スタッフ同士の距離確保や人数制限などにより、ガレージ内の作業に大きな変化。PU交換の所用時間は2倍に

 レーシングポイントF1のテクニカルディレクターを務めるアンディ・グリーンは、2020年シーズンはガレージでの作業の進め方が大きく変わるだろうと語った。クルー同士が互いにソーシャルディスタンスを確保し、安全手順に則って作業を行うため、多くの行程で所要時間が著しく増加することがその理由だという。

 レーシングポイントは、6月17日(水)にシルバーストンで行われたフィルミングデーにおいて2020年型マシンを走らせ、クルーのウォーミングアップを行った。その主な目的は、あと2週間あまりに迫ったF1開幕戦オーストリアGPで導入予定の、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対応した特別な作業手順を、部分的に実践してみることにあった。

 ソーシャルディスタンスの確保から個人防護具を付けた状態での作業まで、チームのガレージという閉鎖空間で行う各種工程に適用される手順を試行したもので、実際に多くの知見が得られたようだ。

「これまでとは様相が異なっている。今後に向けてはかなり難しい作業が想定される」とグリーンは語った。

「基本的には、マシン作業を行うエンジニア同士のディスタンス確保や、着用すべき個人防護具の種類といった要件に集約される。そして、それのせいで実質的にマシンに対して行う作業の時間が変わってくる」

「いくつかの工程は相当時間を要することが分かったが、我々としてはうまくやり繰りしなければならない。レース中に、トラックサイドでマシン作業を行える時間も限られているし、さらに閉門時間も設定されている」

「したがって、我々はマシンのパーツを取り換えたり修理したりするために通常かかる時間を把握したうえで、週末には必要な作業を確実に行い、閉門時間の制限を超えないよう、スケジュールを組みなおす必要がある」

「昨日の走行で我々が習得しようとしていたのは概ねそれに関することだ」

 所要時間が大幅に伸びることが分かったため、たとえばパワーユニットの交換といった不測の事態が生じた際に、クルーにとっては、下手をすればドライバーのセッションを台無しにしかねない状態での作業を求められることになる。

「はっきりしているのは、あわてて作業をしてはいけないということだ。エンジン交換については、これまでの2倍は時間がかかると考えている」

「同時にマシンの作業にあたれるクルーの数は限られ、そのためにパワーユニット交換作業のスピードはかなり制約を受けてしまう。新しいパワーユニットが必要となるタイミング次第では、かなり困難な作業となるだろう」

「レースの週末にはあまり多くの作業を詰め込み過ぎないようにしたい。昨日の走行で、それがはっきりした。

「週末に行う作業を重要なものに絞り込めるよう、細心の注意を払う必要がある。適正な作業を効率的に行い、そのうえで他の領域にも目を向けていくべきだ。そうすれば目の前の作業に注力できる」

「予めマシンを正確に、しっかりと組み立てておくことが大切だ。そうすれば、レースに臨んで、普段なら取り換えようとしない部分を取り換えるといった事態は避けられる」

「全体をかなりスムーズに回していくためには、信頼性が鍵となるだろう。信頼性に大きな問題が生じれば、限られた時間でパーツを修理、変更しなければならなくなるチームにとっても負荷がかかる」

 同時に、グリーンはドライバーたちがトラブル回避の意識を持つことの重要性も強調した。不測の事態に陥れば、労力を要するクルーの作業をさらに難しくしてしまうからだ。

「ふたりのドライバーは、たとえばフリー走行中にトラブルが起きてマシンが損傷した場合、修理にはこれまでよりも相当長く時間がかかるということを意識しておくべきだ。もちろん、彼らは十分に分かっていると思う」

© 株式会社三栄