新幹線長崎ルート 佐賀県と国交省が協議入り やりとりの一部紹介

足立基成・国交省鉄道局幹線鉄道課長(左)と南里隆・佐賀県地域交流部長

 九州新幹線長崎ルートの佐賀県内の未着工区間(新鳥栖-武雄温泉)の整備方式について佐賀県と国土交通省は5日、同県庁で協議を始めた。同県の南里隆地域交流部長と同省の足立基成鉄道局幹線鉄道課長のやりとりは報道陣に全て公開され、約2時間40分に及んだ。その一部を紹介する。

◇合意や約束
 南里部長 西九州(長崎)ルートは、新鳥栖-武雄温泉の在来線の利用とフリーゲージトレイン(FGT、軌間可変電車)の導入が前提として進められてきた。
 (FGTの開発が遅れるなどして)JR九州と長崎県が一方的に新鳥栖-武雄温泉のフル規格整備を国などに要望した。山口祥義佐賀県知事が与党検討委員会に求められて出席し、フル規格は受け入れられないとの意見を述べたが、昨年8月、与党検討委が「フル規格が適当」との基本方針を決定した。
 佐賀県の立場からすると、隣の家の人から表通りに出るためにあなたの庭に歩道を造ってほしいとお願いされて協力していたのに、速く行きたいので歩道ではなく高速道路にしなさいと後になって言われているようなもの。これまでに関係者で合意、約束してきたことが守られていない。
 足立課長 新幹線のネットワークが広域につながることは大事。佐賀県にとっても隣の長崎県が求めるからつなぐということを超えた、いろんなメリットがある。九州だけでなく本州とつながることで、翻って佐賀県にとっても交流人口が増えるなど経済や生活に影響はあると思う。
 鉄道行政を担う者としてFGTの技術開発が進まなかった責任は痛感しているが、そこで立ち止まっていてはいけない。関係者の意見や努力もあって、フル規格、ミニ新幹線、FGTの比較をして、与党からはフル規格でどうかとの提案があった。過去の経緯をしっかり反省した上で、この地域の未来について一緒に考えていきたい。

◇新大阪直通
 南里部長 (協議入りの前提として佐賀県が示した確認文書のうち)「西九州ルートから山陽新幹線への乗り入れ(新大阪直通)にはこだわらない」の文言を削除するよう国交省が求めている。これでは国交省が新大阪直通にこだわっていることになり、フル規格かミニ新幹線(の選択肢)しかない。国交省は「幅広い協議」を呼び掛けているのだから、「新大阪直通にこだわらない」ことの何が問題なのか。
 足立課長 私たちも五つの選択肢(スーパー特急、FGT、リレー方式、ミニ新幹線、フル規格)の議論を求めている以上、事前にどれかに決めた上で議論するつもりはない。ただ「こだわらない」は主観的な表現なので、新大阪直通は考えないというニュアンスにも取れる。この部分は中身の話なので、協議の中でしっかり議論すれば良いのではないか。
 南里部長 ここはものすごく大事な部分。しっかり議論しないといけない。課長が「内容の話」と言うのであれば、これ以降、協議に入ったことにしていい。
 足立課長 大変前向きな言葉をいただいた。しっかり受け止めて、必要なデータや数字を示しながら分厚い議論をしたい。

◇数字の確約
 南里部長 五つの方式の議論の前提として、列車の本数、ダイヤ、料金、地元負担など、いろいろな条件がある。そうした数字が確定していないと議論できないので示してほしい。
 足立課長 条件や数字は非常に大事。あらゆる公共事業では前提を置いて試算をして投資をするかどうかの判断をする。責任を持って最新のデータを示したいが、新幹線など何年もかかる事業の場合、その間に社会情勢の変化も起きるので、(将来にわたって最初に示した)数字を確約するのはつらい。
 南里部長 佐賀県は(フル規格を)造ってくれとは言っていない。一番低い数字を示されて、後からどうなるか分かりませんよと言われても。いずれにしても確約は難しいと理解した。

◇タイミング
 南里部長 北陸新幹線など他の線区の財源確保に関する与党の議論やスケジュールの都合で協議を進めることはあり得ない。今の状況は既視感がある。2004年、(長崎ルート着工の前提となる)肥前山口-諫早の並行在来線のJR九州からの経営分離問題では、北陸などとの財源の議論があり、当時の古川康知事が財源確保のため「経営分離はやむを得ない」と大きな政治判断をした。
 足立課長 新幹線整備を考えるとき、財源は一番大きな問題。国全体では(新鳥栖-武雄温泉だけではなく)他の整備区間もあり、限られた財源をどう配分するのか。少なくともこれまではその都度(複数の線区の)財源を一緒に議論してやってきている。
 今残っている区間は新鳥栖-武雄温泉と北陸新幹線の敦賀(福井)-新大阪。北陸の方は環境影響評価(アセスメント)も進んでおり、22年度の金沢-敦賀の開業に合わせて財源の検討をしている。北陸と一緒のタイミングで財源確保を考える可能性を否定して良いのか。
 南里部長 スケジュールありきで議論しない。そこは譲れない。
 足立課長 (五つの選択肢を)協議して決まった方式でやりましょうとなった時に、財源がありません、整備が遅れるとなると、佐賀県にも九州にも取り返しがつかないことにならないか。
 南里部長 これまでも財源問題があるから、FGTでやるから、と言われて整備計画に乗っかってきたのに、結果的にだめになりましたと。その責任は佐賀県にはない。財源の都合を言う前に、しっかり議論しようとならないのか。
 足立課長 しっかり議論したい。その際、財源も大きな課題になる。

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