アジア全体を活動領域とすることがアーティストとして当たり前になる日はそう遠くはない未来なのだろう。タイ人シンガーMax Jenmana(マックス・ジェンマナ)が6月24日にリリースしたEP『555!』はそう思わせてくれる作品だった。
彼はDIYな活動ながら、その実力でタイの多くの人々を魅了してきた。「Into the Woods」はYouTube再生回数2.5億回を記録する大ヒットとなり、国内の大型フェスでは欠かせない存在だ。
そんな彼の持ち味である表情豊かな歌声は、今作に参加したLUCKY TAPESのKai Takahashi(高橋海)、AAAMYYYとのハーモニーや彼らのサウンドプロデュースが加わることで、別の素材に描かれたような新しい景色を見せてくれた。まさにそれぞれのピースが合わさったコラボレーション。そんな化学反応を生み出せる相手が、少し先の海の向こうにいる。そうなれば、軽々と壁を超えてしまえるのがアーティストという人々だ。
では、その過程とはどんなものだったのか。今回はメールインタビューで、Max Jenmana自身の音楽性や今作の制作について話を聞いた。
音楽に導かれて
ータイでのキャリアの中で、「Into the Woods」がYouTubeで再生回数2.5億回を記録するヒットとなったのは、大きなトピックだったと思います。この曲にはどんなテーマやメッセージが込められているのでしょうか?
確かに「Into the Woods」は僕の曲の中で一番知られている曲で、タイの人々がたくさん共感してくれた曲です。
この曲には“騒がしい世間や厄介な人々から離れて、自分自身の内なる平穏を見つける”というテーマがあって、おとぎ話のように野生の動物をメタファーに使って表現しました。
ーなぜここまで共感される曲になったと思いますか?
そうですね…思うに、おとぎ話のような内容なので、シンプルに自分へ語りかけてくるように感じてくれたのかなと思います。タイでは幅広い年代の人に気に入ってもらえてました。僕が想像していたよりも多くの人々に聴いてもらえてありがたいですし、とてもラッキーだと思います。
ーMaxさんはどんなきっかけで音楽を始めたんでしょうか?
ハッキリしたきっかけはないんですが、気づいたら音楽が自分の人生の中でずっと続けていきたいと思える数少ないものになっていました。正直これだけ長い間音楽をやっているなんて、自分でも不思議な感じがします。でも音楽に関わることで、自分がやるべき事や人生の目標が見えてきたと思うんです。
ー音楽性に影響を与えたアーティストはいますか?
僕の超フェイバリットは何といってもJohn Mayerです!彼の曲は語りかけてくるような感覚がして、ずっと聴いていられます。イマジネーションの源ともいえますね。他にはFoster The PeopleやThe Neighbourhoodなんかも好きです。
新たな挑戦となった日本盤EP
ー今回リリースとなった日本デビュー盤EPのタイトル『555!』にはどんな意味が込められているのでしょう?
タイ語で5は「ハー」と発音するので、SNSなんかで(笑)と同じようによく使うんです。そこに日本語の「ご」という発音と英語の「Go」をかけて、3言語の言葉遊びになってます。
ー日本からLUCKY TAPESの高橋海さんとAAAMYYYさんが参加されていますね。元々二人とはお知り合いだったんですか?
Lucky Tapesはタイでも有名なんですが、僕は彼らが有名になる前から海さんとコンタクトとってたんですよ(笑)。AAAMYYYさんは日本のレーベルスタッフから紹介してもらいました。
ー海さん参加の「Drunk Texting」はどのように制作を進めたんですか?
2019年に彼がタイ人アーティストのPyraやStampとの仕事でバンコクに来ていた時、「一緒に曲を書かないか?」って提案したんです。彼がフリーな日に曲のアレンジまで作ったんですが、一気に出来上がってマジックみたいでしたね。
海さんが日本に戻ってからはメールでやりとりして、次に彼が<Cat Expo>というフェスに出演するためにバンコクへ来た際、歌録りまで完成させました。今はオンラインで曲を完成できる時代ですが、それでも距離や時差の問題には苦労しましたね。
ーその甲斐あって、MAXさんの新しい一面を感じる素晴らしい楽曲になったと思います。
そうですね、二人の異なる個性がうまくパッケージできたと思います。海さんのスタイルと僕のスタイルは全く別物なんですが、それはまさに僕が必要としていたエッセンスなんです。彼が持っている淡い水彩画のような雰囲気が曲に加わる事で、とても良い曲に仕上がったと思います。
ーでは、AAAMYYYさんとの制作はいかがでしょう?
AAAMYYYさんは、僕の曲に絶対フィットするからと紹介してもらったんですが、本当にぴったりとハマりましたね。ちょうど新型コロナウイルスの問題がピークの時期だったのでメールでやり取りしながら作業を進めました。
録音してもらったボーカルパートは、コーラスも含めてAAAMYYYさんがご自分で曲を解釈してアレンジしてくれたんです。もう最初から完璧でビックリしましたよ(笑)。曲はほぼ完成してたんですが、最後にAAAMYYYさんのボーカルが入ったことで想像を超える出来になりました。
ー“想像を超える出来”とは?
彼女の声で曲に命が吹き込まれたように感じましたし、彼女のコーラスのハーモニーが楽曲の空間をさらに広げてくれたと思います。彼女のボーカルからはすごくインスピレーションを受けました。
ーEPの最後を飾る「Little Darling (Japanese version)」では日本語の歌にも挑戦されていますが、これまでに日本語を勉強した経験はあったんですか?
実は子供の頃に一度日本語を習ったことがあるんです。もう遠い昔ですけどね(笑)。日本語で歌うのは今までで一番難しいチャレンジでしたよ!日本のレーベルスタッフと日本語の歌詞を考えて、日本語が流暢な友人をスタジオに呼んでレコーディングしたんです。とにかく発音には苦労しました。
飽きるまで曲を書き続けたい
ー今回作品に参加した高橋海さん、AAAMYYYさん以外にも、日本のアーティストの曲はよく聴いているんですか?
頻繁に日本のアーティストの曲は聴いていますよ。特にインディーズアーティストを色々と探して聴いています。今はD.A.N., The Fin, No busesなんかがお気に入りですね。
ーでは逆に、タイでおすすめのアーティストを教えてください。
Phum Viphurit、Polycat、Stamp、Safe Planetあたりは、日本でもすでにご存知の方が多いと思います。なので僕からはApiromeとSrirajah Rockersをオススメしたいです。二組ともオーセンティックでとてもクリエイティブなアーティストですよ。
ーありがとうございます。EPがリリースされ、これから日本でもリスナーが増えていくと思いますが、今後はどのような活動を予定されていますか?
今年の10月末には日本ツアーを予定しているんです。状況が良くなって開催を実現できればと思っています。あと、すでに次回作分の楽曲が出来上がっているんですよ。なので今年は制作作業に集中するつもりです。そうしたらまた2年間はツアーに出れますからね(笑)。
ーなるほど(笑)。ツアーとても楽しみですね。では最後に、アーティストとしての今後の目標を教えてください。
自分自身が飽きるまで曲を書き続けるってことですね。あとは日本でしっかりと活動して行きたいと思います!