警察から銀座のクラブまで…多彩な職歴を持つコミュニケーションのプロが語るテレワークの極意

リノベーション──一般的には「住まいの改修・改善」のことをこう呼びますが、空間環境だけではなく日常生活全般をもリノベーション(改革・刷新)すると、QOLはよりいっそう向上していくはず。LogRenoveでは、日々の何気ない暮らしのなかで、我々が直面するさまざまな悩みの解決策を、斯界の識者とともに探っていきます。さあ、私たちと一緒に「ライフスタイルのリノベ術」を追究していきましょう。

Q.新型コロナによる緊急事態宣言解除後でも、私の勤め先は「必要がなければ出社しなくてもいい」「なるべく営業やミーティングはオンラインで」という社風へと変わりつつあります。しかし、外出自粛中は仕事だけじゃなくオンライン飲み会にもチャレンジしてみたのですが、どうも馴染むことができません。こんな私でもすぐ実践できるネットコミュニケーション術があれば、教えてください。(40歳・既婚男性/広告代理店勤務)

「相手に対するリスペクト」の気持ちを服装でも最大限にアピールする!

新型コロナショックをきっかけとしたビジネス・ライフスタイルの急速なリモート化は、もはや止めることも避けることもできない“時代の流れ”だと言えます。これからは苦手であろうがなんであろうが、無理にでも馴染んでいくしかありません。

今日は警察官から銀座のホステスまで、豊富で振り幅の広い経験に裏付けられたコミュニケイト理論を持つ、コミュニケーションのプロ・藤田尚弓さんから、オンライン営業やミーティングで留意すべきことについて、いろんなアドバイスをいただきました。

まず、いくら“ネット上で完結できるやりとり”とはいえ「外見・服装に関して手を抜くのは絶対に禁物!」と藤田さん。

「外見が与える視覚情報は印象形成に決定的な作用をもたらします。同じ内容の話でも外見によって、その受け取り方も変わってくるものです。とにもかくにも大切なのは“清潔感”。清潔さの有無は加齢するほど表面化しやすく、それに反比例して気配りは散漫になりがち…。今のパソコン、スマホやタブレットはかなり性能も優れているので、予想以上にあなたの“リアル”が画面に映し出されていることを肝に銘じ、洗顔や整髪、男性ならヒゲ剃りなどもキチンと怠らないようにしておきましょう」(藤田さん)

オンラインでのやりとりばかりが連続すると、営業先の担当者やミーティングの参加者から「自分が軽く見られているのでは…と誤解されるリスクがある」とのこと。そう思われないためにも、相手に対するリスペクトの気持ちを服装でもアピールしなければなりません。

「社内のミーティングでも最低限、襟のある服装で。できればジャケットを着用しましょう。営業の場合、ジャケットはマスト。ちなみに、ラペルがしっかりとしたジャケットやスーツのほうが優秀に見えて、役職も高く見える傾向があるようです。また、オンラインだとどうせバストアップしか映らないから…と、上半身だけオシャレで下はパジャマ…みたいなチグハグコーデで済ます人も増えていますが、それはあまり感心できません。不思議なもので、こうした“油断”はしゃべり方や場の雰囲気に微妙な悪影響を及ぼします。可能ならば、背景に本棚をさり気なく置いてみるのも一つの手。深い知識の持ち主だと評価してもらえる効果が期待できる。ただし、漫画オンリーとかじゃ逆効果(笑)。並べておく書籍は厳選に厳選を重ねましょう」(藤田さん)

重要なのは“話し方”と“相づち”

見た目も大切だが、何よりも大切にしたいのは「話し方」と「相づち」

どんなに外見や服装に手間ヒマをかけたところで、肝心のトークが力量不足だと、すべてが台無しにもなりかねません。ここは藤田さんが銀座のクラブで磨き上げてきた“必勝のテクニック”をぜひお伺いしたいものです。

「あくまでビジネス上のコミュニケーションなので、会話の内容については今さらあれこれ言いません。むしろ重要なのは“話し方”と“相づち”です」と藤田さんは断言します。では、最初に“話し方”についてのノウハウから。

