【MLB】最高のフォーシームの使い手は誰か? 謎の解説者お股ニキが独断で厳選

ヤンキースのゲリット・コール【写真:Getty Images】

野球の新たな視点を提案する“プロウト(プロの素人)”お股ニキによる新連載スタート

【お股ニキが選ぶ3+1・MLB編 第1回 4シーム】

日本では平松政次のカミソリシュート、伊藤智仁の高速スライダー、潮崎哲也のシンカー、上原浩治のスプリット、藤川球児の火の玉ストレート、メジャーではマリアーノ・リベラのカットボール、ティム・ウェイクフィールドのナックルボールなど、野球界には「魔球」と呼ばれるボールがある。マウンド上で魔球を操り、打者に手も足も出させないピッチャーの姿は圧巻そのもの。野球好きなら見逃してはほしくない最高の場面でもある。

現役の中にも、他と一線を画するボールでアウトの山を積み上げる投手は数多い。だが、誰の何を見たらいいのか分からない…というアナタの声に応えるのが、新連載「お股ニキが選ぶ3+1」だ。SNSや著書を通じ、野球の新たな視点を提案する謎の解説者・お股ニキ氏が、各球種における「球界トップ3」を独断と偏見でピックアップ。トップ3入りはならずも要チェックの「プラス1」を加えた4投手を解説とともにご紹介していく。まずはメジャーリーグから。

第1回はピッチングの基礎であり、組み立ての軸ともなる「4シーム」だ。いわゆる「真っ直ぐ」と言われる4シームだが、お股ニキ氏によれば、どうやらカギは「縦の変化量」にあるようだ。どんな顔ぶれとなったのか。早速、見てみよう。
(データはBaseball Savant、FanGraphs、BrooksBaseballによる。主なデータ項目の説明は最後に付記)

【1位】ジョシュ・ヘイダー(ブルワーズ)左投
回転効率96.7% 平均球速95.5マイル(約153.7キロ) Spin Axis 10:54 2123回転
空振り率22.6% 使用割合82.9% 被打率.167 ピッチバリュー/100:1.4

100マイル(約160.9キロ)を超える速球も珍しくない昨今のMLBにおいて、4シームの平均球速は95.5マイル(約153.7キロ)、回転数は2123回転と共に驚くほどの数字とは言えない。それにも関わらず、ヘイダーのストレートには“分かっていても打てない”全盛期の藤川球児が投げる「火の玉ストレート」のような要素がある。その理由は160センチほどの低いリリースポイントから96.7%という高い回転効率で放たれたボールが、シュート回転しながら浮き上がるように描く軌道、そして高めへの制球にある。そのため、投球の8割以上を4シームが占め、来るのが分かっているはずなのに、打者のバットはボールの下を通って空振りしてしまう。

藤川の4シームは回転角度が縦に近く、ヘイダーは横に近いため、厳密に言えば異なるタイプだが、高い回転効率でホップするような軌道を描き、ゾーン高めで多くの空振りを奪う点は共通している。ヘイダーのように低いアングルから投げれば、打者にはよりボールが浮き上がってくるように見せられる。最も打たれやすいはずの4シームをこれだけ多投し、打者の大半を三振に斬ってしまうヘイダーの4シームは魔球だ。

お股ニキ氏が「パーフェクト」と絶賛する4シームの遣い手は?

【2位】ゲリット・コール(ヤンキース)右投
回転効率97.1% 平均球速97.1マイル(約156.3キロ) Spin Axis 1:08 2530回転
空振り率16.7% 使用割合51.5% 被打率.166 ピッチバリュー/100:1.9

高速・高回転・高回転効率・高いリリースポイントと、すべて揃ったパーフェクトと言えるのがコールの4シーム。ヘイダーと同様にシュートしながら浮き上がるようなボールだが、より高いリリースポイントから投げ込まれている。アストロズが多くの投手に施している“改造”の賜物で、シュート回転を少し抑えつつ、その中で最もボールが浮き上がるように回転効率を高めている。対になるスライダー、ナックルカーブとの対比も鮮明となり、先発では最強と言える4シームだった。

