<いまを生きる 長崎コロナ禍> 「いのち」躍動させる芸術 長崎ウエスレヤン大名誉教授 内村公義さん 悩みや悲しみ、そっと受け止め

 人間は誰もが死に至る-。そのような存在である限り、逃れることができない「いのちの痛み」に向き合う場所がある。諫早市栄田町の住宅街の一角に立つ「風の舎(いえ)」。長崎ウエスレヤン大名誉教授の内村公義さん(80)が8年前に開設。悩みや悲しみを語る人をそっと受け止めている。
 「死生学」-。さまざまな角度から「死」と「生」を考える学問。内村さんが2006年から始めた講義は現役学生のほか、社会人らにも支持された。同大退職後の11年春、NPO法人を設立、市民講座「ウエスレヤン・コミュニティカレッジ」を同大を会場に続けてきた。

「今こそ芸術!」と題して、芸術作品に込められた「生」を語る内村さん=諫早市、「風の舎」

 今年3月、NPOは解散したが、4月以降も講座は継続する予定だった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大のあおりを受け、開講できず。緊急事態宣言が解除された後も会場確保が難しく、中止を決めた。
 「このまま家にいてもよくない」-。そう思い立ち、5月下旬から始めたのが番外編の講座「今こそ芸術!」。「風の舎」に集まり、小説や絵画、詩歌、絵本などを鑑賞する。
 生命と生活-。コロナ禍の下、「いのち(ライフ)」という言葉が持つ二つの意味のはざまで、人々は追い込まれた。「感染からお互いの身を守るため、家に引きこもる。そうすると、経済活動を含めた生活が成り立たなくなる。そんな時、芸術の中にある命の躍動に触れると、少しだけ元気になれる」と内村さん。
 10日のテーマは、古典和歌と近代短歌。7人が参加し、内村さんが選んだ和歌と短歌を詠み、それぞれの感想を語り合った。
 山かげの岩間(いわま)をつたふ苔水のかすかに我れはすみわたるかも
 江戸後期の僧で歌人の良寛の歌。内村さんは簡素な修行生活を送った生涯をこう解説した。「岩間をつたう清水(きよみず)のように澄みきった心で歩み通した。悲しみも苦しみもあるがままに受け入れる諦念があった。今の時代に心に染みる歌」
 芸術は参加者それぞれの「心と目を外へ広げる」空間。内なる思いを自由に受け止める。「(コロナ禍で)外出できず、人とも会えないけど、本を読んだり、考えたりすることはできる。懐かしい友人から手紙が届いて、ちょっとしたプラスもあった」「県内の感染者をめぐるデマを耳にした。そうならないためにも、日ごろの近所付き合いが大切かを教えられた」
 内村さんはこう言う。「私たちは今、不要不急のことをやっている。一見、役に立たないものに見えるが、打撃を受けているからこそ、人は一体、何によって生きるのか、あらためて問い掛ける機会になっている」

 「今こそ芸術!」は6月第3週、7月第1、2週の水曜、金曜午後1時~3時。参加費各回千円。問い合わせは風の舎(電0957.47.8090)。


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