「オンラインツールは2秒程度のタイムラグが生じるケースも多いため、お互いの言葉がかぶってしまいがち。それを想定して、リアクションは普段より半拍から一拍ほど、遅めにズラすよう心がけてみてください。話すテンポも気持ちスローに。“早口”はクレバーさを相手にイメージづける効果がありますが、オンラインだと聞き取りづらくなるので、おすすめはできません。オンラインでは、実際に対面しての会話のときより聞き取りづらい場合もあるので、相手に自分の意見をクリアに伝えるため皆さん、よりハッキリしゃべるきらいがあるのですが、度が過ぎると、質問の際にその発言が批判っぽく聞こえてしまうことも…。なにかを問いかけるときには、心もち口調をマイルドにするよう努めてみましょう」(藤田さん)

銀座の世界では「うなづきは打ち出の小槌! 首を横ではなくタテに振ることによってお宝が生まれる」という格言があるんだとか……。「話を聞いている風に見える」のと「単に聞いているだけ」では雲泥の差があるわけです。そういう意味でも“相づち”はその良し悪し次第で、相手が受ける印象をも大きく左右するのだそう。

「そもそも日本人は『言語より非言語』──言葉に頼りすぎない文化に慣れているので、オンライン上だけではなく“相づち上手”は、それだけで好感度もグンとアップします。とは言え、飲み会ならまだしもビジネスの場で『うん、うん!』とせかせか大袈裟にうなづいているばかりでは、逆に相手が『馬鹿にされているんじゃないか…?』と懸念を抱きかねません。相づちは小出しにせず極力ゆっくり、『ここだ!』というタイトなタイミングですかさずどっしりと。使う言葉は『はいはい』でも『ふむふむ』でも『ほう!』でも『なるほど!』でも……なんだってかまいません。“難易度が高い”とお困りのあなたは、とりあえずは相手の口調やタイミングを真似する“ミラーリング”にチャレンジしてみてください。ただ、どこまで完璧にこれらをこなしても、先にも申したとおり『オンライン=自分が軽く見られている』との“残像”は払拭しきれないのかもしれません。そうならないためにも、会話中に『他でもない○○さん〜』といった、ことさら“相手を重んじている気持ち”を込めた言葉を散りばめてみてはいかがでしょう」(藤田さん)

ビジネストークとは言っても“雑談”は多少でも交えるべき

「オンラインのミーティングや営業は切り上げどきがむずかしい」という声をよく聞きます。そんな悩みに対して、藤田さんが提案する解決法は以下のとおり。

「事前に時間を決めるのがポイント。前もって先方に『何時から何時までお時間をいただけますか』とメールなどでお伺いを立てておけばいいだけのことで、これはなにもオンラインにかぎった話ではありません。ダラダラと長くならないようにするのはもちろんですが、“雑談”は多少したほうがいいでしょう。とくに先方が初対面だったりするときは、アイスブレイクを考えてから臨むべき。目安時間はアイスブレイク2分、切り上げの雑談2分を基準に、相手との関係性によって微調整しましょう。切り上げどきは基本的には進行役にまかせてかまいませんが、自分がイニシアチブを取らなければならない場合は『以上ですが、他になにかご質問などありますか?』で締めるのがベスト。相手に“終了”をソフトに伝える、一番のフレーズです」(藤田さん)

リモートワークにさまざまな戸惑いを感じているあなた──しかし、その原因はじつのところ「大半の人たちがまだ利用して間もないネットコミュニケーションツールに慣れていないだけ」で、“試用時期”である今は、過剰に意識しすぎず緊張せず、原則としては“通常通り”に取り組むほうがベターなのかもしれません。

藤田 尚弓(ふじた・なおみ)

コミュニケーション研修講師・早稲田大学オープンカレッジ講師・悪女学研究所所長・コラムニストなど、肩書き多数。全国初の防犯専従職として、モデル地区に指定された地方警察署の生活安全課にて防犯のコミュニケーションデザインを担当。広報誌の編集、行政や民間への交渉、防犯キャンペーンの企画立案などを行う。その後留学し、銀座のクラブ、民間企業の営業職・管理職を経験、株式会社 アップウェブ代表取締役に就任。企業と消費者をつなぐコミュニケーションデザインを行っている。

取材・文:山田g事務所

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