【フィンランド】国語は多言語が当り前 大切なのは子どもがもつ「興味と関心」

今回から、フィンランドの義務教育におけるコアカリキュラムを読み解きながら、フィンランドで大切にされていること、子どもにとっての学びのエッセンスについてお届けしたいと思います。なお、カリキュラムは「小学1〜2年生」「小3〜6年生」「中学1〜3年生」というカテゴリに分かれていて、本記事ではもっともベーシックな時期である「小学1〜2年生」にフォーカスを当てて紹介していきます。

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私がフィンランドの教育に興味をもった理由

フィンランドの小学校では6月から夏休み。コロナ休校が明けて2週間足らずで夏休みに突入することには、賛否両論があったよう

ここで私がなぜフィンランドのコアカリキュラムを読んだり、こうして日本語の記事を書いたりしているのかについて、少しお話ししたいと思います。

2015年から2017年の2年間、フィンランドの大学院で教育科学を専攻し、フィンランドに根づく教育観や、学校教育において大切にしている科学的アプローチ※に触れ、大きく影響を受けました。

※教育は実践の場であり、うまく行った場合もそうでない場合もデータを基に次の実践へつなげる、という先生たちの考え方

また現地の小学校へも何度も出向き、授業を見学したり子どもたちの様子をみたり、先生たちとコミュニケーションをとっているうちに、「先生・生徒・保護者・学校運営者、そして現場を貫いている“理念”や“基本方針”をもっと知りたい」という欲求が出てきました。

そして、”NATIONAL CORE CURRICULUM FOR BASIC EDUCATION”の英語版を手に取り、フィンランドで体験したことや自分が学んだことと照らし合わせて読みました。そこに書かれていた“学び”や“学ぶ目的”、“学ぶ方法”に強く共感し、「自分が子どものころに楽しかったこと、やりたかったことに近い!」とワクワクし、大人になった今でも「日常生活に学びは溢れていて、私は今でも学べている!」と実感できました。

だからこそ、自分の学びの概念を拡げ深めるためにも、フィンランドの教育に興味をもっている方とポジティブな感覚を共有できたら……と願って書いています。

500ページに及ぶフィンランドの義務教育カリキュラムの本。読むたびに発見がある
学校や教育は子ども個人のため、という考えがフィンランドでは強いと感じる

国語の概念が大きく違う、日本とフィンランド

今回は、フィンランドの小学1〜2年生における教科の一つである「国語教育」について、紹介します。

日本とフィンランドの学校教育の間には、「国語」という概念に大きな違いがあることを、まず前提としてお伝えします。フィンランドはヨーロッパの一部であることも影響し、移民が多く、国の言語であるフィンランド語を母国語としない子どもの割合が一定数あります。さらに400年ほどの間、隣国のスウェーデンに統治されていたこともあり、公用語は「フィンランド語」「スウェーデン語」の2カ国語あります。

※公務員になるためには、フィンランド語・スウェーデン語・英語の3カ国語をある程度使える必要があります。

移民の割合は地域によってさまざまですが、私がよく訪問していたヘルシンキ郊外の小学校では、クラスの半数以上の子どもの母国語は「フィンランド以外の言語」で、さらに英語も話せないという状況でした。先生は生徒との意思疎通にとても苦労していましたが、「多様性」をとても大切にしており、カリキュラムからも“すべての子どもたちが自分の母国語を起点として豊かに学ぶべきだ”と考えられていることがわかります。なんと「国語」のカリキュラムには、複数のシラバスがあるのです。

  • Pupil’s mother tongue 子どもの母国語,Syllabus in mother tongue and literature 母国語におけるシラバス,Second national language 第二言語(第二の“国語”)
  • Core,Core,Optional
  • 1.フィンランド語,フィンランド語・フィンランド文学,スウェーデン語,―
  • 2.スウェーデン語,スウェーデン語・スウェーデン文学,フィンランド語,―
  • 3.サーミ語 (フィンランド北部),サーミ語・サーミ文学とサーミ語話者のためのフィンランドorスウェーデン語,―,フィンランド語orスウェーデン語
  • 4.サーミ語(同上),フィンランドorスウェーデン語とフィンランドorスウェーデン文学と、サーミ語・サーミ文学,―,フィンランド語orスウェーデン語
  • 5.ロマ語,フィンランドorスウェーデン語・フィンランドorスウェーデン文学と、ロマ語・ロマ文学,スウェーデン語orフィンランド語,―
  • 6.手話,手話言語・手話文学と、手話を使う人のためのフィンランド語orスウェーデン語,―,スウェーデン語orフィンランド語
  • 7.他の母国語,子どもの母国語を使っての一定数の言語・文学の授業をする,―,スウェーデン語orフィンランド語