2019年シーズンはリーグ2位となる20勝(5敗)、リーグトップの防御率2.50、同じくトップの326三振を奪い、最後に負けた5月22日ホワイトソックス戦以降はポストシーズンも含めて18勝無敗、防御率1.66を記録。8月7日のロッキーズ戦からは11試合連続2桁奪三振も成し遂げた。規定投球回を達成した先発投手として、あのランディ・ジョンソンを上回り、史上最高の奪三振率(13.8)を記録する歴史的なシーズンを過ごした。

オフにアストロズからFAとなり、投手史上最高額の9年総額3億2400万ドル(約347億円)でヤンキースと契約した。年平均3600万ドル(約38億6000万円)も同じく史上最高額となる。目を見張る進化と破格の契約の背景には、この4シームの改善があった。

【3位】タイラー・グラスノー(レイズ)右投
回転効率71.9% 平均球速96.9マイル(約155.9キロ) Spin Axis 0:05 2279回転
空振り率9.6% 使用割合67.2% 被打率.195 ピッチバリュー/100:2.3

2018年にレイズがエースだったクリス・アーチャーを放出してパイレーツから獲得したのが、昨季ブレークした右腕タイラー・グラスノーだった。パイレーツ時代よりも腕の角度を上げて、203cmの長身から投げ下ろす4シームは100マイル(約160キロ)に達する。

ボールの回転角度は180度に近く、これまで紹介したシュートライズするヘイダーやコールとは異なり、カットボールや真っスラタイプの軌道を持つ。160キロ近い高速で真っ直ぐ迫るボールを、打者は捉えるのが難しかったことだろう。体感速度も極めて速いと思われる。

この4シームとカーブのみ、ほぼ2ピッチで防御率1点台と圧倒し、ポテンシャルの高さを見せた。この先、先発として2ピッチのみでは厳しいため、スプリングトレーニングでは第3の球種としてスプリットのような中間球を覚える取り組みを見せていた。4シームの割合を減らして投球にメリハリがつき、故障が少なくなったコールのような成績を残すことも十分に可能な逸材だ。

見逃してはならない「プラス1」は… ドジャース右腕ビューラー

【プラス1】ウォーカー・ビューラー(ドジャース)右投
回転効率84.6% 平均球速96.8マイル(約155.8キロ) Spin Axis 0:33 2456回転
空振り率10.4% 使用割合53.2% 被打率 .205 ピッチバリュー/100:1.4

シュートライズするヘイダー、コール、そしてカット・真っスラ気味のグラスノーが投げる4シームの中間的な性質とも言えるのが、このビューラーの4シーム。この球はまさに“ロマンの塊”であり、浮き上がるように見える軌道は多くのプロ野球選手にも人気だ。

高速・高回転・高いリリースポイントから投げ込み、ややシュート変化を抑えたボールは本当に浮き上がって見える。回転効率84%、spin axis0:33というデータも、ちょうどシュートライズとホップカットの中間的な軌道であることを示す。

このように投げ方やリリースポイント、回転軸の傾きは様々であるとは言え、それぞれのアームアングルやフォームと最適な組み合わせが見つかれば、4シームは浮き上がるような軌道を描く。結局、打者の想像以上にホップしてバットの上を通るような軌道の方が効果的で、ストライクゾーン内で勝負しても空振りが取れる傾向がある。球速にかかわらず投手なら、ぜひ目指してもらいたい形だ。

※回転効率:総回転数のうちボールの変化に影響を与える回転数の割合。

※Spin Axis:回転軸の傾き 時計盤の中心にボールがあると考えて“時間”で表記。例えば「6:00」の場合、ボールは投手からホーム方向へ12時から6時へ下向きの回転(トップスピン)をすることを示す。「12:00」の場合は6時から12時へ上向きの回転(バックスピン)、「3:00」の場合は9時から3時へフリスビーのような右向きの回転(サイドスピン)、「9:00」の場合は3時から9時へ左向きの回転(サイドスピン)となる。

※ピッチバリュー/100:その球種が生み出した得点貢献(期待失点の減少)を、100球投じた場合の平均に直したもの。例えば、ある投手の4シームが2.00ならば、「4シームを100球投げることで平均よりも2点の失点を減らした」ことになる。(お股ニキ / Omataniki)

© 株式会社Creative2