【キッチンの地震対策】冷蔵庫×突っ張り棒では不十分!? キッチンで死なないための7つのルール

台所で家事をしている真っ最中に、地震速報! ドキッとした経験がある人も多いのでは? じつは地震が発生したとき、家の中で最も危険な場所はキッチン。食器棚や冷蔵庫などが倒れてくる他、食器の落下や包丁が飛んで来る(!)というリスクもあるそう。何をどう気をつければいいのでしょうか? 『プチプラ防災』の著者、辻直美さん(国際災害レスキューナース)に聞きました。

1:出しっぱなしの食器は割れ、包丁は空を飛ぶ!?

2018年6月に発生した大阪北部地震直後の辻さん宅のキッチン(写真左)。地震対策が奏功して被害ゼロ。それに対して、右の写真は地震対策をしていなかった隣家のキッチン。まさに足の踏み場もない状態

国際災害レスキューナースとして、国内外のさまざまな被災現場で救助活動に従事してきた辻さん。悲惨な事例も数多く見てきたそう。「東日本大震災ではキッチンで被災されたとみられる女性何人かは、包丁が頸動脈を傷つけ、出血多量で亡くなっていました。中には菜箸がお腹に刺さっていた方もいます」と、振り返ります。

キッチンにある包丁やハサミ、皿は、地震が起きると凶器そのもの。食器カゴに何気なく置いておいた包丁が飛んできて体に刺さるといった話は、決して珍しくないそうです。包丁は使い終わったら、すぐしまうのが鉄則。また、包丁やフライパンを壁面に飾る「見せる収納」は要注意です。「”見せる収納”にこだわりたい場合は、被災時にすぐ別のスペースに逃げ出せるよう、シミュレーションしておきましょう」(辻さん)。

2:重たいお皿やお酒をキッチンラックの上にしまうのはNG

重たい食器、キッチングッズは低い位置に収納するのが鉄則。棚やラックの重心が安定する効果もある

めったに使わない重たいお皿や、飲まずにとってある高いお酒は、ついキッチンラックの上に収納しがち。でも、「震度5以上になると、”上にあるもの”は落ちてくると考えて」と辻さん。しかも、お酒は引火する可能性もあるので、とても危険です。

重たいものや割れ物は低い位置に収納するのが大原則。下に重いものを置くと、棚やラックの重心が安定し、倒れにくくなる効果も期待できます。キャスターは動かないよう、100均で売っているストッパーを設置するのが◎。普段手の届かない場所にしまってあるものは今後もまず、出番はないはず。この機会に思い切って処分するのもおすすめです。

3:吊戸棚には「開き戸ロック」や「耐震ラッチ」を重ね使い

吊戸棚に重いものをしまうのは危険。耐震ラッチを設置しつつ、軽いものだけをしまうようにしたい

頭上にある吊戸棚には、タッパーやラップなど軽いものをしまうのが基本。さらに、100均で売っている、子どものいたずら防止の「開き戸ロック」を付けておくと、揺れた時に中のものが飛び出すのを防いでくれるそう。「地震のとき、ものが散乱すると、思った以上に精神的なダメージを受けます。軽いものしか入ってなくても、開き戸ロックをつけておきましょう」と辻さんはアドバイスします。

さらに、辻さんは「耐震ラッチ」も使っているとか。耐震ラッチは、震度5以上の揺れを感知すると扉が開かないようにするロックで、ホームセンターやネット通販で購入できます。「耐震ラッチは1000円前後しますが、ここはお金のかけどころ。自分でも簡単に取り付けられ、開き戸ロックと重ね使いすることで、ものが落下するリスクをグッと下げられます」(辻さん)

4:食器は引き出しにしまうか、プラスチックケースに収納

食器を入れた引き出しには、子どもの指はさみ防止用ストッパー を設置(写真左)。引き出しがない場合は100均のプラスチックケースに滑り止めシートを敷いた「食器収納ケース」を使いたい(写真右)

阪神・淡路大震災で被災し、自宅の食器がほぼ全部割れた経験を持つ、辻さん。「残ったのはヤマザキ・春のパンまつりでもらったお皿とモロゾフのプリンの瓶だけでした」と振り返ります。一方、大阪北部地震で被災した際は、キッチンの引き出しに食器を収納。引き出しに、子どもの指はさみ防止用ストッパーをつけておいたおかげで、引き出しが飛び出すこともなく、お皿は1枚も割れずに済んだそう。

お皿を収納できる引き出しがない場合は、取っ手付きプラスチックケースに滑り止めシートを貼った「食器収納ケース」に入れるのがおすすめ。お皿をサッと取り出せるので家事時間の短縮にも役立つそう。プラスチックケースも、滑り止めシートも100均で購入できます。

5:家電は「飛ぶ凶器」。滑り止めシートでの固定が必須!

