史上初の初打者満塁被弾… 鷹・工藤監督はなぜ緊急事態でドラ3津森を初登板させたのか

プロ初登板を果たしたソフトバンク・津森宥紀【写真:藤浦一都】

プロ初登板となった津森は先頭の井上に満塁本塁打を被弾

■ロッテ 5-1 ソフトバンク(21日・PayPayドーム)

21日のロッテ戦に1-5で敗れ、2連敗となったソフトバンク。1勝2敗でロッテとの3連戦を終えることになり、2015年以来、5年ぶりに開幕カード負け越しでシーズンのスタートを切った。

勝負を分けたのは2回のアクシデントだった。プロ12年目で初めて開幕ローテを掴んだ先発の二保旭投手がレアード、マーティンに連打を浴びて無死一、二塁のピンチを招いた。ここで迎えた中村奨に対し、右腕が頭部死球を与えた。危険球退場。先発投手がわずか26球、2回無死満塁の状況でマウンドから姿を消した。

ここでソフトバンクベンチが2番手としてマウンドに送ったのは、ドラフト3位ルーキーの津森宥紀投手だった。開幕1軍入りした新人右腕だが、1、2戦目は出番なし。これがプロ初登板という記念すべき日になったが、アクシデントによる緊急登板、無死満塁という絶体絶命の状況、そして相手は強打者の井上と、ルーキーがマウンドに上がるにはあまりにも酷な状況だった。

「緊張はなく、抑えてやろうという気持ちで、ワクワクもありました」。勇んでマウンドに上がった津森だったが、フルカウントからの8球目、井上に弾き返された打球はバックスクリーンへと消える満塁弾となった。一気に4失点。初登板の投手が1人目の打者で満塁弾を浴びるのは史上初の珍事だった。

この厳しい場面で、ソフトバンクベンチはなぜルーキーをマウンドに送ったのだろうか? 第2先発要員としてベンチに置いていた高橋礼や松本裕樹ではなく、プロでまだ一度も公式戦に登板していない新人に託した理由を工藤公康監督は明かしている。

「あそこで行ってもらうしかなかったというのが現状。順番というか」

「順番で。用意しているピッチャーがいなかったので、もうちょっとラクなところでと考えていたんですけど、ちょっと急遽だったので。あそこで行ってもらうしかなかったというのが現状です。順番というか、そういうのもピッチャーの中で考えているので、シミュレーションの中で考えていた」

危険球退場は想定外ではあったものの、投手陣の中では先発に怪我などのアクシデントがあった場合に備えてスクランブル登板のシミュレーションがされているという。その中でこの日の“1番手”が津森だった。こうした事前の想定の下でリリーフ陣は気持ちをコントロールし体を動かしていく。これに沿った形での津森の登板だった。

津森自身はこの段階では、もちろんまだ肩は作っていなかった。頭部死球をモニターで見て、すぐさまキャッチボールを開始。ブルペンで5球だけピッチングをして、慌ててマウンドに上がり、そして史上初めての満塁弾を浴びた。

ただ、津森はその後、5回途中まで素晴らしい投球を見せた。結果的には3回0/3を投げて3安打1失点、4つの三振を奪った。津森自身も「ちゃんとしっかり思うように投げられたら打ち取れた」と手応えのある登板に。指揮官も「投げるボールを見ても、いいボールを投げていた。これからも期待できると思う」と目を細めていた。まさかのプロデビューとなった津森だが、今後に期待を抱かせる投球だった。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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