その74 受験で燃え尽きる子どもたち

日本の都市部を中心に人気が高まっているのが中学受験です。大学付属中学や中高一貫校を中心に、教育熱心な家庭の間で中学受験が過熱しています。

中学受験の勉強を始める10歳前後の子どもは、まだ自分で人生の大きな選択をすることが難しい年齢です。当然、中学受験に挑戦するかどうか、また学校選択についても「親の希望」によって決めることが多いと思います。

親に言われるがまま受験すると…

子どもが自分の意思で中学受験をするのでしたらいいのですが、親から言われて、あるいはクラスの皆が受験するからという他人本意の理由で受験をすると「燃え尽き症候群」に陥りやすいので、注意が必要です。

脇目もふらず勉強して志望校に合格したものの、さらに激化する競争や難易度が上がる授業に心が折れてしまう。また、長く苦しい受験勉強が終わったことで緊張の糸がプツリと切れて、勉強に対する「やる気」をなくしてしまう。このような状態を「燃え尽き症候群」と呼びます。

難関といわれる中学に進学すれば、学習レベルは高くなります。クラスメートは誰もが一番を目指して勉強に励んできた優秀な生徒たちですから、そこでトップに入ることは並大抵の努力では達成できません。

燃え尽き症候群にしないためには

中学受験に関わらず、受験後の「燃え尽き症候群」を防ぐには、困難や逆境に直面した時に「絶対に負けないぞ!」と諦めずに努力を継続できる精神=メンタルタフネスを大きく育てておくことが大切です。

メンタルタフネスを発達させるには、習い事が一番です。スポーツ、音楽、アート、ダンス、将棋、何でも構いません。子どもが人に負けない「強み」を持つことができれば、少々の困難や逆境にビクともしない、タフな精神を手に入れることができます。

たとえば、「溺れる者はワラをもつかむ」ということわざがあります。溺れそうになっている時、危急の時には、人はワラにでもすがりたくなるものです。このような子どもが困難に直面した時に、「ワラ」の役割を果たしてくれるのが「強み」なのです。

「強み」は小学校時代に育てるのが理想

「強み」を持たせるには、小学校時代に習い事に真剣に取り組ませることが必要です。もちろん、中学生以上でも「強み」を持つことは可能ですが、技能レベルが高くなりますから、子どもに多くの努力と時間を強いることになります。

たとえば、小学校を通してサッカーをしてきた子どもと、中学からサッカーを始めた子どもの間には埋め難い「差」が生じています。小学校時代に(受験勉強と同時に)「強み」を育み、コツコツと実践することによって、中学、高校と、その分野で突き抜けていくことが可能になるのです。

勉強と習い事を両立してきた子どもには、簡単には諦めない粘り強さが備わるのです。コツコツと単純な練習を継続してきた経験、敗北や挫折を乗り越えた経験、恐怖心に打ち勝って立ち向かう経験は、将来の子どもを支えてくれる「強み」になるのです。

船津徹 (ふなつ・とおる)

TLC for Kids代表 教育コンサルタント

1990年明治大学経営学部卒業。大学卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。 しちだ式教材制作に従事。2001年ハワイ州ホノルルにてグローバル教育を行う学習塾TLC for Kidsを開設。 2015年にTLC for Kidsカリフォルニア州トーランス校開設。2017年上海校開設。 アジア諸国からの移民子弟を中心に4000名以上のバイリンガルの子どもの教育に携わる。 イエール大学、ペンシルバニア大学など米国のトップ大学への合格者を多数輩出。 著書に「すべての子どもは天才になれる、親(あなた)の行動で。」(ダイヤモンド社)、「世界で活躍する子の〈英語力〉の育て方」(大和書房)。

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