私は立ち上がる。撃たれた友の声となる為にーー黒人差別問題に立ち向かう女子高校生を描いた「ザ・ヘイト・ユー・ギヴ」発売!

ギャングが徘徊し、 ドラッグが蔓延する黒人街ガーデン・ハイツで生まれ育った少女スター。 一方で、 裕福な白人の子らが通うウィリアムソン高校にも通っているスターは、 それぞれの世界での自分を仕立てて生活していた。

ある夜、 参加したパーティーの帰宅途中で、 幼馴染のカリルが白人警官に撃たれ命を落とす所を目撃してしまう。 だが警察は、 無抵抗のカリルを撃った白人警官の行為を正当化するため、 カリルを極悪人に仕立て上げようとする。 スターの眼前で起こった恐ろしい事件が、 まるで見えない力に歪められるように、 「真実」とは異なって世間に広まって行く。 悩み、 怯えながらも、 カリルの声になることを誓ったスターは、 カリルの汚名をそそぐ為、 証人として法廷に立つことを決意する。

本作は2017年、 アメリカで刊行前から話題となり、 数々の賞を受賞した新進気鋭の作家アンジー・トーマスによる、 社会派ヤングアダルト小説。世界30か国で翻訳出版され、 日本語版は2018年3月に刊行、 「第65回 全国課題図書コンクール(高等学校の部)」に選定。 アメリカでは「最も影響のあるティーン」に選ばれたアマンドラ・ステンバーグ主演で、 20世紀FOXにて映画化もされました(日本劇場版未公開、 デジタル配信中)。

本作の原タイトル『The Hate U Give』は、 アメリカのヒップホップアーティスト・2Pac(トゥパック)が入れていたタトゥ「Thug Life(「The Hate U Give Little Infacts Fucks Everybody」―子供に与えた憎しみが全てを蝕んでいく―の略)」から取ったもので、 差別によって植え付けられた憎しみが悲しみを生み、 それが未来を暗いものにするという、 黒人の置かれた社会の現状と、 今なお根深く残る人種差別問題を端的に表している。

これまでにも、 アメリカでは白人警官が職務中に黒人を死亡させる事件が起き、 大きな社会問題となってきましたが、 2020年5月25日に、 ミネソタ州ミネアポリスで黒人男性が白人警官の過度な拘束によって亡くなる事件が発生、 黒人差別に対する抗議、 デモは全米のみならず世界に広がっている。報道では暴徒化したデモや略奪行為がズームアップされているが、 一方で暴力に訴えず、 声を上げる事で平和的な抗議活動を根気強く続けている人々も多くいる。

本作で声を上げようと立ち上がるスターは、 黒人の高校生の女の子。 彼女の生まれ育った黒人街と、 学校生活で出会った白人の友人たちやボーイフレンドが居る2つの世界で、 悩みながらも生きるスターは、 これまでは白人との共存の為に沈黙を決めていた。 しかし、 真実を歪められ、 汚名を着せらてしまった幼馴染のカリムの声となるべく、 勇気と決意を持って、 この根深い社会問題に真正面から立ち向かって行く。

著者は、 本作がデビュー作となったアンジー・トーマス。 元ヒップホップアーティストで、 その後ベルヘブン大学で創作(クリエイティブ・ライティング)を専攻し、 在学中に本作の執筆を始めた女性作家。 本作は刊行前からアメリカで話題を集め、 多数の出版社が出版権獲得のために名乗りをあげたり、 「ニューヨークタイムズ」のベストセラーランキング(YA部門)で、 3か月にわたり1位を獲得したりするなど、 大きな注目を浴びている若手作家だ。

翻訳は、 法律事務所に勤める傍ら、 翻訳者として活躍する服部理佳。 原書ではブラック・カルチャー独特の言い回しや固有名詞が多数登場し、 社会問題をテーマにした難しい内容でありながら、 会話のテンポの良さや軽妙なジョーク、 繊細な心理描写や法廷での臨場感溢れるシーンなど緩急を交えた読みやすい翻訳で表現。

日本では未だ馴染みの薄い人種差別問題ですが、 決してそれは他人事でも遠い他国の出来事でもなく、 無関心ではいられない世界的に大きな問題となっている。対象読者である中学生、 高校生はもちろん、 今まさに世界で起こっている事を知る一助として、 大人でも十分に読み応えのある作品。

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