【Red vs. Blue】トランプの弁護士一家が慈善基金から約71億円も受け取っていた件 米二大政党、共和党と民主党。保守派共和党の公式カラーは赤、リベラル派民主党は青。アメリカの分断は両者の意見が大きく異なるためだ。当連載ではアメリカで報道された新聞記事について各派のアメリカ人が見解を披露する。今回はトランプ大統領のお抱え弁護士であるセクロウ氏と彼の家族が慈善団体から約71億円も受け取っていたことについて。

トランプ大統領の主任弁護士として全米に知られるジェイ・セクロウ氏。先の米大統領弾劾裁判でも弁護団の中心となって大統領の擁護に当たった。
そんなセクロウ氏だが、先月31日に配信されたAP通信の報道によると、同氏が主任弁護士を務める非営利団体「法と正義アメリカセンター(ACLJ)」と、同氏に関連する他の慈善団体の過去10年間の納税申告を調べた結果、6,500万ドル(約71億円)以上の慈善基金が、セクロウ氏と彼の家族や彼らが所有する企業に支払われていることが判明。米連邦法では、慈善団体が組織に対して実質的な影響力をもつ人々へ過度に利益を与えることを禁じているため、これにどう対処するべきかが話題になっている。当事者が現役大統領の弁護士であることや、流れた金額があまりにも大きいことに驚かされるが、保守派とリベラル派の一般的なアメリカ人たちはこのニュースをどう捉えているのだろうか?

出典:AP NEWS
Charities steered $65M to Trump lawyer Sekulow and family
https://apnews.com/9d2ed80ca912d18abd6650f55d2db935

RED: APはトランプの弁護士に恥をかかせようとしたが、惨めにも失敗した

AP tries to shame Trump lawyer and fails miserably

ああ、またか。アメリカの大手メディアは、トランプ大統領に関して健全で合理的な議論を明確に表現することができない代わりに、大統領の弁護士のひとりに恥をかかせようとしている。一体、この問題がトランプ大統領と何の関係があるというのだ? 何の関係もないじゃないか。セクロウ弁護士は違法なことは何もしておらず、何の犯罪も犯しておらず、法律を破ったわけでもない。それに、このことと、セクロウ氏がトランプ大統領の弁護士のひとりであるということは無関係だ。

このAP通信の記事では、「法と正義アメリカセンター(ACLJ)」の運営費用の約19%が管理費(給与を含む)の支払いに使用されていることを告発している。しかし、これは他のアメリカの非営利組織と比較した時に、APが示唆するほど驚くほどのものではない。チャリティー・ナビゲーターによると、たとえば非営利公民権事務所の「南部貧困法律センター」は、給与を含む管理費に14%以上を費やしている(2018年時点)。「ビル・ヒラリー・チェルシー・クリントン財団」はさらに高額で、2017年時点で給与を含む管理費が20.2%(1100万ドル)を超えている。

また、セクロウ弁護士と彼の家族の何人かがACLJの有給役員である慣行が違法だとした場合、2017年以降にセクロウ弁護士と関係のある組織によって集められた慈善基金の潜在的な乱用について調査していたノースカロライナ州民主党司法長官、ジョシュ・スタイン氏が、すでにセクロウ弁護士に罰金を科したか、逮捕しているはずだ(すでに3年も経っている)。

アメリカの大手メディアは、いい加減トランプに文句をつけることを諦めるべきだ。今回のAPの記事は、大手メディアがいかに近視眼的に「一人の男=トランプ」に固執し、世界の他の部分が回転している事実を認識できていないことを示しているだけである。

Blue: 俺の名前はトランプ、王様中の王様だ

My Name is Trump, King of Kings

昨年、ドナルド・トランプが所有する慈善団体である「トランプ財団」は、ニューヨークの裁判官によって「衝撃的な違法のパターン」を主張する訴訟が支持され、閉鎖させられた。

この「トランプ財団」は、トランプの所有するゴルフ場のひとつに掛けられている彼の肖像画に1万ドルを払い、トランプの事業債務の支払いにも「トランプ財団」から支払われたていた。裁判官は、トランプに対し、他の現実の慈善団体に200万ドルを支払うよう命じたが、トランプは「自分は慈善団体に何百万ドルも寄付している」とツイッターで自慢し、訴訟は政治的な攻撃だと主張した。

しかし、トランプは悪事が見つかって、いくらかお金を払った。でも、国の政治を司る人たちの中に、トランプの慈善団体が本物かどうかを問題視しようとする人は誰もいなかった。

今年、トランプはウクライナへの支援金を差し止めていたことで弾劾された。彼はウクライナ大統領を自分の政治的有利に利用するため、軍事援助金を使おうとしたのだ。結局、彼の企みは見つかり、支援金はウクライナに送られた。しかし共和党員たちは大統領に自分の行動の責任を取らせるよりも職につかせておいたほうが良いと判断して、トランプは無罪となった。ここでもトランプは悪巧みが見つかって、お金を払った。ここでも、トランプの行いを問題視しようとする人はいなかった。

そして今回、弾劾裁判にかかわったトランプの弁護士が、彼が管理している慈善団体から数百万ドルを自分の家族の利益にしていることがわかった。トランプの弁護士のやっていることが暴露したが、トランプは裁判に勝った。彼の慈善団体が本物であるかどうかを問題にする人などいないのである。

なりふり構わず勝つこと、それが新しい共和党の政策だ。共和党は国を気にかける振りさえとっくにやめてしまった。今日の共和党は党支持者のためだけに仕事をしている。共和党が政権を握っている間、トランプは望むことは何でもできるわけだ。

なぜ、そんな重要な問題を追求することをやめてしまうのか? それがどれほど大切なことかは、アメリカ南部の国境沿いの檻の中にいる7万人の移民の子供たちの母親に訊ねたらいい。自分の大事な蓄えを「慈善団体」に寄付した祖母たちに訊ねたらいい。中東でトランプの無知の犠牲となって死んでいった民間人に訊ねたらいい。

米大統領は国王ではない。しかし誰もトランプが国王になろうとしていることを止められないでいる。

2020年2月12日

寄稿者

ジム・スミス(Jim Smith)農場経営者

1965年生まれ。アラバマの伝統的な保守派の両親のもとで生まれ育った影響から、自身も根っからの保守支持に。高校卒業後、アメリカ陸軍に入隊。特殊部隊に所属し8年軍に従事するも、怪我が原因で除隊。その後テキサス州オースティンの大学で農経営学を学び、現在は同州アマリロ近郊で牧畜を中心とする多角的な農場を営んでいる。地元の消防団に所属し、ボランティアの消防隊員としても活動するなど、社会奉仕活動多数。妻と子供3人の家族5人暮らし。

ポール・クラーク(Paul Clark)データ分析コンサルタント

1972年、オレゴン州のリベラルな街に生まれ、両親も親戚も学友も周囲は皆リベラルという環境で育つ。カリフォルニアのベイエリアにある大学へ進学し、英文学とコンピューターサイエンスを専攻。卒業後はベイエリアの複数の企業に勤務し、各種のデータ分析業務に従事。現在は家族と共にオレゴン州に在住。趣味はサッカーとクラフト・ビール造り。

© 株式会社メディアシーク