コロナ危機をチャンスに、中高年サラリーマンの活路 残酷な時代に求められる「働き方」戦略

 コロナ禍が、私たちの働き方まで変えようとしている。半ば強制的に始まったテレワークは、ZoomやMicrosoft-Teamsといった遠隔会議ツールの“意外な使い勝手の良さ”もあり、大企業を中心に定着してきた。同時に、個々人の成果が一層厳しく問われるようにもなった。新常態(ニューノーマル)にしたたかに適応していくキャリア戦略が求められているのだ。本コラムでは、中高年の皆さんを応援する立場から、働き方が今どう変化しているのかを考えながら、時代を生き抜くカギを探りたい。(人事コンサルタント=木村勝)

マスク姿で電車を降りる人たち=4月17日、東京都墨田区

 ▽テレワーク、働き方のデフォルトに

 ニコニコ動画を提供するドワンゴは5月29日、全従業員を対象とした在宅勤務態勢を、緊急事態宣言解除後の6月以降も継続すると発表した。機動力の高いIT企業だけの動きではない。経団連の中西宏明会長の出身企業で、連結従業員数29万人をほこる日立製作所も、週2~3日は在宅で仕事ができる状態を継続することを明らかにしている。

 日立はさらに、働きぶりが見えにくい在宅でも生産性が落ちないよう職務を明確にする「ジョブ型」雇用の導入と勤務時間ではなく成果で評価する人事制度への移行も検討している。

 成果を重視する人事制度は、以前から論議されてきたが、テレワークを経験したことで、その意味をより実感を持って理解できた方も多いのではないだろうか。

 皆さんもテレワーク中、こんな経験をしたかもしれない。

 Zoomのスピーカービューに、発言者がスクリーンに大きくクローズアップされ、いや応にもその存在は目立つ。その一方で、オンライン会議で発言がない者は、通常の会議以上に存在感が無くなる。在宅で毎日何を行っているか分からず成果の報告もなされない。こうしたメンバーのチーム内での存在感はガタ落ち-

 逆に、肩身の狭さを感じながら育児・介護を理由に早めに退社していた時短勤務者がテキパキと仕事をこなし、高い成果を上げる-

 テレワークは、残酷なまでに仕事そのものの価値とその仕事を担う人の役割を「見える化」したのだ。

 ▽強まる逆風

 こうした動きが中高年の働き方にどのような影響を与えるのだろうか。

 まずは先述の通り、テレワークの導入・定着により、従来は評価されてきた働き方・仕事方法の価値が相対的に落ちていくことを想定しておく必要がある。

 「台風襲来の際には、はってでも出社し、非常時の対応要員として存在感を示してくれた」

 「若手が参加したがらない土日の会社イベントにも嫌な顔せずにいつも参加してくれていた」

 「毎回会議に必ず出席し、積極的に発言はしないが、うなずきにより暗黙の同意を示してくれた」

 「職場来訪者といつも雑談を交わし、他事業部の情報を仕入れてくれた」

 中高年が、得意としてきたこうした行動は、職場にいるからこそ皆に見えていた。仕事の成果には直接結びつかなくても総合的に勘案し、その人の処遇が決まり、周囲もその処遇に微妙ながらも納得していたケースが多かった。

 しかしテレワークが定着するにつれ、これら行動が周囲に認識される機会は減少する。その結果、「給与水準と仕事の成果が見合っていない」という周囲の疑問が顕在化し、このギャップがいわゆる「働かないおじさん」問題につながっていく。

 これは中高年に限った話ではない。

 ただ中高年の場合、勤続年数を重ねるとともに非定型・非定常業務の比重が増えるため、職場の環境づくりなど業務に直結しない面で勝負せざるを得ない事情もある。そうなると、テレワークという働き方は、(もちろん人によって異なるものの)中高年サラリーマンにとっては概して、アゲンストの風になる

 その風は、今後強まることはあっても弱まることはない。中高年の皆さんは、このことを覚悟しておく必要がある。

西村経済再生相(画面左)らとのテレビ会議で話す経団連の中西宏明会長=5月22日、東京都千代田区(代表撮影)

 ▽始まった赤字リストラ

 雇用環境の変化にも触れておきたい。

 2020年2月29日に配信した47NEWS記事「『働かないオジサン』を襲うさらなる悲劇」の中で、昨年顕著となった事業構造改革を目的とした「黒字リストラ」に言及した。ところが、コロナ後は、急激な業績悪化に伴い、文字通り「赤字リストラ」が始まりつつある

 プロセスは以下の通りである。

 ①業務に直接リンクした稼働要員(居酒屋アルバイト、小売店パート社員等)の休業、雇い止め

 ②業績先行き不明企業の派遣・契約社員の雇い止め

 ※派遣社員は、3カ月、契約社員は6カ月契約が多い。2020年3月末の契約更新はそのまま契約更新という事例が多かったが、次回以降は業績悪化により雇い止めとなる可能性が高い

