米国の株高が続く必要条件となる「2つのリスク要因」解消

6月初旬まで最高値更新が続いた米国株式市場は、11日の1日で主要株価指数が約5%急落しました。3月下旬から2ヵ月以上続いた米国株の上昇局面が、変わった可能性が高いと筆者は見ています。

米国株が急落した前日(10日)には、FOMC(連邦公開市場委員会)後のパウエル議長の会見中に米国株が乱高下して変調の予兆がありました。パウエル議長が今後の景気に関して慎重な姿勢を示し、これが市場心理に悪影響をもたらしたなどとメディアでは解説されました。

ただ、パウエル議長は、経済の早期回復のために金融緩和を続ける姿勢を改めて示したほか、これまでの株高がバブルではないかとの質問にも無難な回答を行っており、金融市場に配慮したコミュニケーションを徹底しました。


金融市場の楽観論が行き過ぎに

6月に米国の株高が止まった最大の要因は、金融市場の楽観論がやや行き過ぎの領域に入ったため、と考えます。

先週後半に浮上した悪材料として、人口が多い、テキサス州、フロリダ州、カリフォルニア州などで、新型コロナウイルス感染者が増え続けていることが挙げられます。6月5日の当欄で、筆者はこの点を指摘しましたが、やや遅れて悪材料として意識されたのでしょう。

その後も市場の不安心理が高まり、週明け15日にはS&P500指数が3000の大台を一時下回る場面がありました。ただその後、経済再開期待を背景に買い戻しが優勢となり下げ幅を縮小させました。

さらに、連邦準備制度理事会(FRB)が社債購入を広範囲に開始するとのアナウンスで米国の株式市場は一段高。翌16日にかけて、トランプ政権がインフラ投資を1兆円規模で行うと報じられ、さらに株高となり、17日時点で先週後半の急落分を、かなりの部分戻しました。

FRBの社債購入のアナウンスは、すでに決まっていたスキームを広く始動させるという実務的な発表です。

これはリスク資産である社債のリスクプレミアムを低下させる金融市場緩和政策であり、社債市場が発達した米国では、信用緩和という経路で強い金融緩和効果が期待できます。ただ、今週のアナウンスは、追加的な金融緩和措置とは位置付けられません。

<写真:ロイター/アフロ>

インフラ投資の有効性は?

トランプ大統領による1兆ドルのインフラ投資計画については、一部でしか報道されておらず真偽は定かではではありません。これが正しいとすれば、米国が追加的な財政政策によって景気回復や株高をもたらす可能性があります。

ただ、インフラ投資はその性格上、即効性が期待できない政策メニューです。2020年後半に政策効果が息切れするリスクがある米国経済に対しては望ましいメニューではないでしょう。トランプ大統領は給与税減税を議会に要請していましたが、これに反対する民主党との妥協を図るために、インフラ投資をアピールしたのかもしれません。

コロナ禍後に経済成長率を高める財政政策としては、減税政策が最も有効であると筆者は考えています。このため、米国におけるインフラ投資拡充を過度に評価すべきではなく、むしろインフラ投資拡充の財源確保として、将来の法人税、所得税の増税が行われるリスクが懸念されます。

また、インフラ投資拡充は長期的な財政プランの意味合いが大きいとみています。それよりも、2020年夏場以降に第4弾の追加財政政策がスムーズに実現するかが、株式市場に取ってはより重要でしょう。

金融市場では、景気回復をサポートするために、今後追加で1兆ドル規模の財政政策が想定されていると見られます。ただ、これが本当に短期間で実現するのか、筆者はやや警戒しています。

大統領選挙まであと4ヵ月あまりとなっていますが、トランプ政権と民主党の政治的な対立が強まる中で、議会において追加財政政策に関する協議が進まないリスクがあります。民主党はすでに独自の3兆ドル規模の追加財政政策を打ち出していますが、この案と給与減税などを検討するとしているトランプ政権との違いは大きいです。

米国では、大規模な財政政策が4月早々から実現しており、これが家計所得を大きく支えています。7~9月期以降に追加財政政策が実現しなければ、一時給付金そして失業保険給付金上乗せなどがなくなるため、筆者が警戒している「財政の崖」が顕在化し、2020年後半の米国経済復調の大きな足かせになります。

トランプ政権が繰り出した金融財政政策は、経済活動の早期回復期待を高め、そして資産インフレの萌芽をもたらしました。

ただ、(1)コロナウイルス感染拡大(2)追加財政政策への不確実性、という米国政治に起因するリスクが、好調だった米国の株式市場の景色を変える可能性があります。米国株市場が最高値更新を続けるには、双方のリスク要因が解消することが必要と考えています。

<文:シニアエコノミスト 村上尚己>

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