「鬼滅の刃」にみる組織の未来形 企業風土 見詰め直す契機 ながさき地域政策研究所理事長 菊森淳文さん

「コロナを機に企業・組織の文化や風土を見詰め直してほしい」と話す菊森さん=長崎市、ながさき地域政策研究所

 人気漫画「鬼滅の刃」は、鬼に家族を殺された主人公・竈門炭治郎(かまどたんじろう)が、鬼と化した妹を人間に戻すために鬼と戦う物語だ。炭治郎は鬼を退治する「鬼殺隊」に加わり、鬼の首領・鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)率いる鬼たちと死闘を繰り広げる。今回の新型コロナウイルス感染拡大後の経済社会の変化を考えるとき、同作に登場する二つの組織の在り方が、示唆を与えてくれる。

□固いVS柔軟
 鬼の組織は、首領を頂点にしもべの鬼たちが階層構造をなし、力と恐怖による支配が行われている。現実に置き換えると、統制が行き届き意思決定が上意下達で行われる「固い組織」。
 これに対し、鬼殺隊は隊員間の関係がフラットで、意見交換による一定の合意で意思決定がされる「柔軟な組織」といえる。
 同作は、対照的なこの二つの組織の対立を描いている。コロナ後の不確実性の高い環境下では、旧来型の固い組織よりも、柔軟な組織の方が成功する可能性が大きいと思われる。
 固い組織は、めまぐるしい社会の変化に対応するのが苦手。トップまで情報が上がるのに時間がかかり、その間に状況が変わっているからだ。日本に固い組織が多いとしたら、日本全体が固い組織だからだろう。変化を好まず合意が非常に重要で、個人がリスクを取らない文化。それは平時には強いけれど、非常時には死活問題になり得る。
 一方、柔軟な組織は、ある程度現場が対策を判断・実行できる緩やかな統制が特徴。鬼殺隊の場合、隊員は個性豊かだが「鬼を退治する」という一つの目標、理念を共有しているために意思統一が取れている。変化への対応が早く、心が一つの方向を向いている点が、非常時に強いといえる。

□変化の好機
 もう一つ、コロナ後の変化で忘れてならないのは、大きな出来事を機に、組織を変えるという意志が生まれやすい状況にあるということ。きっかけがないと、社会や組織はなかなか変えられない。少しずつでも変えていくことが、コロナ後の世界をより豊かなものにするために必要だと考える。
 とはいえ、いっぺんに大きな変化を起こすのは難しい。技術を使って変えられるところから、手を付けるのはどうだろうか。
 感染防止のため、オンライン会議が普及した。ただ、オンライン会議を実際にやった人は、不自由な面もあることに気付いたはず。面と向かえば相手の細かな反応も伝わるが、オンラインでは相互に伝えられる情報が限られる。そこで、会議が始まる前に自分の考えを整理しておき、論理的に伝えることの必要性に気付かされる。そうすると極めて短い時間で会議が進み、長い時間がかかっていた会議の在り方を変える可能性が生まれる。大きな文化の変化が自然に起こるかもしれない。
 こうした変化に乗り遅れてしまうと、競争で後れを取ることにつながる。変化する市場で戦うにはリスク感覚が大事で、そのためにも意思決定が早まっている。ツールを使うところを出発点に、いかに早く意思決定をするか、そのためにどんなツールや技術を使うべきかという考えに発展させていきたいところだ。

□前向きに学ぶ
 今後、合理的な考え方や迅速な意思決定が、さらに普及していくだろう。しかし、県内でも日頃から意思決定の迅速化を考えている企業と、そうでない企業がある。旧来型でやっていけるなら問題ないのかもしれないが、意思決定が遅いと一般的には競争の中で相手方を有利にする。そこで、競争戦略としてのイノベーション(新機軸の導入)が必要になる。
 イノベーションの最たるものは「世代交代」。今までのやり方を大きく変えるには、きっかけが必要で、今回のコロナ禍のように、大きなマイナスのイベントのときには大きな変革が起きる。年配者の経験、知識は大きな価値だが、次の時代に役立つかどうかは別。そういう意味で、新しい人を入れることは重要だ。
 ただ、若い世代の側も相当学ばないと、世代交代はできない。組織の中で学習、成長をどのように図るか。それが、変革できる企業・組織かどうかの境目になる。県内でも、受け身の若者が多いという声を経営者から聞くことがある。前向きに考え、学ぶ若い世代がどれだけ増えるかで、企業・組織が維持、成長できるかどうかが、決まっていくのではないだろうか。
 他方で、これからは今までのように、常に成長を追い求める時代ではなくなりそうだ。みんなが仲良くハッピーに、それぞれの領分で努力すれば持続できる「サスティナビリティー(持続性)」が重視されるかもしれない。その中で突出した企業だけが成長を遂げていく2極構造に変わる可能性が高い。
 それだけに、これからは各自の「企業・組織文化」が大切になる。「自由」か「組織」か「個人」か「社会」か-。一番大事にする目標や理念は、企業・組織によって大きく違う。何を一番大事にするかによって、今後の在り方が変わってくるはず。コロナを機に、それぞれの文化や風土を見詰め直してほしいと思っている。

【略歴】きくもり・あつふみ 1978年三井銀行(現三井住友銀行)入行。83年、米シカゴ大経営大学院卒、博士(学術)。2000年、日本総研首席研究員。02年からながさき地域政策研究所調査研究部長、13年から所長、17年から現職。三重県出身。

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