一つの小学校で、すべてのシラバスをカバーすることは不可能なため、「この学校はスウェーデンのクラスがある」「この学校は補修で、“ベトナム語を母国語とする子どものためのフィンランド語の授業”がある」など、国全体や地域で、全シラバスをカバーするようにしています。

「国語」をどう捉え、そのタスクを何としているか

上記の複数あるシラバスからも分かるように、フィンランドのカリキュラムでは言語の多様性(plurilingual)を前提としています。その上で、「国語」の学びは「読み・書き」に止まらず、

The basic principle of language instruction at school is using the language in different situations.
さまざまな状況での「言語」の使用に適応すること。

としています。教科書や本に書かれたテキストだけではなく、人間関係に必要な「表情」も言語の一つですし、数学の文章題は助詞が代わるだけで回答も違ってきます。また、CMや広告で謳われるテキストは批判的視点を持って受け取る必要があります。そうしたさまざまな文化/社会/媒体の中での「言語」を学ぶことが「国語」であるとしています。

さらに、他の教科(数学・サイエンス・社会など)も、言葉なしでは進められません。そのため国語は、フィンランドで推進されている「教科横断型教育」の中心として考えられています。つまり、どんな学びをしていても、子どもは同時並行で言語(国語)を学んでいることになります。

The task of the instruction of mother tongue and literature is to develop the pupils’ literacy, language proficiency, and interaction skills and guide them towards developing an interest in language, literature, and other forms of culture and gaining awareness of themselves as communicators and language users. The development of the pupils’ everyday literacy is supported so that they learn to conceptualise observations and phenomena, verbalise their ideas, and develop their creativity.
「国語」の学びを通じてのタスクは、子どものリテラシー・言語運用能力・他者と関わるスキルの発達を助け、言語・文学・異文化への興味や「言葉を使って、生きていく個人」としての自覚を育てることです。日常の物事や事象をよく観察し、考えを言語化し、創造性を養っていくことで、子どもたちのリテラシーは磨かれていきます。

さらに、学びのメソッドやコンテンツにおいては子どもの「興味・関心」に重点が置かれています。

Key motivation factors in learning mother tongue and literature are learning topics that are meaningful for the pupils and the pupils’ experiences of participation.
子どもは、自分にとって“意味がある”“関係がある”と思えることを通して、母国語や母国語の文学を学んでいきます。

子どもの興味は個人によってさまざまですが、フィンランドの国語の授業では「国語の教科書」だけに頼らず、インターネットの記事・演劇・図書館で見つけた本やオーディオブックなど、子どもの興味関心をかなり加味したコンテンツが使われています。

とくに小学校1-2年生では、「子どもの個人の発達・能力に応じた、自己表現と他者との関わりのスキルを磨くこと」が大切にされています。フィンランドの小学校低学年でよく見る光景として、月曜日の朝に2時間近くかけてクラス全員が「土日、どんなことがあったか」を話す時間。あるフィンランド人の先生は「月曜日の朝に、子どもたちの気持ちを学校に向けることが大事だから」と言っていましたが、それは自己表現やコミュニケーションの練習の場でもあることがよくわかります。

***

次回は、フィンランドの小学校2-2年生における、カテゴリー化された「学びのねらい」「学ぶ内容」と”Transversal Competences(前回までの記事に詳細を書きました)”がどう関連しているのかについて明確に書きたいと思います。

図書館にも、フィンランド語以外の書籍がある。どんなローカルな図書館にも日本語の本が1〜2冊あった
多言語を推奨しているフィンランド。たとえ短時間でも「日本語」を知ることで子どもの言語に対する興味が育つ、と考えられていた
自己表現やコミュニケーションの“練習”をたくさんしているからか、フィンランドの子どもはよく話を聞いてくれ、シャイな様子はあったものの、質問もたくさんしてくれた。

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