【高校野球】ロシアの血を引くドラフト候補、桐生第一・蓼原 自粛期間は「無駄じゃなかった」

桐生第一・蓼原慎仁【写真:佐藤佑輔】

元水泳選手の父とロシア人の母、他競技のエッセンスを取り入れた自主練習

第102回全国高校野球選手権大会の中止が決まり、約1か月。代替大会、引退試合、上の舞台、将来の夢……。球児たちも気持ちを切り替え、新たな目標に向かってそれぞれのスタートを切っている。新型コロナウイルスは彼らから何を奪い、何を与えたのか。Full-Countでは連載企画「#このままじゃ終われない」で球児一人ひとりの今を伝えていく。

昨秋群馬大会で優勝を収め、関東大会でもベスト4。今春選抜出場が決まっていながらコロナ禍で夢を絶たれた桐生第一(群馬)。3年生部員29人のなかで唯一人、高卒でのプロ入りを目指す蓼原慎仁投手(3年)は「甲子園は小さいころからの夢。中止が決まったときは頭のなかが真っ白になった」と口にする。

元水泳選手の父とロシア人の母の間に生まれ、最速144キロを誇る大型右腕。東京・板橋の親元を離れ、甲子園に出場したいという一心で桐生第一に進学したが、練習自粛により一時帰省。不安な思いがありつつも、久々の実家では初めて自らの頭で考え様々な練習に取り組んだという。

「実家が荒川の河川敷の目の前なので、ランニングや芝生を使った練習はできました。母は昔陸上をやっていて、自転車を取り入れた内転筋を鍛える練習を教わり、クロスバイクで一日おきに60キロくらい走ってた。父からはダンベルを使った背筋トレを教わり、太腿も肩回りも一回り大きくなった自負がある。自分の頭で考えて練習に取り組めたことは、自粛がなければなかったことかもしれません」

妹に夢を諦めさせた負い目…今ではお互いを高め合う良きライバルに

正月ぶりに帰った我が家では、プロを目指すきっかけとなった2人の妹とも再会した。

「小学校から元プロの教える野球教室に通わせてもらって、そのぶん、妹たちにはやりたかった新体操や習い事を我慢させた過去がある。経済的にも早くプロになって、家族に恩返ししたいという気持ちが強いんです」

新体操を諦めた妹も今はボクシングに打ち込んでおり、下の妹は空手に熱中。妹2人が格闘技に目覚めた理由は定かではないが「これからの時代は女も強くならないとって両親も歓迎しています。妹とはそれぞれの舞台で切磋琢磨して、いずれはお互いに有名になってやろうと話した。帰ったときは実際に腹にパンチも受けて、本当に強くなったなと…。あ、たぶん自分はもう勝てないなって思いました(笑い)」

ロシアの血を引くということで、巷では「スタルヒン2世」とも呼ばれるが「スタルヒンって言われても自分にはあまり馴染みがなくて…。憧れはダルビッシュ選手です」。野球を始めたばかりの小学2年生の夏、父・秀樹さんと二人で横浜スタジアムでの交流戦を観戦。1失点に抑えたダルビッシュに試合後声援を送ると、手を振って応えてくれたといい「投げてる球もすごいし、顔も振舞いもすべてがイケメン。自分もダルビッシュさんのような選手になるのが夢です」と憧れを寄せる。

「コロナで思うような練習ができなかったけど、実家に帰った時間でいろいろなことをやったり、考えたりできた。その時間も無駄じゃなかったとポジティブに捉えて、この3年間やってきたことを全力でぶつけたい」

コロナ禍での自粛期間も決して無駄ではない。その思いを胸に、最後の夏へ腕をぶす。(佐藤佑輔 / Yusuke Sato)

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