「販売価格2653万円」のランボルギーニと数日間過ごしてみると……

自動車ジャーナリストの仕事の醍醐味は、望めば世界の名車を自宅のガレージに納め、数日間にわたり試乗できることです。今回もあるライフスタイル誌の取材のために借り出したランボルギーニ・ウラカンEVO、それも日本にやって来たばかりの後輪駆動のスパイダーが我が家にやって来ました。販売価格は2653万9635円とありますから、今年の2月に試乗レポートしました4WDのウラカンEVOの3,282万7,601円より、リーズナブルです。


シャープさと可愛らしさが両立したベイビーランボ

実は今回の車両は前回レポートした4WDのウラカンではなく、後輪で駆動するリア・ホイールドライブ(以下RWD)のモデルで、おまけにオープンです。4WDよりシステムがシンプルになった分、お安くなったと言えます。4WDとRWDのもっとも大きな違いと言えば運転フィールです。

ウラカン4WDのシステムはもちろん最新テクノロジーを駆使し、本当にきめ細かな制御によって路面を安定して捉えるような設定になっています。アクティブなコントロールが可能になっていて、駆動力配分は、前後30:70をベースに、50:50から0:100までという具合に変化します。これはミッドシップとなっているV10型エンジンの640馬力、最大トルク600N・mという大出力を4輪に適正に分配することで、より安定した姿勢でそのパフォーマンスを発揮できるようにするためのシステムです。

一方のRWDですが、後輪2本で路面にパワーを伝え、フロントタイアはブレーキと方向を変えることに専念します。そのためエンジン出力は4WDモデルより少しダウンしていて同じV型10気筒ですが610馬力、最大トルク560N・mです。それでも有り余るほどのパワーですが、そのパワーを少しでも安定方向で後輪に伝え、高度な電子制御の元にドライバーがコントロールするためには、少しばかりパワーを落とした方がいいという判断です。それでも最高速は324km/h、0~100km/h加速は3.5秒、0~200km/h加速は9.6秒というのですから、誰も文句はないはずです。

ではなぜわざわざRWDにしたか? まずシステムがシンプルになって、軽量化を果たすことができるのです。ただ今回はオープンにすることで乾燥重量はむしろ増えてしまい、クーペモデル(1,389kg)より120kgの増加となって、1,509kgになりました。

一方で、ドライバーがコントロールできる領域が増え、よりドライビングがシビアになるということです。スポーツカーを自らの運転スキルで、可能な限りコントロールしてみたい。そんな腕自慢のスポーツカー好きにとっては安定方向の4WDより、後輪駆動のRWDの方が魅力的に感じるということもあります。実はステアリングに3つの走行モードをセレクトできるスイッチがあるのですが、サーキットなどを走るモードを選べば、後輪駆動ならではのドリフト走行も可能です。つまりピュアスポーツを存分に楽しめるRWDということになるわけです。

フロントをこすらないように……

今回のEVOのRWDモデルはそんな走りの楽しさに、スパイダーとしての楽しみが加わるわけです。さっそくキーを受け取り、エンジンスタート。ブオオ~~ン! いきなり爆音と共にV10エンジンが目覚めますが、少しするとアイドリングはスッと落ち着いてエンジン音は爆音から、ボボボボボといったごくごく常識的なエンジン音になります。

路面すれすれのフロントスポイラーをこすらないようにリフト機構を作動させて走る

いよいよ乗り出すのですが、ここでやることがあります。駐車場から路面に降りるときの段差で長く突き出したフロントスポイラーをこすらないように、フロントをリフトしなければいけません。さっそくダッシュボードにあるスイッチを押すとフロントがゆっくりと50ミリほどリフトします。

日常的にこのテのスーパースポーツを扱うときには必須の作業といえます。ガソリンスタンドに入るとき、道路から歩道を通りコンビニに入るとき、踏切の凸凹を通過するとき、かまぼこ形の路面を乗り越えるときなどなど、フロントスポイラーをこすったり、お腹を打ったり擦りそうなときは必ず行います。マクラーレンなどでも同じようにリフトを作動させて走るります。スーパースポーツを走らせるときには常に気を遣う部分です。ただ、このクルマを自腹で購入できる人で「少しぐらい擦っても構わないよ」というオーナーさんに会ったこともあります。