 ③業績先行き不明企業の中途採用の停止

 ※現有雇用維持に注力するため、中途採用の入り口が閉まる。2019年度末に「黒字リストラ」で早期退職に応募した方々は、その意味でタイミングが悪かったと言わざるを得ない

 ④コロナ前から体力の落ちていた会社の工場縮小・閉鎖など正社員を含んだ赤字リストラ

 ※レナウン(300人規模の希望退職を募集)、レオパレス(1000人規模の希望退職を募集)などがその事例である

 ⑤事業構造改革(デジタル化による生産性向上等)を目的とした人事制度・労働条件見直し、中高年対象の早期・希望退職の募集

 ※傷が浅かった優良企業でも、今回の在宅勤務で「給与×働きぶり」のアンマッチ状態が顕在化し、その解消を目的とした処遇見直しの動きが予想される

 東京商工リサーチの調査では、2020年1~5月に上場企業33社が早期・希望退職を募集した。この数字は前年同期の2倍で、今後赤字や減収減益を理由にさらに加速することが予想される。

経営破綻に追い込まれたアパレル業界の名門企業レナウンの本社が入る建物=5月15日、東京都江東区

 ▽今すぐ取り組むべきこと

 中高年が特に影響を被るのは、上記プロセス③から⑤である。どう対処していけばよいのか。

 週刊ダイヤモンド5月23日号の「コロナ恐慌 収入激減&定年危機!徹底見直し術」という特集号に 「徹底的に自分を見つめ直す正しい『キャリアの棚卸し』」という記事を書いた。

 自身のキャリアを徹底的に棚卸しし、それを生かす方法を紹介した内容である。

 中高年サラリーマンは、転勤、職種変更など日本的な人材育成プロセスにより、図らずも多くの引き出しを持っている。また、そのキャリアの過程においては、平時だけでなく、バブル崩壊、リーマン・ショック、東日本大震災などの想定外の危機も経験してきた。

 また、今回のテレワーク経験によって、ご自身の業務スキルに関しても「出社してやらなければならない仕事・テレワーク(オンライン)でできる仕事」「自分しかできない仕事・他の人の替えが効く仕事」に切り分けることができるようになった。

 そこで、キャリアの棚卸しで徹底的に洗い出したご自身の業務スキルを次のような4象限のマトリックスで整理することをおススメしたい。縦軸に「テレワークで対応不可⇔テレワークで対応可」、横軸に「自分しかできない⇔誰でも対応可能」を取り、棚卸しした自分の仕事(キャリア)を当てはめてみる。

 それぞれの象限を見てみよう。

 まず4の象限(テレワークで可能&誰でもできる)に頼った仕事ぶりではこれからは危ない。私のサラリーマン人生の最後は、グローバルBPO会社(ビジネスプロセスアウトソーシング)の部長職であった。その体験からアウトソーシングできない間接業務は存在しないと思っている。ご自身の担当業務が間接業務で、その業務がテレワークでも対応可能であれば、その仕事は瞬時に海外へ移転されると覚悟しておいたほうがいい。

 2象限(あなただけができる&テレワークで可能)の仕事は、テレワークが定着しても対応可能な、あなたにとって稼ぎ頭となる仕事であり、“量産商品”でもある。この領域に関するIT技術の進み具合に常にアンテナを立て、効率よくこの商品を売る力を付けておくことが重要になる。

 1象限は、他の代替が効かずあなたが直接対面で対応しなければならない仕事である。中高年にとって、全人格を売りにした対面でのサービス提供は強みであり、他者が参入できない領域だ。あなた独自のサービスとして商品性を上げていくことが生き残り戦略となる。

 3象限(誰でもできる&テレワークでは不可)も狙いどころではある。今後、テレワークでの業務遂行が定着するにつれ、「誰でもできるが誰かが現場に赴いてやらなければならない仕事」は、誰も拾いたがらない三遊間業務となり、毛嫌いされる傾向が強まる。長年の通勤に慣れ出社することをいとわない中高年が「何でも屋」として積極的に引き受けることで自分のオリジナル商品としていくことも考えていい。

 ▽テレワークになじまない仕事

 今回のテレワーク経験によってテレワークになじまない仕事、条件等もおぼろげながら分かってきた。

 まず、テレワークでなじみにくかったのは、「直に会って行う必要のある業務」、例えば「前任者・後任者間の業務の引き継ぎ」である。4月は多くの会社で人事異動の時期だが、前任者・後任者間の業務引き継ぎは、オンラインでは圧倒的に効率が悪かった。結局業務をよく知る前任者がそのまま仕事をこなしどうにか乗り切ったケースも多いのではないだろうか。

 既に信頼関係が構築されている場合やお互い既知の情報が多い場合には、オンラインでも互いに行間の情報を補足・想像しながら進めることができる。ところがこうした土俵を持たない中途入社組や新入社員を交えてのオンライン業務は、人間関係を含め蓄積情報が少なく、前提となるスムーズなコミュニケーションが成り立ちにくい

