にぎわい遠い「夜の街」 マスク着用、連絡先把握…政府指針に困惑

感染防止が求められる中、営業を続けるスナック=長崎市船大工町、「メゾン・ド・クラン」

 「夜の街」に客足が戻っていない。長崎県内では緊急事態宣言が解除されて1カ月以上がたったが、かつてのにぎわいには程遠いようだ。政府は、接客を伴う飲食業などを対象に新型コロナウイルスの感染を防ぐため、「マスクの着用」や「客の連絡先を把握」といった対策指針を公表した。しかし、現場からは困惑する声が聞かれた。

 長崎市船大工町のスナック「メゾン・ド・クラン」。コロナ禍により4人体制だった店は、平日は基本2人で接客するようになった。長崎くんちや長崎ペーロン選手権大会の中止に伴い、練習や会合がなくなった余波もあって、客足は遠のいたまま。別の店も含め約9年半の経験がある、ママの内田梨沙さん(32)は「売り上げは半分以下に落ち込んだ。こんなことは初めて」と語る。
 政府の対策指針には「マスクやフェースシールドの着用」「対人距離を2メートル確保」などが盛り込まれた。消毒は徹底しているが、マスク着用での接客は声も聞き取りづらくなり、抵抗があるという内田さん。「近くに座って話をするのが仕事なのに…。商売ができない」と気をもむ。
 さらに「客の氏名、連絡先の把握」との対応策も出された。必要性は一定感じつつも、常連客でも個人情報を聞き出すのは「タブー」(内田さん)。感染防止と接客業を両立させる難しさが垣間見える。
 県は、コロナ禍による「新しい生活様式」で営業を続けるため、中小事業者向けに補助金交付申請の受け付けを15日から始めた。飲食業や小売業など、消費者と接する機会が多い店舗を設けた業態が対象。マスクやフェースシールドの購入、アクリル板の設置などの費用を、1事業者1回限りで上限10万円まで補助する。
 県産業政策課によると、県内には約3万7千の対象事業者がいるとみられる。受け付けは8月14日までで、4月までさかのぼって請求ができる。同課は「コロナの影響が続く中、事業を継続できるよう積極的に支援したい」としている。
 県社交飲食業生活衛生同業組合の木下喜行理事長は、県の補助金について「ありがたい」と歓迎する。ただ、組合加盟店の間では、フェースシールドやアクリル板の導入には「そこまでして営業はできない」と消極的な声が目立つという。「営業形態の維持と感染防止の両立を図る上では、どうしても限られた範囲内での制度利用にとどまるのでは」と神妙に語る。
 自身が経営するバーも5月の大型連休明けに営業を再開したが、来店客が「0」の日も少なくないという木下理事長。「今は耐える時期。黙って辛抱しないと」。自分に言い聞かせるようにつぶやいた。


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