日常生活と予防の両立の難しさ実感 コロナ感染者再増加の韓国から「第2波」を考える

感染者が訪れていたソウル市内のクラブを消毒する保健所関係者=5月12日(聯合=共同)

 日本では5月25日に新型コロナウイルス感染症の流行に伴う緊急事態宣言が解除された。経済活動が徐々に再開し、日常生活が少しずつ戻りつつある。発令から約1カ月半もの間、自粛生活を余儀なくされてきた国民からは安堵(あんど)の声も聞かれる。一方、東京都や北九州市など、その後感染者数が一時増加に転じた都市もある。これを受け「第2波」到来への懸念も出ている。

 筆者が暮らす韓国では日本より一足早い5月6日に厳格な防疫策が緩和され、日常生活を送りながら感染対策を取る「生活防疫」への移行が始まった。ところが、直後にソウルの繁華街で集団感染が発生した。その後も感染者が発生し続けている。一時は新規感染者をゼロに抑え込み、感染防止体制の高さを世界から称賛された韓国で今、何が起きているのだろう?(釜山在住ジャーナリスト、共同通信特約=原美和子)

 ▽気の緩み

 韓国政府がソウルのクラブで集団感染が発生したと発表したのは5月8日。防疫策の緩和から2日後のことだった。その後も物流センターや教会など首都圏で集団感染が相次いでいる。

 韓国政府は緩和を維持する目安の一つとして1日当たりの感染者数が50人を超えないことを挙げていた。新規感染者が79人を数えた同28日に再び外出自粛を呼び掛けるなど首都圏の感染防止策を一部強化した。その後も首都圏を中心に感染拡大が続き、目安の50人を超える日が何度もある。効果が表れているとは言えない状況だ。

 なぜ、こんなことが起きているのか? 集団感染が起きた場所では、マスク着用が徹底されていなかったり密集して食事などをしていたりしたことが分かっている。また、ワクチンや治療薬がまだ開発されていないにもかかわらず「新型コロナウイルスを克服した」という達成感が広がって気が緩んでいるとする指摘も出ている。

5月6日、マスクを着用した市民らで混雑するソウルの地下鉄駅(聯合=共同)

 ▽ 反動

 防疫策緩和の発表前から感染再拡大を懸念する声は少なくなかった。一部の制限が緩和された4月30日~5月5日の大型連休に韓国有数の観光地である済州島を訪れた旅行客にマスクをしていない人が目立ったからだ。

 同8日の発表時にも「油断禁物」と慎重さを求める意見が多く上がっていた。

 韓国政府も緩和に当たって30項目を超える行動ガイドラインを設けた。そのうちの五つを基本原則として提示した。①体調が悪い場合は3~4日間自宅で過ごす②人とは両腕を広げた距離を取る③手洗いは30秒間行う。せきは手でなく袖で受ける④1日2回以上の換気と定期的な消毒⑤距離は離れても心は近くにいる―だ。

 しかし、長期にわたる日常生活への制限は国民に大きな負担となっていた。緩和が発表された直後には多くの人が繁華街や行楽地に出かけたことが報じられた。。ソウルの地下鉄駅なども市民で一気に混雑した。我慢を強いられていたのだから、人々の行為を安易に批判することは難しい。外に出かけたいという心情は筆者にも良く理解できる。

 だが、これらの「反動」がソウルの集団感染につながったのも事実だ。

5月20日、韓国・大田の高校で、透明な仕切り板を取り付けた机の前に座る生徒ら(聯合=共同)

 ▽ 勉強より健康

 一方、新型コロナウイルスは人々の考え方や行動を変えつつある。

 今回の感染拡大を体験したことで、マスク着用や消毒液の常備など韓国国民の衛生管理意識が大きく向上したという印象を受ける。5年前に中東呼吸器症候群(MERS)が韓国で流行した時に生まれた変化が完全に定着しているのだろう。

 さらに、長期間に及んだ休校で生活に大きな影響を受けた生徒たちにも変化が見える。中でも高校3年生に顕著だ。

 大手教育関連企業が高校3年生の316人を対象に「学校での授業」と「オンライン授業」に関する評価を尋ねたところ、54%が「オンライン授業の方が良い」と回答した。理由としては、生徒たちは学校の予防対策に対する不満や不安があるという。

 韓国は「超学歴社会」と言われる。高校3年生の多くが大学受験を控えている。本来ならば登校して授業を受けたいはずだ。にもかかわらず、オンライン授業を優先したいという回答が過半数を占めたのは、勉強より健康を優先したいという気持ちの変化が起きているからなのだろう。

 これは韓国社会にどのような変容をもたらすのだろう。とても興味深い。

QRコードを使った身元確認が試験的に導入された教会の入り口でスマートフォンをかざす入場者=2日、ソウル(共同)

 ▽日本はどう臨む

 韓国で起きた感染者の再増加は、日常生活と予防を両立させる難しさを浮き彫りにした。これは日本も避けては通れない問題だ。

 韓国政府は厳しい態度で臨むようだ。10日からは新型コロナウイルスの集団感染が発生した場合に備え、カラオケやクラブなどの遊興施設を対象に、入店した客にQRコードを使って身元を確認させる制度を義務化した。

 また、バスや地下鉄の公共交通機関ではマスクを着用を徹底化した。運転手や保安員がチェックし、場合によっては乗車を拒否することもある。これにより街中でのマスク着用率はほぼ100%に達している。

 日本でも同様の動きはあるが、あくまでも「任意」だ。韓国とは違い、厳しい措置は選択しないであろう日本はどのような方策を見つけるのだろうか。

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