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「ごめんね、開けるよ」
6月下旬。母親は女子児童が亡くなってから初めてランドセルを開けた。ずっと大切に保管していたものの、これまで中身を確認することはなかった。当時から時が止まったままのランドセルには、国語や音楽の教科書、連絡帳などが入っていた。
自殺を図ったのは日曜日。教科書の種類をよく見ると、月曜の時間割通り。「当日の朝にばたばたと用意する子ではなかった」。学校に行くつもりだったのだろうか。「今となっては分からない」
表紙をカラフルなシールで飾り付けたノートがあった。友達との交換日記だった。母親は数ページめくったところで手を止めた。ほかの誰かに見せることを禁止した「約束事」が記されていることに気付いた。「やっていることは知っていた。ここにあったんだね」。日記をそっと閉じた。
包帯やばんそうこう、ティッシュなどが入った小さなチャック付きのポリ袋も見つかった。看護師になりたかったという児童が持ち歩いていた「救急セット」。友達がけがをしたときのために、彼女にとっては必需品だった。
「娘は、いつも誰かのために何かをしようとする子だった。慰霊碑がこれからも命について考える場として、学校の子どもたちのためになるのなら、それは何だか娘らしいな」
母親は小さな救急セットを見詰めながら、つぶやいた。