新型コロナと災害 ~避難環境を考える~ 「分散避難」の検討が急務

東京大大学院客員教授 松尾一郎氏

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社会的距離を保った多様な避難

 新型コロナウイルス感染症の影響が懸念される中、大雨や台風、地震が発生したとき、自治体が開設する指定避難所における感染拡大をどう防ぐか。感染リスクが高まるとされる「3密(密閉・密集・密接)」状態の中、防災対策と感染予防を両立させた避難所の運営のポイントとは何か。諫早市の本明川の氾濫を想定し、自治体や住民が取るべき行動を定めた「タイムライン」策定に携わった東京大大学院情報学環総合防災情報研究センター客員教授の松尾一郎氏(64)=長崎市出身=に聞いた。キーワードは新しい避難環境づくりと住民への早期周知-。

 災害で人を死なせない。コロナ感染症に罹患(りかん)させない。避難生活下での関連した病気を極力、防止する-。コロナ禍の中で災害が発生した場合、最も重要なのは、この3点に尽きる。

東京大大学院客員教授 松尾一郎さん

 もともと、日本の避難所環境は劣悪。数百人が体育館などに密集し、床の上への雑魚寝になる。トイレのスペースが小さく、数が少ない。仮設トイレを含め、衛生上よくない環境だった。避難所自体が地震や水害の被害に遭わないのか、という安全面の不安もある。いわゆる「3密と3K(汚い、危険、きつい)」。長年、多くの課題を改善しなければいけないという議論が置き去りにされていたともいえる。
 一方で、コロナ問題と関係なく、インフルエンザやノロウイルスなど、避難所の感染症対策は続けられてきた。避難所や車中で長時間、過ごす人が発症しやすいエコノミークラス症候群(静脈血栓症)対策も同じ。今回を機に、より質の高い避難に向けて、自治体も住民も意識と役割を見直すときだろう。
 今の課題の一つは「3密」をどう回避するか。これまでの避難所における1人当たりの収容面積は1~1.6平方メートルだが、感染防止のためにソーシャル・ディスタンス(社会的距離)を保つには、1人当たり4平方メートルが求められる。避難所の収容能力が従来より3~4倍多く必要となり、避難所が不足するのは目に見えている。
 避難所不足を補うためには、住民の逃げ方を変えることを考えなければならない。「分散避難」の考え方だ。「動かない避難(在宅避難)」をはじめ、親類や知人宅への縁故避難、ホテルなどへの避難、車中などの青空避難がある。
 避難所に寝泊まりする場合は原則1日。2~3日以上、とどまらない。その後はホテルなどに移る手だての検討が自治体に求められる。「3密」のほか、空気中のウイルスによる飛沫(ひまつ)感染と接触感染が考えられるからだ。
 避難所内の運用も、避難者の健康状態で生活空間を区分する。感染が疑われる人は教室などに分離。体育館などでは、段ボールなどの間仕切りを設け、床面で就寝しない。トイレや食事場所は分け、それぞれの場所に行き来する動線も分離する。
 逃げ方が変われば、これまでより避難に3~4時間多くかかる。それから何が起こり、何が必要か、想像をたくましくし、先んじて考えてほしい。
 住民は逃げる場所を事前に考え、決めておく。準備をしていないと、逃げ遅れる人がでる。そのためには、自治体はコロナにおける避難場所を早く住民に示すべきだ。
 ここで、災害発生前から発生時、復旧までの間、自治体や住民が取るべき行動を決めておく「タイムライン」の考え方が重要になってくる。災害を時間軸で考えるのだ。
 諫早市は2017年、本明川の氾濫を想定した水害タイムラインを策定し、中央地区では町内会単位のコミュニティータイムラインを検討している。水位の上昇に応じて、住民がどのタイミングで逃げるか。市だけでなく住民もともに考え、備える仕組みだ。
 諫早市以外の長崎県内の自治体も河川の流れが速く、土砂災害の危険性も高い。だからこそ、これまでより3時間ほど早く動かなければ、住民の避難タイミングが難しくなる。コロナ対応を加えたタイムライン、避難方法の見直しが急がれる。

◎住民の準備 持ち出し袋に衛生用品を

 新型コロナウイルス感染症予防を考えながら、「3密、3K」の避難所に身を寄せる時、住民はどのような心構えや準備が必要か。まず、自分が感染しない、周囲を感染させないことが大切だ。
 自然災害時の避難に備えて用意している非常用持ち出し袋に、コロナ予防に使える衛生用品などを追加してほしい。わが身と家族を守る行動につながるからだ。
 マスクやアルコール消毒液、使い慣れた体温計、常用薬などをはじめ、家族単位のハンドソープ、できる限り多くのティッシュやポリ袋を用意してほしい。
 上履きやスリッパは床からの接触感染を防ぐために重要。使い捨てのビニール手袋は、ドアノブなど多くの人が触れるものからの接触感染から身を守れる。今後、暑くなるので、ビニール手袋の指先部分だけでも日ごろから着けておいてほしい。使い捨てのビニールエプロンやごみ袋も、避難所の運営協力に役に立つ。
 ハザードマップや浸水想定区域図で、自宅の浸水程度や土砂災害の危険度を事前に確認する。ネット環境がない人は自治体の窓口で尋ねる。それに答えるのが、自治体が住民の命を守る行動の第一歩になる。
 限られた職員で避難所を運営する自治体も少なからずある。事前に簡単な運営マニュアルを作成しておけば、住民も運営できる。行政だけでなく、住民力が求められる。避難所ではフェースガードやゴーグル、防護服も余分に用意しておく方がいい。

 コロナ下の災害を想定した時、分散避難という考え方を提案した。住民も何が起きて、何が必要か、先んじて考える。必要な物資をそろえ、家族で逃げ方、逃げる場所を決めておく。それも、1日だけでなく、数日単位、長期に及ぶ場合の避難場所を考えておいてほしい。
 「コロナに感染するかもしれないから、避難所に行かない」という選択をする人もいるだろう。自宅が安全な場所ならば、在宅避難も選択肢の一つ。その場合、自宅で1週間、過ごすために必要な水、食料、常用薬、ライト、ラジオなどを用意し、しのぐしかない。
 もう一つの選択肢として、縁故避難がある。安全な場所にある親類、知人宅が同じ地域や隣接地域にあれば、そちらに身を寄せる方法である。過去の災害でも縁故避難は多い。コロナ下であっても大事な家族が災害リスクのある場所にいるとすれば、感染防止対策を徹底して、一時的に縁故避難もあり得ることを考えておくべきだ。
 高齢者や障害者など、災害時に支援が必要な人への配慮も重要だ。民生委員などが大雨予報時の避難先を事前に聞いたり、避難所や福祉施設に早めに誘導したりしている自治体がある。
 しかし、福祉施設の場合、感染防止が優先されるため、従来と異なる運用になるだろう。一時的な利用ができない時、どこへ逃げるか、自治体も含めて真剣に検討しておくべきだ。
 コロナ禍は、これまでの避難時の課題を浮き彫りにした。梅雨入りが迫り、準備する時間は限られている。そのためにも、自治体はコロナ感染予防策を含めた避難所の運営方法を決め、住民に急いで伝え、その情報からこぼれ落ちる人がないよう、努力する時だ。

 【略歴】まつお・いちろう 1955年、長崎市出身。日本災害情報学会理事。本明川をはじめ、球磨川(熊本県)や荒川下流域(東京都)などのタイムライン検討会座長。阪神大震災や東日本大震災など数多くの災害調査にも関わる。専門は危機管理、防災情報、防災行動。