9年ぶりスパコン世界一 「富岳」の実力とは

スーパーコンピューター「富岳」

 計算速度などを競う世界ランキングで1位に躍り出たスーパーコンピューター「富岳」。国産スパコンが1位に輝くのは、富岳と同じく理化学研究所(理研)と富士通が開発した「京(けい)」が2011年に達成して以来の快挙だった。いったいどんな性能が評価され、今後の暮らしにどのような影響をもたらすのか。世界一になった富岳についてまとめた。(構成、47NEWS編集部=松森好巨)

 ▽初の〝4冠〟達成

 スパコンは科学研究や産業、軍事技術の開発で用いるシミュレーション(模擬実験)の重要基盤。今回富岳を1位としたのは、世界のスパコンの性能を比べる専門家のプロジェクト「TOP500」で、1993年の発足以来、年2回(6月、11月)ランキングを発表している。

 富岳がトップに立ったのは計算速度のほかに、産業利用でよく用いる計算手法の性能、人工知能(AI)の分野で使う計算の性能、ビッグデータ解析の指標となる解析性能―の3部門。〝4冠〟を達成したスパコンはこれまで存在せず、富岳が世界で初めてだった。

 世界一になった富岳の計算速度は毎秒41京5530兆回。2位だった米オークリッジ国立研究所の「サミット」(毎秒14京8600兆回)に約2・8倍の性能差を付けた。ちなみに1京は1億の1億倍のことで、その単位を冠し、昨年8月に運用を終えたスパコン「京」の計算能力は毎秒1京510兆回だった。

 ▽創薬、災害予測…幅広い分野での活用に期待

 富岳の突出した計算速度に注目しがちだが、むしろ、さまざまな分野への応用可能性を問う他の3部門でトップに立ったことに評価が高まっている。それらの部門での首位はどんな使い方をしても高い性能を発揮できる万能性を備えていることの証しであり、創薬や地震・津波など災害の予測、自動車の設計など幅広い分野での活用が想定されている。そもそも、富岳という名称は富士山の広い裾野のように幅広い応用・普及を目指すという思いが込められたものだった。

 富岳の本格運用は21年度以降だが、新型コロナウイルスの流行を受けて、使える部分を利用して前倒しで研究が始められている。実際、6月中旬には神戸大や理研のチームが電車や室内での飛沫(ひまつ)の拡散予測を公開している。

窓を閉めた電車内(上)と開けた車内の換気状況(水色)(理化学研究所提供、豊橋技術科学大・鹿島協力)

 ▽世界で続く、厳しい開発競争

 富岳の開発費には国費約1100億円が投入された。ただ今回の首位が日本勢として9年ぶりだったことが示すように、近年首位争いを続けてきた米国勢と中国勢はそれぞれ国を挙げて開発を進めている。常に最新鋭のものが求められるスパコンは、おおむね4、5年で更新される。世界で厳しい開発競争が繰り広げられるなか、富岳や日本勢は次回以降のランキングでも首位を維持していくのだろうか。

 ところで、昨年10月にはスパコンの性能をはるかにしのぐとされる「量子コンピューター」にまつわる研究成果が発表された。米グーグルの研究チームによるもので、米のスパコン「サミット」で1万年かかると見積もられる問題をグーグルの量子コンピューターは3分20秒で解いたという。

 量子コンピューターの実用化にはまだ多くの課題があるとみられるが、日本政府の有識者会議は昨年11月、20年後の実用化を目指すとした技術開発の工程表をまとめている。

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