『サンダーロード』スプリングスティーンの音楽で踊りまくる不器用警官が愛おしい

 テキサス州オースティンに世界中から約40万人が集う世界最大規模のクリエイティブの祭典のSXSWでグランプリを獲得した本作は、米映画界の新鋭ジム・カミングスが監督・脚本・編集・音楽・主演の1人5役をこなして完成させた作品。

 元々は、2016年サンダンス映画祭で短編部門グランプリに輝いた作品で、それは母親の葬儀で娘のラジカセを借りて、母親が大好きだったブルース・スプリングスティーンで踊る警察官ジムの姿を1テイクで撮影した12分の短編。映画監督たちにとって登竜門の一つであるサンダンス映画祭で大喝采を浴びた作品を、カミングス監督が改めて自分で資金を集め、長編作品に仕上げた作品です。元になった短編は、日本語字幕はありませんが公式サイト上でも観られるので、よかったらぜひ観てから劇場へ行ってみてください。

 長編では、ジムの役柄もバックグラウンドもさらに幅が広がります。妻との別居、仕事はうまくいかない、愛する娘とはなかなか会えず、その上母親まで亡くしてしまうという踏んだり蹴ったりのジム。おまけに母親のお葬式でのダンスが、まさかの娘の親権争いでの離婚調停で「警察官の奇行」の証拠として提出されてしまうという斜め上の設定に! 心底いいやつなのに、コミュニケーションを取るのが下手くそで、不器用にしか仕事も家族も友人関係も送れないジムのことを映画を観ているうちに大好きになっていきます。ジム・カミングス監督は、これからきっと頭角を現してくる気鋭の新人監督なので、ぜひこれから注目していって欲しいです! ★★★★☆(森田真帆)

監督・脚本・主演 ジム・カミングス

6月19日より全国順次公開

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