でも、私達は試乗テスト用にお借りしている大切なお車。自分の車のようなゆとりはとてもありません。髪の毛一本ほどの傷でもたいへんなことになります。ちなみに私達がこうして高額なお車をお借りするとき、出版社などによっては1週間ほどで10万円以上(あくまでも参考価格)の車両保険にも加入します。

さて無事に路面に降り走り出します。ここからは本来の走りを楽しみましょう。全力で安全に留意しながら、610馬力の加速力を試したり、V10のサウンドを楽しみながら、パフォーマンスを試します、と言いたいのですが、混雑した一般路では大人しいものです。「ランボルギーニだから速く走れ」といった脅迫観念も抱くことなく、それなりに高速道に乗り込んでからは、もう法定速度がもどかしく、むしろフラストレーションが溜まりますが、それでもスーパースポーツとして素性の良さを心ゆくまで楽しむことができます。

何よりもRWDのなんとも軽快感のあるドライビングのフィールは心地いい。4WDの4輪で路面をがっちりと捕まえている感覚も悪くはないのですが、後輪がパワーを、前輪が操舵とブレーキをという明確な役割分担による運転感覚は実に気持ちがいい。何よりステアリングフィールが軽快で楽しくなります。

早朝のエンジン始動にはやっぱり気を遣います

高速走行からサービスエリアに入ります。いつもながら人々からの視線を浴びます。おまけに試乗は平日。コロナ禍によっていまだに皆さんがストレスを抱いているところに、一見チャラチャラしたクルマで登場するのですから、視線の中に敵意すら感じることもあります。

「ホント、皆さん、これが私の仕事なんです」と言いたくもなりますが、自意識過剰かもしれません。ここは、あくまでも冷静にクルマから降り、ちょっぴり休憩を取ったあと、また走り始めました。エンジンをスタートさせるときは相変わらず、一発目の咆吼は周囲に響き渡ります。ちなみにアイドリングストップからの再スタートでも、軽く爆音です。

シフトを1速にセットして走り出します。ここでオープンにするボタンをプッシュ。時速50kmまでなら走行しながらでもオープンにしたり、閉じたりできます。17秒ほどでオープンとなったところで、クローズドの時との大きな違いに気がつきます。

もちろん初夏の風を全身に受け、なんとも心地いいこともありますが、それ以上にエンジンサウンドを、よりダイレクトに感じ取れるのです。それまで聞いていたオーディオをオフにして、エグゾーストノートだけを楽しみながら、走り出すのです。風に吹かれる快感はすべてのオープンカーに等しく与えられた快感ですが、エグゾーストノートを背後に楽しみながら走れるクルマはあまり多くはありません。

エギゾーストノートがよく聞こえる。

フェラーリやマクラーレン以上にランボルギーニのサウンドチューンは本当に気持ちがいいのです。そのまま高速を降り、ワインディングに突入しても、軽快な走りと風と、そしてエグゾーストノートの三位一体の味わいはずっとついてくるのです。

一通りの試乗を終え、自宅に向かいます。さすがに地元の住宅街に入ったときはルーフを閉じて、帰宅。4メートル道路が入り組んでいるような住宅地ですが、このウラカン、なんとも見切りが良く実に扱いやすく、フロントスポイラーを擦らないようにすれば、何ともフレンドリーな存在なのです。ボディの大きさを見れば決してバカでかいわけもなく、いいえ、むしろコンパクトに感じるほどで、我が家のビルトイン駐車場にすっぽりと収まってくれたのです。

ですがここで問題発生。幅が2メートル80センチほどの車庫に入れ、ウラカンのように長いドアを開けなければいけません。ドアエッジを傷つけないようにそっと開けて、隙間から這い出るようにして車外に出るのです。夏などは汗だくです。そんな苦労をしたあとはこのまま明日の朝までお休みです。ここでその日の走行分、175kmの給油をします。ハイオク23.53L、ということは7.4km/Lの燃費。136円/Lでしたら3200円です。意外なほど好燃費に少し嬉しくなりました。

そして目覚めた朝、これから撮影に出撃です。朝7時、エンジンスタートボタンをプッシュします。グォオオオオオオ~、一段と激しい爆音が住宅街に響き渡ります。ご近所さんのガラスがビリビリと振動しているのが分かります。「また佐藤さん家か……」。こんなやり取りが聞こえてきそうです。やはりこのテのクルマに乗るには、少なくとも都市部ではシャッター付きガレージの戸建てとかは準備できないと、ダメなのかもしれませんね。ご近所さん、申し訳ありません!

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