地域課題解決、移住に期待 五島のリモートワーク“現状と展望”

橋本さんが4月にオープンした「コワーキング@mitake」。会社や業種が異なる人が、同じ空間で交流しながら仕事ができる=五島市江川町

 新型コロナウイルスの感染対策で、会社から離れた場所で仕事をする「リモートワーク」が広まりつつある。長崎県五島市は昨年度から、都市部のビジネスパーソンを招き、島に滞在しながら仕事を体験してもらう事業を本格化。継続的に地域と関わる「関係人口」の拡大や、住民との交流を通じた地域課題の解決、ひいては移住にもつながることを期待する。受け入れ側としての同市の現状や、今後の展望を探った。

 「朝の満員電車に体力を奪われず、自然が近い五島なら気分転換もしやすい。ネット環境さえ整っていれば、個人作業なら東京よりはかどるかもしれない」
 昨年5月、都内の会社を離れ、五島で1週間のリモートワークを体験した山形方人(まさと)さん(35)=千葉県在住=は、そう実感したという。五島では社内の制度設計などに取り組み、同僚らとの相談にはビデオ会議や電話を利用。出社しての業務と比べても「不便を感じなかった」と話す。
 現在は新型コロナの影響で、2カ月以上の在宅勤務が続く。同様にリモートで働く知人らからは「会社外でも問題なく仕事ができると分かったから、郊外や地方に引っ越したい」などの声を聞くといい、山形さんも「首都圏と五島を行き来する2拠点生活は十分に現実的」と感じている。
◆ ◆ ◆ 
 五島市内では昨年5~6月、東京のウェブメディアがリモートワークの実証実験を主催し、都市部で働く延べ約50人が4~10日ほど島に滞在。また今年1~2月には市の主催で、働きながら休暇も楽しむ「ワーケーション」事業を企画。約50人の来島者に、仕事だけではなく、島民との交流やさまざまなワークショップを体験してもらった。
 市地域協働課の庄司透課長は「五島でも仕事ができると実感してもらい、最終的にはU・Iターンにつなげたい」と狙いを語る。1年前の事業では「予想以上の効果」も。複数の参加者が、島民との交流を通じて地域の課題を知り、事業終了後に島内で4事業所を設立した。
 このうち、離島専門で価格を抑えた引っ越し事業を全国展開するアイランデクス(大阪市)は、新たに五島営業所を開設し、スタッフ3人を雇用。池田和法(かずのり)代表取締役は「家族で五島にUターンする場合など、移住費用が高いと相談を受けていた。島に滞在し、島の人の良さや食事のおいしさ、新しい取り組みに積極的な市の姿勢が見えたことなどが(営業所を設置する)決め手になった」と話す。
◆ ◆ ◆ 
 民間で、五島市内にリモートワークの環境整備を進める動きもある。同市でパソコン店などを営む橋本賢太さん(33)は4月、新たにコワーキングスペースや貸しオフィスの運営を開始。長期滞在ができるようゲストハウスも備えた。
 妻が台湾出身であることを生かし、今後は台湾からの旅行者受け入れを軸に、島内外の企業や個人が、共に働きながら交流できる拠点にしたい考えだ。橋本さんは「リモートワーカーやU・Iターン者が地元の人とつながり、新たな事業が生まれる場所になれば。パソコン店の強みを生かし、地元企業に対してリモートワーク導入のサポートなどもしていきたい」と先を見据える。

© 株式会社長崎新聞社