元F1王者マンセル、現代のドライバーは「レース後でもまるで美容院を出たばかりのよう」と皮肉

 1992年のF1世界王者であるナイジェル・マンセルは現代のF1ドライバーたちについて、今どきのマシンは肉体的負担が少ないので、レースを戦った後の彼らがまるで「美容院から出てきたばかり」のように見える、と皮肉を込めて語った。

 マンセルがモータースポーツの最高峰であるF1でキャリアを積んでいた時期は、ターボエンジンやグラウンドエフェクトカーによる危険と向き合わざるを得なかった。ひとつの単純なミスがドライバー人生に終止符を打ちかねない時代だったのだ。

 昔と今とでは様々なレベルで著しく対照的なため、31回のグランプリ優勝を誇るマンセルも異なる時代のドライバーを単純に比べることには否定的だ。それでもマンセルは、6度の世界チャンピオンであるルイス・ハミルトン(メルセデス)ならば、1980年代から90年代初頭にかけてのF1でもうまくやっていけただろうと考えている。

 66歳になったF1のレジェンドは「ルイスならそうした状況のもとでもうまくやれたと思う。ただ、異なる時代を比べることは非常に難しい」と、『Daily Mail』に対して語った。

「そのころは、多くの優れたドライバーたちが単純なアクシデントでも脚や腕、どこかを骨折するなりして、キャリアを断念せざるを得なかった。今は、たとえ優秀なドライバーが大きなミスを犯したとしても負傷したりしない」

「彼らはマシンの中でもほとんど汗をかかない。レースが終わってマシンから降りても、まるで美容院から出てきたばかりのように見える」

「私の時代について良かったと思うのは、たとえば180回ものグランプリを戦った後でもまだ無事でいられたら、素晴らしいドライバー人生を送れたといって自らをほめてやれたことだ」

2016年F1第10戦イギリスGP グリッド上で会話を交わすバーニー・エクレストン&ナイジェル・マンセル

 フェラーリとウイリアムズで活躍してきたマンセルは、ハミルトンがスポーツで打ち立てた見事な成果は彼の才能の成せる業だが、同時にメルセデスとの関係が非常に良好だからでもあると考えている。

「非常に若いころから彼は素晴らしい機会を与えられてきた」と、マンセルは述べた。

「ミハエル・シューマッハーと同様、ハミルトンも自身の能力を発揮するうえでマニュファクチャラーからの大きなサポートを得てきた。1度目の世界選手権をマクラーレンで勝ち取り、その後移籍したチームで彼はさらに5度、タイトルを獲得することができた」

「彼はイギリスにおける史上最強のF1ドライバー、あるいは少なくともそのひとりとして名を残すだろう。そして引退までには7度目、8度目の世界王座に輝くことも十分に可能なはずだ」

 それでも、マンセル自身は「史上最高のF1ドライバー」リストの最上位にファン・マヌエル・ファンジオを据えたいという。

「私はファンジオだと言い続けている。これについてはルイスも同意してくれると思うが、当時のドライバーたちこそ真の英雄なのだ。なにしろシートベルトはなかったし、適切なヘルメットも、適切なゴーグルもなかった。ときにはグローブさえもそうだった」

「燃料タンクは両足の間に置かれていた。もし何かアクシデントがあれば、生きるか死ぬかは50%の確率だった」

「しかしルイスはよくやっている。あそこまで周囲から称賛されるのだから、多くのアドバイスも受けているだろう。これからも地に足を付け、自ら決断を下し、その決断に自信を持って戦い続けることだ」

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