「平和の象徴」が爆破されるまで 南北首脳会談で開設合意も…1年後には〝開店休業〟

16日、北朝鮮が爆破した開城の南北共同連絡事務所(朝鮮中央通信=共同)

 北朝鮮が16日に南西部・開城(ケソン)にある南北共同連絡事務所を爆破した。2年前の歴史的な南北首脳会談の成果である「平和の象徴」が無残に崩れ落ちたことに衝撃が広がっている。南北の当局者が駐在し、韓国側が「365日、24時間、相互連絡が可能になる」と期待していた連絡事務所は、いったいどのような経緯で設置されたのか。(構成、共同通信=松森好巨)

 北朝鮮は13日、韓国の脱北者団体による北朝鮮体制批判ビラ散布への報復として同事務所の破壊を予告。金正恩朝鮮労働党委員長の妹、金与正党第1副部長は同日「遠からず、無用な連絡事務所が跡形もなく崩れる」という談話を発表していたが、わずか3日で現実化させた。

 他方、就任以来融和路線を掲げてきた韓国の文在寅大統領にとって連絡事務所は南北協力の象徴的存在であり、政権最大の成果の一つ。文氏は15日に北朝鮮に対話を呼び掛けたばかりであり、大きな打撃となった。

16日、北朝鮮が爆破した開城の南北共同連絡事務所(手前)(朝鮮中央通信=共同)

 「無用」「平和の象徴」と対照的に言い表された連絡事務所だが、その始まりは希望に満ちていた。

 18年4月、金委員長と文氏は板門店(パンムンジョム)の韓国側施設「平和の家」で会談し、「南北は完全な非核化を通して、核のない朝鮮半島を実現するという共通目標を確認した」とする「板門店宣言」に署名した。

韓国側板門店で会談を前に握手する文在寅大統領(右)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=18年4月27日(韓国共同写真記者団・共同)

 金委員長が北朝鮮の最高指導者として初めて韓国の地を踏み、「対決の歴史に終止符を打つために来た」と会談の場で述べるなど、高まる融和ムードの中で合意されたのが連絡事務所の設置だった。

 その後、同年9月14日には開城で開所式が行われ運用が始まった。事務所には韓国側の関係省庁の職員ら約20人が勤務し、北朝鮮側も同規模。南北双方の所長が週に1度会議を開き、民間団体の交流を支援するなど幅広い役割を担うことを期待された。実際、開所から3カ月の運用状況をまとめた韓国政府の発表によると、南北間の会談や協議が280回以上実施されるなど南北関係改善の舞台となっていた。

18年9月、北朝鮮の開城で行われた南北共同連絡事務所の開所式(韓国取材団・共同)

 ところが、19年2月末の米朝首脳再会談が物別れに終わって以降は風向きが変わっていく。双方の所長らによる定例会議が行われなくなったほか、同年3月末には北朝鮮側が事務所から撤収する事態も起きた。数日後には復帰したものの、所長による会議が再開することはなく、開所から1年が経過するころには「開店休業」と評される状態だったという。また今年1月には新型コロナウイルス予防を理由に運用が停止していたことも明らかになっている。

 北朝鮮は17日になって、南北経済協力事業が行われていた開城や金剛山(クムガンサン)への部隊展開や前線地域での訓練実施などの「軍事行動計画」を予告。南北融和の象徴的現場がまたも危機を迎えている。

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