 私は今回、ある企業において、オンラインでの新入社員研修を担当した。全体研修の後、1対1でのリアルな個別研修も経験した。ここで分かったことは、オンラインを通じて受けた印象と直接会った本人の印象が全く違っていたということだ。やはりオンラインを通じて得られる情報は、一部に過ぎない。直に会ってのやりとりが情報量も多く効率的である。

夕日を浴びる東京都心=3月24日(共同通信社ヘリから)

 ▽シニアが担うべき仕事はこれだ

 あえてこうしたテレワークになじまない仕事を狙い目として、自らのスキルを徹底的に磨き上げていってはいかがだろうか。

 例えば「業務の引き継ぎ」だ。会社としては優先度も重要度も高い業務であるが、日々のタスクに追いかけられている若手・ミドル層の従業員にとっては、「やっても評価されない“労多くして益なし”業務」と考えられている。

 この隙をついて長年培った自らのノウハウ、職場に蓄積されたノウハウを標準化し「業務の伝承者」として引き継ぎのプロを目指すのも一つの戦略である。

 また、職場の雰囲気づくり、職場の一体感の醸成に貢献し、テレワークでも仕事ができる業務環境を整備する、いわゆる「チームビルディングのプロ」として活躍していくことも考えられる。

 テレワーク時代だからこそ求められるこうしたスキルを磨いていくことが中高年にとって生き残りのカギになる。

 ▽個人事業主的な働き方

 また、コロナ禍の最中、3月31日に希望する人が70歳まで働けるよう、企業に対して就業機会確保の努力義務を課す改正高年齢者雇用安定法(通称「70歳定年法」)が成立した。ところが70歳近くになって、台風のときも大雪のときも遠距離通勤を続ける人生は、ご自身の希望に本当に合っているのだろうか

 私は、7年前に会社員を辞め、今は個人事業主として業務委託契約を締結してサラリーマン時代も担当していた人事の仕事をしている。独立業務請負人(インディペンデント・コントラクター)と呼ばれる働き方である。

 独立後にサラリーマンの友人から「どんな働き方をしているのか」としばしば聞かれたが、個人事業主として業務を請け負う働き方はなかなかイメージしてもらえなかった。

 今は簡単だ。というのもサラリーマン諸氏が今回強制的に体験したテレワークの働き方が、私の個人事業主としての普段の働き方そのものだからである。仕事の内容、状況に応じて在宅で仕事することもあれば実際に出社してサラリーマン同様職場で働くこともある。個人事業主の場合、一切時間管理されないのがサラリーマンとの違いだ。

 先ほどの70歳定年法は、定年延長や継続雇用制度の導入など従来の制度に加え、企業が、独立した元従業員に業務を委託することなども想定している。個人事業主として働く環境はできつつあるのだ

 テレワークを経験したシニアサラリーマンの皆さんがまず感じたことは、通勤がない世界の快適さだと思う。

 毎日出社することを当たり前とせずに自分の強みを軸として、個人事業主としての働き方をセカンドキャリアとして想定されてはいかがだろうか。

 今回図らずもテレワークを体験できた中高年にとって個人事業主として働くことは決して遠い夢物語ではない。7年前に実際に個人事業主としてテレワーク的な働き方を始めた先達(?)としてぜひおすすめしたい。

 最後に中高年からの働き方戦略の基本ポイントを挙げてこのコラムを終了としたい。

 ■「細く、長く、エイジレスで」

 ▻「一獲千金」「一旗あげる」ではなく、「長く続くことで面積として最終的に収支が取れればいい」と考える

 ■「経験こそ商品」

 ▻今まで培ってきた経験・スキルこそがシニアの財産。この資産を徹底的に活用することで若手との違いを出す

 ■「はじめは現状維持」

 ▻現状そのまま継続した場合に想定される給与水準を維持することを目指す

 ■「キャリアは複線化」

 ▻一か所に依存することなく、複数の関与先と仕事をしていくことを目指す。一か所に依存しない働き方は精神的にもストレスフリーで健全

 ■「雇用形態にこだわらず多様な雇用ポートフォリオを実現する」

 ▻「雇用」にこだわることなく、業務委託、請負、派遣などあらゆる働き方を組み合わせて目標とするキャリアビジョンを実現する

 ぜひご自身のキャリアを徹底的に洗い出し、アフターコロナにおけるご自身のキャリアデザイン(キャリアの方向性を示す羅針盤)を作っていただきたい。


木村勝(きむら・まさる)1961年生まれ。一橋大学卒業後、日産自動車に入社し、長年人事を担当。関連会社への転籍などを経て、2014年に独立。現在は、人事コンサルタントとして中高年のセカンドキャリア支援などに当たる。「知らないと後悔する定年後の働き方」(フォレスト出版)などの著書がある。2月29日47NEWS配信「『働かないオジサン』を襲うさらなる悲劇」(https://this.kiji.is/604242825510585441?c=39546741839462401)

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