識者に聞く、後悔しない“東京都知事”選び 6月18日告示、注目すべきポイントは

 「首都の顔」を決める東京都知事選が6月18日に告示される。一地方選とは言え、話題性のある候補者が出馬することも多く、日本中が注目する。高度な行政手腕が求められる一方で「人気投票」に陥りやすいのも特徴だ。目下の優先課題は、新型コロナウイルスや経済対策だろう。同時に、急速に進む高齢化や老朽化するインフラ対策など中長期にわたるテーマも避けられない。 「こんなはずじゃなかった」と後悔しないために、有権者はどんな点に注目したらいいのだろうか。都政に詳しい2人の識者に聞いた。(共同通信=松本鉄兵)

前回の東京都知事選で、候補者の街頭演説に集まった人たち=2016年7月、東京都内

 「都知事選では、有権者と候補者が直接触れる機会が少ない分、どうしても見栄えやアピールの仕方などイメージが先行してしまう」

 石原慎太郎都政下の1999年からの4年間、副知事を務めた青山佾(やすし)・明治大名誉教授は、1千万人の有権者を抱える都知事選の特異性を指摘する。

 従来型の選挙運動と言えば、一カ所に多くの人を集め、声を張り上げ、握手して回る密閉・密集・密接といった「3密」の典型だ。新型コロナ感染への警戒が必要で、こうした活動は大きく制約されそうだ。

 ネットを含めたメディア型選挙の加速が想定される中、青山氏は、候補者の主張の変化に目を凝らすべきだという。「候補者の中には、ライバルとの議論を通じて政策をどんどん磨いていく人がいる。最初に掲げた政策だけではなく、それがどう磨かれていったかも見ていくことが大切だ」

 有権者の最大の関心と言えば、感染症対策と厳しさを増す経済の立て直しだろう。特に都内に所在する企業のうち99%を占める中小零細事業者にとって景気回復は切実だ。

 再選を目指し、立候補を表明した現職の小池百合子氏(67)は、新型コロナ対策に総額1兆円超の予算を編成した。「経済の両立と第2波に備えたい」と語り、中小企業支援などのメニューをそろえる。

 飲食店など「密」を前提に収益を上げるビジネスモデルは成り立たなくなってきている。青山氏は、コロナ後の都市生活スタイルとして「新しい政策へのニーズが高まっている」と話し、選挙戦を通じてどんな提案が出てくるかも注目だという。

設置された掲示板=6月、東京都内

 そこで気になるのは、都財政だ。貯金に当たる財政調整基金は、2020年度末に9348億円を見込んでいたが、新型コロナ対策などで、このままでは底を突きそうだ。

 経済動向に左右されやすい都特有の収入構造もある。法人二税が都税収入の3分の1を占めるからだ。過去には1年で約1兆円が吹き飛んだこともあった。青山氏は「仮に『節約して財政問題を乗り切る』と訴える候補者がいたとしたら、東京の実態をほとんど知らない人だと考えていい」と語る。

 その一方で、予算や事業、人員など膨れあがる都庁のスリム化は待ったなしだと語るのは、都庁に16年間の勤務経験がある佐々木信夫・中央大名誉教授だ。「新型コロナ対策でやむを得ないとは言え、お金を使うことばかりに一生懸命になっていると都政は破綻する」と指摘する。

 同時に、10年後、20年後の東京をどう作っていくのかという中長期の構想を示さなければならないと言う。

 今後を見据えたとき、佐々木氏の念頭にあるのが「老いる東京」の姿だ。高齢化が急速に進む一方、都市インフラの劣化も進む。維持更新にかかる費用は数兆円に上るとされる。集中豪雨や首都直下地震などの自然災害で脆弱性が表面化する前に対処するリーダーシップが求められるという。

東京都庁=4月10日

 過去10年で、東京では4回の知事選が行われた。2011年の東日本大震災の翌月に行われた選挙では、石原氏が4選を果たしたものの国政に復帰するとして翌年に辞職。その後は猪瀬直樹、舛添要一両氏と続いたが、いずれも「政治とカネ」の問題で長続きせず混迷を深めた。4年前、初当選したのが小池氏だった。

 「ドタバタで、準備も政策論争も十分行われない選挙が続いてきた」と佐々木氏。新型コロナや延期になった夏季五輪など目の前の課題だけでなく、骨太の議論を強く求める。「浮ついたワン・イシューのアイデア競争は避けるべきだ」

 都知事選は18日に告示され、17日間の選挙運動期間を経て7月5日に投開票される。小池氏の他、元日弁連会長の宇都宮健児氏(73)や元熊本県副知事の小野泰輔氏(46)、NHKから国民を守る党の立花孝志党首(52)ら十数人が立候補を予定。れいわ新選組の山本太郎代表(45)も6月15日に記者会見し、立候補を表明した。

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