マエケン譲り? 広島・大瀬良が引き継ぐ“打撃もおろそかにしない”エース道

広島・大瀬良大地【写真:荒川祐史】

新人時代には「安打数+打点数」を前田、野村と争った

広島のエース、大瀬良大地投手が19日のDeNAとの今季開幕戦で、投げては1失点完投勝利、打ってはプロ初本塁打を放つ大活躍を演じ、広島OBでツインズの前田健太投手がツイッターで「やばいな。笑 最高!」と反応したのを見て、思わずニヤリとしてしまった。というのは今年2月、広島の宮崎・日南キャンプを取材した際、球団関係者からこんな話を聞いていたからだ。

「大瀬良はルーキーイヤー(2014年)に、マエケン(前田)と野村祐輔から、シーズンを通して『安打数+打点数』のポイントが1番高かった者に他の2人が食事を御馳走する、というゲームを持ち掛けられていたんだよね。ただし、大瀬良は九州共立大時代の4年間、DH制でほとんど打席に入っていなかったから、1人だけポイントを倍にするアドバンテージをもらっていた」

実際にどんな食事会になったのかまでは取材できなかったが、14年の打撃成績を比較すると、マエケンは60打数9安打1打点(打率.150)で“10ポイント”。野村は30打数7安打4打点(.233)で“11ポイント”。大瀬良は53打数5安打3打点(.094)だが、倍にすれば“16ポイント”で断トツとなる。さぞかし、おいしく“ゴチ”になったことだろう。

広島は伝統的に球界を代表する投手を数多く輩出しているが、打撃も決しておろそかにしない。“レジェンド”の黒田博樹氏の場合は、決して高打率をマークするタイプではなかったが、気迫は抜群だった。日本球界復帰直後の15年4月、阪神・藤浪から2球続けて胸元をえぐる内角球を投じられ、尻もちをついてよけた直後、「オラッ!」と叫びながら鬼の形相でマウンドへ歩み寄った姿は、今も記憶に鮮明だ。

対照的に、大瀬良は17年8月、同じ藤浪から左肩に死球を食らった際、即座にマウンドへ向かって笑顔を向け、「大丈夫!」という風に2、3度うなずいてみせた。前出の球団関係者は「あの時、当時の緒方監督は大瀬良を呼び、『いい人ではグラウンド上で勝てない』と叱責した。監督の脳裏には、黒田の姿があったのだろうね」と語っていた。

次代を担うドラ1森下 「競い合って本物のエースに」と江夏氏

こんな風にして、カープの“エース道”は次の世代へと引き継がれてきたのだろう。そして、大瀬良の背中を追う存在として今後注目されるのが、ドラフト1位ルーキーの森下暢仁投手(明大)である。21日の開幕第3戦に先発し、7回4安打8奪三振無失点の快投を演じながら、抑えのスコットが逆転され、プロ初白星を逃した。

かつて広島の守護神に君臨し、やはり今年2月の日南キャンプを訪れていた江夏豊氏に森下について聞くと、「広島には大瀬良大地という12球団一のエースがいるから、競い合いながら本物のエースに育ってほしいね」と語った。

先発・リリーフの分業制が定着した時代にあって、昨季両リーグを通じ断トツの6完投をマークした大瀬良の責任感とスタミナを、江夏氏は格別に高く評価している。そういえば、江夏氏が高校から阪神に入団した当時、チームには村山実(故人)という大エースがいて、その後競い合う存在となった。そして江夏氏は1973年8月、延長11回を無安打無得点に抑えた上、自らサヨナラ本塁打を放つという離れ業を演じている。

そこで森下の打撃はというと、21日の試合では2打数無安打だったが、送りバントを1つ決めた。昨年の東京六大学秋季リーグ戦では、25打数9安打1打点、なんと打率.360をマークしている。森下はどんな投手に成長していくのか。楽しみはマウンド上だけではない。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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