新型コロナで変わる消費、食生活や感染対策需要、旅行はどうなる?

少しずつ経済活動が再開され、オフィスへの出社や外出が増えた方も多いのではないでしょうか。一方で、まだ新型コロナウイルスとの戦いは続いていますので、しばらくは「巣ごもり生活」をベースとした消費行動が続くのでしょう。

4月に新型コロナの感染拡大を防止するために、緊急事態宣言が発令されたことで、旅行や外食などの外出型の消費が大幅に減る一方、家の中で使うモノやサービスなどの巣ごもり型の消費が増えました。具体的にどういった項目に大きな変化が見られたのか、総務省「家計調査」のデータを用いて見ていきましょう。そして、その変化は、これからも続くものなのかどうかを考えてみたいと思います。


緊急事態宣言下の家計消費

総務省「家計調査」によると、2020年4月の二人以上世帯の消費支出は、1年前と比べて3万3,214円、実質11.1%減少しました(30万1,136円→26万7,922円)。比較可能な2001年1月以降、過去最大の減少幅です。

内訳を見ると、「被服及び履物」(▲55.3%)や旅行を含む「教養娯楽」(▲33.9%)、交際費を含む「その他の消費支出」(▲16.2%)が大幅に減少する一方、「住居」(+10.8%、設備修繕・維持費など)や「光熱・水道」(+7.3%)は増えており、外出型の消費が減り、巣ごもり型の消費が増えている様子が分かります(図表1)。

4月7日に東京や大阪などの7都府県に緊急事態宣言が発令され、16日には全国に拡大されました。そして、解除されたのは5月半ば以降ですから、4月の消費は外出自粛による巣ごもり消費の影響が最も顕著にあらわれた結果と言えます。

食生活、巣ごもり需要が顕著

巣ごもり生活による消費の増減を具体的に見ていきましょう。図表2は、それぞれの品目において変化の大きかった主な項目をまとめたものです。

まず、食事の面を見ていきましょう。食料は全体では減少しているものの、これは外食の大幅な減少(▲65.7%)による影響で、食材や調味料などはおおむね増加しています。

外食の中では特に飲酒代(▲90.3%)が大幅に減少している一方、ウィスキー(+57.8%)やチューハイ・カクテル(+42.0%)などのアルコール類は増加しています。緊急事態宣言中、自治体から居酒屋などに対して、午後8時までといった時短営業の要請が出されていましたので、外で飲まずに「家飲み」が増えたということでしょう。仲間とオンライン飲み会などを楽しむ人も多かったかもしれません。

一方で、外食の中でハンバーガー(+14.9%)だけは増加しています。これはファーストフードでテイクアウトやデリバリーの利用が増えたということなのでしょう。都市部では、ウーバーイーツなどのデリバリーサービスの方が自転車を走らせる姿をよく見かけるようになりました。

小麦粉(+90.0%)やバター(+67.7%)が大幅に増加、時間に余裕のある巣ごもり生活で、お菓子作りを楽しんだ方が増えたのかもしれません。

また、パスタ(+70.8%)や即席麺(+52.0%)などの麺類、冷凍調理食品(+17.9%)の増加からは、テレワーク中や休校中の子どものための昼食など「手軽なランチ」需要が見えるようです。なお、家具・家事用品では、電子レンジ(+30.1%)などの調理家電も増加しています。

牛肉(+16.1%)をはじめとした肉類、調味料(+22.0%)なども増加していますが、家での食事が増えた影響もありつつ、普段より少し高級な食材を使って、家の中での食事を楽しみたいという需要もあるのかもしれません。外出自粛生活では、食べることが何よりの楽しみという声もあるでしょう。食生活には、多方面に巣ごもり需要が見られます。

感染リスクで予防グッズは売れ、診療は減少

一方で、感染対策需要も多方面に確認することができます。

マスクなどを含む、保健医療のうち保健用消耗品(+127.7%)や、除菌用のウェットティッシュなどを含む、家具・家事用品のうち他の家事用消耗品その他(+68.7%)は大幅に増加しています。

また、外出自粛によって、被服及び履物は全体で半減し、内訳を見ても大幅に減少している項目が多いのですが、唯一、生地・糸類(+93.0%)のみが増加しています。これは、先ほどのお菓子作りと同様に、時間ができたことで裁縫をし出した方が増えたのでしょう。おそらく、布マスク作りをした方が多いのではないでしょうか。

当初は紙の使い捨てマスクが品薄であったために、代用品として布マスクを作る方が多かったようですが、今ではエコ意識やファッション性などから、あえて布マスクを利用する方も増えているようです。

一方で、感染リスクから、ちょっとした不調であれば、病院へ行かずに市販薬で済まそうという行動もうかがえます。

医科診療代(▲17.0%)やマッサージ料金等(▲55.4%)は減少する一方、ドラッグストアで買える胃腸薬(+21.1%)などは増加しています。また、サプリなどを含む健康保持用摂取品(+22.5%)も増加していますので、健康維持を心掛ける意識も高まっているようです。

自家用車や自転車で公共交通機関を代替

公共交通機関の利用は大幅に減少しました。緊急事態宣言中は県をまたぐ移動などの行動制限もあり、航空運賃(▲94.5%)、鉄道運賃(▲89.9%)、バス代(▲71.5%)、タクシー代(▲69.8%)というように、移動距離が長いほど減少幅が大きくなっています(図表3)。

