【新型コロナ】海水浴場中止「パトロール誰が」 立ち上がる海の家事業者 ホテル・飲食は先行き見通せず

多くの海水浴客らでにぎわう昨年夏の海水浴場=2019年8月、鎌倉市内

◆「安全対策を」県の対応注視

 新型コロナウイルスの影響で、神奈川県内25カ所の海水浴場すべての開設中止が決まり、異例の夏を前に関係者は戸惑いながら対応を模索している。全国有数の人気ビーチを抱える湘南海岸では、自粛を強く発信しても多くの来訪が予想されるため、海の家事業者らが安全確保のために立ち上がろうとしている。県内最多の5カ所の海水浴場がある三浦市では、経済的な打撃を懸念する声が広がっている。

 「今夏の海でどれほどパトロールがあるか不安」。1日に逗子市役所で開かれた会合で市民が漏らした。

 市は2014年から砂浜での飲酒や音楽機器などを禁止する海水浴場のマナー条例を施行し、昨夏は警備員が条例に基づき約7千件を注意したという。

 逗子海岸営業協同組合の勝田康司常務理事は「条例には強制力がなく、呼び掛けの担い手確保が必要。トラブルがあれば駆け付けてきた」と強調。市は海水浴場を開設しなくても適用できる条例を新たに施行する方針だが、海の家が開かれなければ、見守りの目は減る。同組合幹部は今夏も海岸での呼び掛けのほか、危険な遊泳などを注意する海上パトロールなどを行うことを検討している。

 鎌倉市にも砂浜での飲酒などを禁止する条例があるが強制力はなく、警備員や海の家事業者がマナー順守を呼び掛けてきた。鎌倉市海浜組合連合会の増田元秀代表も見回りなどで引き続き協力する考えだが、「心配なのは海上の事故。更衣室がなく公共トイレも密になる」と不安を打ち明け、「海岸管理者の県も対策を打ち出すべきだ」と訴える。

 県に対策を求める声は藤沢市からも上がる。市は海水浴場組合からの要請を受け県に早期対応を申し入れた。組合や市は、「県が県内海岸の安全確保のガイドラインを示した上で、各自がルールを作るのが筋」と県の対応を注視している。

◆かき入れ時を直撃

 「そこまでするか」。三浦海岸近くの「民宿旅館しおさい」の山代修代表は嘆く。県が海水浴場が開設されない海岸で注意看板の設置を予定、遊泳自粛の呼び掛けを検討中だからだ。

 例年、夏場の宿泊の9割が海水浴客。今夏の売り上げの見込みは立たない。「持続化給付金を一度もらっただけでは持たない。経費を切り詰めなければ」と覚悟する。

 三浦海岸のリゾートホテル「マホロバ・マインズ三浦」の担当者も「客足がかなり遠のく上、海水浴場がなくなり、夏場にうちに来るかどうか見えない」。県をまたぐ移動の自粛要請も続く中、「県内の人たちにゆったり過ごしてもらえる新たなサービスもつくりたい」と歯を食いしばるが、見通しは厳しい。

 「深刻な状況」と明かすのは製麺業「丸清製麺」の石毛浩雄代表だ。同市や逗子市、葉山町の海の家に例年、ラーメンなどを卸しており、その数は一夏で軽く1万食以上。各地の海水浴場中止は痛手という。

 夏の間にスタッフの雇用維持が困難になる可能性もある。「緊急事態宣言は解除されてもコロナは収束していない。まだ景気は戻らず、国として助成関係の枠を広げなければ雇用維持は難しい」と、事業者への支援策のさらなる充実も訴える。

© 株式会社神奈川新聞社