バットの形はどうやって決まった? 当初は角材などからスタートしたバットの歴史

バットは選手の個性や、野球のプレースタイルにも大きな影響を与えている

当初、バットの規定はなく金属の棒、クリケットのバットなどを使用する選手も

ボールを木などの棒で打つ遊びの歴史は古い。古代エジプトの遺跡にもそうした競技の絵が残されている。この遊びは、のちにポロやクリケットなどのスポーツにつながっていく。野球ももちろん、その流れをくむスポーツだ。

野球は19世紀半ばにアメリカで始まったとされる。その当時からバットは使用されていたが、そのころはバットの規定はなかった。そのために平たくて先端が曲がったクリケットのバットを使用する選手もいた。また金属の棒や、長い竿状のバットを使用する選手もいた。

バットのサイズが初めて規制されたのは1863年のことだ。バットの太さが決められた。しかし、この時点ではバットの断面は円形でなくても良かったので、角材のようなバットを使用する選手もいた。その当時でも断面が円形のバットを使用する選手が多かったが、正式にバットの断面が円形と決められたのは、1893年になってからだ。

MLB通算打率.366タイ・カッブ型のグリップは日本にも浸透

歴代の大打者は、自分の打撃スタイルに合わせたバットを使用してきた。

MLB史上1位の通算打率.367を誇るタイ・カッブは、グリップの部分がなだらかに太くなった形状のバットを使用した。グリップエンドを重くすることで、バットスイングをコンパクトに速くするためだ。「50センチ先に転がしたヒットと、50メートル先に飛ばしたヒット。この両方が同じヒット一本として扱われることは、野球のルールの最も素晴らしい部分である」という名言を残したカッブならではのバットだ。

タイ・カッブ型のバットは、日本でも広く使用された。日本ではタイ・カッブ型のグリップに加え、太いヘッドの「すりこぎバット」が考案され、福本豊、若松勉、正田耕三など「安打製造機」タイプの選手が多く使用した。「すりこぎバット」は、ヘッドが振り抜きやすく、シャープな打球を打つことができた。

反対に、ベーブ・ルースは、グリップエンドが細いバットを使用した。ルースのバットは重心が先の方にあり、強く振りぬくのに適した形状をしていた。ただ、重さは1キロもあり、現在の打者が使用するバット(930グラム前後)よりも相当重い。188センチ98キロと、当時のメジャーリーガーとしては抜群の大型だったルースは、パワーも抜群だったのだ。

「物干しざお」といわれた長大なバットを振り回したのが、初代ミスター・タイガースと呼ばれた藤村富美男(阪神)だ。終戦後「川上(哲治)の赤バット、大下(弘)の青バット」が、子どもたちの人気になったのを見て、藤村もバットでアピールしようと考えた。そこで、バットメーカーにこれまでだれも使わないような長いバットをオーダーし、「物干し竿」と称して使い始めた。2014年、野球殿堂博物館が「名選手のバット展」を開催した際に、藤村のバットは他の名選手のバットとともに、展示された。

金属バットの登場で高校野球は人気を集めるが近年は「金属バットの規制」が課題に

野球殿堂博物館に飾られている大打者のバットのサイズは以下の通りだ。

藤村富美男 長さ92.5センチ 重さ980グラム 直径6.4センチ
川上哲治 長さ88.9 センチ 重さ 850グラム 直径5.9センチ
大下弘 長さ88.9センチ 重さ920グラム 直径6.3センチ
ベーブ・ルース 長さ89.0センチ 重さ1,010グラム 直径6.4センチ
イチロー(NPB時代)長さ85.0センチ 重さ910グラム 直径6.4センチ
王貞治 長さ87.5センチ 重さ930グラム 直径6.3センチ

藤村のバットは、川上や大下などより3センチ以上長い。そしてベーブ・ルースのバットよりは軽いが、重さも相当なものだった。藤村はこのバットで大活躍をした。「物干し竿」は、単なるファンサービスではなく、藤村の武器になったのだ。

アメリカではバット素材には硬くて反発係数が高いホワイトアッシュやハードメイプルが使われるが、日本では柔らかでしなりがある、モクセイ科のタモ(ヤチダモ、アオダモ)などが使われてきた。

しかし、バットの原料となる木の栽培面積が減って、木製バットの価格が上がったために、アマチュア野球では、アルミ合金の金属バットの使用が認められた。金属バットは日本の電気工学者で芝浦工大学長も歴任した大本修が開発。耐久性があるため木製バットよりも低コストになるために導入が進み、高校野球でも1974年から使用が認められた。以後、高校野球は打高が進展し、ホームランが増えて人気を集めるようになる。

反発係数が高い金属バットは、打球速度が速く、選手が負傷するなど危険性が高まった。アメリカでは2012年から、反発係数を木製バット並みに調整した「BBCOR」仕様のバットに切り替えられている。日本でも、昨年から「金属バットの規制」が課題となり、日本高野連は金属バットの改良に取り組み始めている。

野球のバットは単なる道具の範疇を超えて、選手の個性や、野球のプレースタイルにも大きな影響を与えているのだ。(広尾晃 / Koh Hiroo)

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