「私にとって特別な存在」元巨人マシソンが自宅に飾る阿部慎之助のユニホーム

アメリカの自宅から子供たちへ野球を教えたマシソン氏(写真はスクリーンショット)

少年野球チームでオンライン講座を実施し、子供たちに気持ちを明かす

球場から一歩外に出ると、心優しい助っ人だった。巨人で8年間、ブルペンを支えたスコット・マシソン投手は今、米国のフロリダで生活をしている。ファン思いの男は、思うように野球ができない日本の少年少女たちに、オンラインで寄り添った。画面越しで見せる優しい笑顔は、球場の外でファンと触れ合う時と同じだった。

このほど、オンライン会議システム「Zoom」を使用して、新型コロナウイルスの影響で活動自粛期間が続く野球チームの子供たちのため、講習会(主催・POD Corporation)を開催。野球上達のためのトレーニング方法やアドバイスを送ったが、最初に語ったのが自身のキャリアだった。

カナダのバンクーバーの高校卒業し、フィラデルフィア・フィリーズでドラフトされたこと、当時はすごく痩せていて、球も速くなかったこと。ドラフトされてから、5年間はほぼマイナーリーグ暮らしだったこと。初のメジャー昇格も、すぐに肘を痛め、トミ・ージョン手術をしたこと……思い出すのは苦い記憶ばかりだった。

「非常に辛い時期だった。僕はドラフトが下位指名だったし、期待されていなかった。どんどんライバルに追い越された。でもね、最後に自分のお父さんに言われたことは『絶対に後悔を残すな』。だから、誰よりも練習した。だから今の地位があると思うんだ」

2011年のシーズンオフに、日本からのオファーを受けたマシソンは思い切って、挑戦することにした。しかし、メジャー経験のある右腕は日本独特のしっかりと静止するセットポジションに悩み、本来の投球ができなかった。2012年のオープン戦で先発した試合で結果を残せず、開幕は2軍スタートとなった。

マシソンは日本の若手と一緒に練習に取り組んだ。知らない環境でも順応しようと努めた。メジャーにはあまりない、日本独特の走り込みも取り入れた。コーチからのフォーム修正も受け入れた。

「練習をたくさんして、身体を作ってきた自分にとっては、一生懸命に練習をする取り組みは共感できました。アメリカは日本ほど、練習をここまでしない。僕には日本の社会、やり方は合っているんだと思ったんだ」

当時の豊田清投手コーチ(現西武コーチ)からフォークボールを教わり、セットポジションの改善に取り組んだ。その成果が表れて、1年目のシーズン途中から、1軍に定着。40試合で2勝0敗10セーブ、8ホールド、防御率1.71の好成績で日本一に貢献した。

「今でも日本を恋しく思うことがいっぱいあるよ。日本で8年もできたのは、とにかく一生懸命練習したから。遠投などの日本式の練習方法を取り入れて、トレーナーの多大なサポートも受けた。日本での体のコンディションは最高でした。諦めずに最後まで頑張ることは忘れてはいけないと思います」

自宅には「宝物」阿部慎之助のユニホームが飾ってある

そんな一生懸命、全力を注ぐマシソンだが、ピッチングで力を抜くことを教わったのが、バッテリーを組んできた阿部慎之助(巨人2軍監督)だった。来日当初は闘志を全面に出し、100パーセントの力で投げ込んでいたが、力み、ボールは荒れ、感情のコントロールができなかった。登板前に阿部から「8割の力で」と数字の「8」を書いてもらうようになってから、肩の力が抜け始めた。その頃からマシソンは本領を発揮し始めた。お互いの引退会見で登場するなど、絆は深かった。

オンライン講義を受ける子供たちに紹介したお宝グッズの中に巨人のユニホームがあった。

「阿部慎之助さんからもらったユニホームなんだ。僕のことをすごく助けてくれた人のものだから、宝物です。彼に感謝してもしきれない。僕にとってとても特別な存在で、すごく尊敬していた。何度も食事に行ったし、良い会話をたくさんできた」

他にも同じリリーバーとして一時代を築いた山口鉄也氏、外国人選手のケアを積極的に行っていた長野久義外野手(現広島)、フロリダに来て一緒にトレーニングした戸根千明投手らの名前を出し、チームメートたちの思い出を語った。今でも連絡を取っている選手も多く、一日でも早いプロ野球の開幕と巨人のリーグ連覇を願っている。

今回、野球少年少女約200人を対象に行った講習会では、マシソンのキャリアから、日本時代の思い出、そして家でもできる練習方法など、技術的なアドバイスを送った。質問者の挙手が止まらず、終了予定時刻が迫っていたが、マシソンは「時間は気にしないでやろうよ」と子供たちとの時間を削ろうとはしなかった。講義終了後も画面越しに手を振って、子供たちの“退出”をほとんど見送った。

8年間のプレーを終え、アメリカに戻ったが、今もなおマシソンの中には日本で過ごした時間が大切に心の中にしまってある。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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