大地震では炊飯ジャー、コーヒーメーカーといった重量のある家電が“飛んで”くる。 100均の滑り止めシートを敷いて対策したい。とくにタワマンの上層階は要注意

「大きな地震が起きると、炊飯ジャーや電子レンジ、コーヒーメーカーといったキッチン家電も当たり前のように飛んできます」と辻さん。特に、タワーマンションでは、階層が上がれば上がるほど、免振構造で大きく円になって揺れる上、縦揺れも加わるため、家電が飛びやすくなるそう。

対策は、家電の下に100均の滑り止めシートを敷くこと。辻さんはより滑りにくくするために樹脂製のシートと、コルクのような素材のものの2種類を敷いているそう。「より安全にするためには耐震グッズを2つ以上合わせ使いするのがコツです」(辻さん)。

6:冷蔵庫・食器棚の転倒防止は突っ張り棒だけでは不十分!?

冷蔵庫や食器棚は、天井までのスペースを段ボールで埋めるのがコツ。突っ張り棒では不十分

冷蔵庫や食器棚は、キッチンにいる人の命を危険にさらす代表的なアイテムです。「熊本地震では冷蔵庫が倒れてきて、下半身が抜け出せなくなった方がいました。救助までに時間がかかり、両足が壊死したため、切断となりました」(辻さん)。食器棚もまた、倒れてくると圧死、あるいは大怪我の原因になります。

冷蔵庫や食器棚の転倒を防ぐには底に耐震マットを敷き、段ボールで天井までのスペースを埋めるのがコツ。転倒防止アイテムとしては、突っ張り棒がよく知られていますが、揺れの方向によっては飛ばされてしまうので不十分。接地面の大きな段ボールに、お酒を買ったときなどに入っている仕切りを入れ、補強するのがおすすめです。

7:冷蔵庫内の瓶ものに注意! ドアストッパーで飛び出し防止を

子どものいたずら防止用ドアストッパーを冷蔵庫に設置するのがオススメ

普段、何げなく開け閉めしている冷蔵庫の扉。地震のときにバーンと開くと、中から危険なものが飛び出してくる恐れがあります。例えば、ドレッシングの瓶。怪我のリスクがあるのはもちろん、油分を含んだ液体が床にぶちまけられると、その後の掃除にウンザリすることに……。

対策としておすすめなのは、子どものいたずら防止ドア用ストッパー。また、瓶などは食器同様、取っ手付きプラスチックケースに滑り止めシートを貼り、その中にしまうと万全。「うちではこれらの対策をしていたおかげで、震度6弱でも大丈夫でした」(辻さん)。

取材・文 島影真奈美

辻直美

国際災害レスキューナース。一般社団法人育母塾代表理事。看護師として活動中に阪神・淡路大震災を経験。実家が全壊したのを機に災害医療に目覚める。看護師歴28年、災害レスキューナースとしては25年活躍している。被災地派遣は国内19件、海外2件。被災地での過酷な経験をもとに、本当に使えた防災術を多くの人に知ってほしいと、大学での防災に関する講義・講演や、小中学校での授業を精力的に行っている。2015年3月から1年間、毎日新聞夕刊・関西版で防災についてのコラムを執筆。現在、大阪市防災・危機管理対策会議で防災専門家として活動中。大阪市福島区被災地学習選定委員も務めている。レスキューナースの活動と並行して、「たった3秒で赤ちゃんが泣き止む」と話題の「まぁるい抱っこ」を提唱。子育てに悩む母親たちから絶大な支持を得ている。

インスタグラム:辻直美@プチプラ防災

著書:『レスキューナースが教える プチプラ防災』(辻直美著・扶桑社刊)

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