一方で、自動車(+28.8%)や自転車(+12.7%)の購入が増え、レンタカー・カーシェアリング料金(+50.8%)の支出額も大幅に増加しています。感染リスクから、公共交通機関の利用を避け、自家用車などで代替する方が増えているようです。

旅行・レジャーは激減、巣ごもり生活で増えるデジタル消費

最後に教養娯楽などの変化を確認しましょう。

外出自粛によって、旅行やレジャーは大きな打撃を受けました。宿泊料(▲94.7%)やパック旅行費(▲96.9%)などの旅行関連支出は9割以上減少し、4月はほぼ消えてしまったと言っても過言ではありません。また、遊園地や美術館などの施設が休業したため、遊園地入場・乗物代(▲97.8%)や文化施設入場料(▲95.7%)の支出もほぼ消えています。

外出型の娯楽が激減する一方で、巣ごもり型の娯楽は増えています。ゲームソフト(+103.0%)やゲーム機(+71.3%)、ケーブルテレビ受信料(+22.7%)、ダウンロード版の音楽・映像・アプリなど(+19.4%)、インターネット接続料(+17.7%)、電子書籍(+14.7%)が増加しています。

巣ごもり生活で増えた娯楽はデジタル系のサービスが並びますが、動画配信や電子書籍、ゲームなどのデジタル系のサービスは、月額定額で使い放題のサブスクリプションモデルが多いため、時間のある巣ごもり生活と相性も良いのでしょう。

なお、ネット接続料のほか、パソコン(+49.9%)が大幅に増加していることから、テレワーク需要もうかがえます。

園芸用品(+17.8%)の増加からは、お菓子作りや裁縫と同様、時間に余裕ができたことで、生活を充実させるために自分で何か作ってみようという気運が高まった様子がうかがえます。

外出自粛生活では、美容面でも需要は外から中へと移りました。休業した理美容院も多かったため、パーマ(▲51.6%)やカット代(▲35.7%)、エステティックなどを含む他の理美容代(▲6.1)が減少する一方、美容家電などを含む理美容電気器具(+22.4%)やヘアコンディショナー(+12.0%)は増加しています。

外出をしないばかりか、外出時もマスクをする生活では、口紅(▲41.1%)やファンデーション(▲34.9%)といったメイクアップ用品も減少しています。「家計調査」のデータにはありませんが、もしかしたら、アイメイク用品だけは堅調なのかもしれません。

ウィズコロナ、アフターコロナの消費は

5月半ばから段階的に緊急事態宣言が解除され、デパートやレジャー施設の営業再開の動きが広がっています。感染拡大前と比べれば大幅に少ないようですが、人の流れは戻りつつあるようです。新型コロナの影響で変わった消費は、これからどうなるのでしょうか。

おそらく消費全体としては低迷が続くでしょう。現在、雇用環境が急速に悪化しているため、収入減少や先行き不安から消費を控える方が多いと考えられるためです。

また、依然としてウイルスとの戦いは続いています。ワクチンや特効薬の開発など科学的な解決方法が登場しない限りは、旅行やレジャー、外食、ファッションといった外出型の消費は、4月よりも増えたとしても、感染拡大前ほどには戻らず、消費全体にもマイナスの影響を与えるでしょう。裏を返すと、外出型消費は、科学的な解決方法が登場すれば、戻りが早いとも言えるでしょう。

一方で、今回の事態で変化が加速したまま、新型コロナの問題が解決したとしても続く流れもあります。

その1つにデジタル化の加速があげられます。巣ごもり生活の娯楽ではデジタルサービスが増えていたように、ネット通販やキャッシュレス決済サービスの利用などもあわせて、今回の事態で消費のデジタル化が一層進みました。

オンライン診療やオンラインフィットネスなど、これまではリアルでのサービス提供が当然と思われていたものが次々とオンラインで対応し始めたことで、今後は、店舗でしか対応していない、契約に紙や印鑑が必要といった形では、消費者に選ばれにくくなったのではないでしょうか。全てがオンラインに置き換わるわけではないにしろ、今後、一層の付加価値が求められる対面サービスもありそうです。

一方で近年、サブスクやシェアを活用したモノを持たない暮らしが広がっていましたが、今回の事態によって、あらためて持つべきモノを考え直した方もいるのではないでしょうか。新型コロナの問題が解決しても、グローバル化が進む中では、新たな感染症のリスクは常に存在します。本稿で見たように、自動車や自転車など、その人の暮らしによって必要なモノを再び持つようになるといった揺り戻しが、一部で生じる可能性もあるでしょう。

そして、今後も続く流れには、働き方のテレワークシフトもあげられます。今回の事態では在宅勤務でのテレワークへと大きく舵が切られましたが、これはそもそも「働き方改革」で進められていた流れです。今後とも多くの業種で在宅勤務が併用されることで、テレワーク関連商品は一定程度行き渡るまでは、好調な売れ行きが続くのではないでしょうか。

また、オフィスへの出勤が減り、家の中で過ごす時間が増えることで、イエナカ生活を豊かにするような需要は引き続き堅調でしょう。

さらに、住まいも変わる可能性があります。近年、利便性から、共働き世帯を中心に都心のタワーマンションなどの人気が高まっていました。しかし、今後は、夫婦それぞれの十分なワークスペースを取れる郊外の住居に住み、自然に囲まれた暮らしを選ぶ方もあらわれるのではないでしょうか。

新型コロナによる消費の変化には、いずれ元に戻るであろうものと、今後も続くものが混在しています。これからの生活で何を大切にしていきたいのかを十分に考え、賢くお金を使っていきたいものです。

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