写真はイメージです
何か嫌なことがあって落ち込んでいたりイライラしていたり、精神的に不安定な時。
こんな時にお酒を呑みたくなる人は多いと思います。こんな時のためにお酒はあるのではないかという気さえします。
しかし、こんな時にはお酒はあまり呑まない方がいいようです。少なくとも外で呑むのは止めた方がいいかもしれません。
大抵の場合、ろくなことにはならないからです。
渡辺英利(仮名、裁判当時70歳)はその日、細かい事情については裁判で話されませんでしたが、ひどく精神が不安定だったそうです。彼は朝から酒を呑み始めました。裁判では、
「なるべく精神が不安定にならないように頑張ります。あと、もう不安定な時でもお酒に逃げないようにします」
と話していましたが、法廷でそんなことを言っても後の祭りです。
彼はその日、酒を呑みながら松戸の競輪場に出かけました。その後、松戸の街を酒を呑みながらうろついていました。
彼の記憶が残っているのはここまでです。
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彼が逮捕されたのは上野でした。常識的に考えれば常磐線に乗ってきたのだろう、とは思いますが、何故上野にいたのか、どうやって来たのか、は覚えていないそうです。
「酔っ払った男が暴れている」
という通報を受けて、警察官のサトウはすぐに現場に急行しました。サトウが見たのは、
「おい! クソ野郎!!」
などと叫びながら神社の社務所の窓ガラスにビンや石などを投げつけて割っている男の姿でした。
後の調べで判明したことですが、彼は通報される前にもこのようにしてあちこちの神社の窓ガラスを割って歩いていました。
サトウはすぐ「暴れるのはやめろ!」と声をかけ制止を試みました。もちろんおとなしくやめるはずもありません。彼は制止に来たサトウを殴りつけました。
公務執行妨害罪の成立です。
その後、少し遅れて警察官のニシヤマも現場に駆けつけましたが、同じようにニシヤマも殴られました。
公務執行妨害、おかわりです。
逮捕後しばらくは「覚えていない」と容疑を否認していましたが、覚えていないのは間違いないにしてもこれは言い逃れなどできようはずもありません。
「なんでこんなことしちゃったんですか…?」
弁護人から聞かれた、しごく当然の質問に対して彼は、
「…酒です。必要以上に呑んでてわからなくなってしまいました。周りを顧みなくなってました。申し訳ないです」
とうなだれていました。
彼には実は平成14年にも酒を呑んで人に暴力を振るったという傷害罪の前科があるのですが、
「自分が呑みすぎるとどうなるのか、という自覚が足りていませんでした」
と話しています。呑みすぎるとどうなるかの自覚、以前の問題として彼は、
「よく覚えていないですけど、呑みすぎたとは当時は思ってませんでした。記憶にある限りでは人にケンカを売ってないし足下もしっかりしてました」
とも話しています。たとえ彼の言う「自覚」があっても「呑みすぎた」という認識を持てなければどうしようもありません。
「(呑みすぎてないという)あの時の判断は間違ってました」
と反省の弁を述べてはいたものの、それは素面の状態だからそう思うだけであって、いざ実際に酒を呑み始めれば彼が正しい判断を出来るのかは疑問です。
居酒屋やバーなどで時々、
「大丈夫大丈夫! 酔ってない! 俺はまだ呑める!」
などと、どう見ても大丈夫ではなさそうな人が大きな声で宣言をしている場面に出くわすことがあります。事件は起こさないにしても、翌朝にその人が大きな後悔に襲われるであろうことは想像に難くありません。
酒は呑んでも呑まれてはいけないのです。
さて、今回取り上げた被告人が起訴されたのは公務執行妨害だけです。窓ガラスを割られた神社は被害届を出さず、ガラス代についても、
「たいした金額じゃないから」
と弁償すら求めませんでした。
もしまたやられたら…その可能性は低くはない気がします。その時にもこんなに優しくできるかどうか、それはわかりません。(取材・文◎鈴木孔明)