトレードオフをどう両立させるかは、ギグワーカーやフリーランスにとって永遠の課題」との意見もあります。*13 新自由主義経済における、労働の未来を占うひとつの領域がシェアリング・エコノミーなのでしょう。「Uberはニューエコノミーのシンボル、つまり、デジタル・カルチャーがいかに仕事の本質を変えようとしているかを示す、強力なケーススタディなのだ」。*14 日本においても、シェアリング・エコノミーの賢い安全な活用を模索すべき段階に既に入っていると言えるでしょう。

*12 https://times.abema.tv/posts/5848829
*13 『日経ビジネス』2019年12月16日号、p. 61。
*14 ローゼンブラット、前掲書。

© 株式会社マネーフォワード