第六十三回 「若いって良いな」と素直に思えるゼンダマンの若さ弾ける歌

想い出の音楽番外地 戌井昭人

「若いって良いな」という言葉、自分が若いころは、歳をとっても絶対に言いたくないと思っていました。それよりも早く歳を取りたくて、ずいぶん、おっさんくさい趣味をしていました。高校生なのに、草履を履き、浪曲が好きだったり、焼鳥屋に通ったりしていたのです。まわりがバブル景気で浮かれていたので、天邪鬼の自分は、金満主義に反発していたつもりだったのでしょう。いま考えれば、ただこじらせていただけかもしれません。けれども困ったことに、最近、「若いって良いな」とよく言ってしまいます。自分の年齢を考えたら、仕方がないのですが……。それでも、「俺が若いころは」とか、「君たちはまだ若い」などということは、絶対に言わないようにしています。

音楽もふくめ表現活動は、熟練や渋い感じなど、経験を積まなくては、絶対に出せないものがあるけど、やはり若さ故に出せるものも多くあります。それは、青くさかったりもしますが、そこが大変な魅力になります。

話は変わりますが、昨今のステイホームで、わたしは、YouTubeばかり見てしまい、ユーチューバーと呼ばれる人たちの映像を見ていたのですが、「なんだかなぁ」と思う人が多かったのも確かですが、その中でも面白くて、人間的な魅力を感じる人たちもいました。ユーチューバーって、企画もあるけど、結局は、「この人、なんだか良いなぁ」と思える人間性で見ている気がします。

でもって、わたしが良いなあと思ったのは、格闘家の朝倉未来さんのYouTube、ピエール瀧さんのYouTube、あとはメタボンという人のバイクで旅するYouTubeでした。そして、一番、更新を楽しみに見ていたのが、ゼンダミゼンダというYouTubeでした。これは、ゼンダマンという日本の若いレゲエ歌手が、ジャマイカで修行をするYouTubeで大変面白いのです。

ゼンダマンはジャマイカに住んでいて、ジャマイカのいろいろな場所や人を紹介してくれます。カメラを持つのは、本場ジャマイカで、ガチャパン・レコードというプロデュースユニットで活躍していたガチャさん(リディム担当)。このガチャパンのアルバム『Gachapan Records Sampler』が、とんでもなく素晴らしいのですが、今回はゼンダマンを紹介します。

YouTubeの『ゼンダミゼンダ』は、ゼンダマンとガチャさんのやりとりが、ものすごく良くて、ガチャさんが先輩、ゼンダマンが後輩という立ち位置で、微笑ましく、ユーモアもあって、ときにガチャさんが厳しいことを言うと、それに対して素直なゼンダマン。このゼンダマンの屈託ない姿を見ると、「若いって良いな」と思うのです。

そんでもって、ゼンダマンのシングルはたくさんあって、Apple Musicにもあるのでぜひ聴いてみてほしい。YouTubeにも出てくるロッコン師匠というジャマイカ人のミュージシャンと競演した『ロッコンアンセム』も最高、一番最近出た、『Live It Up』も良いし、『ゼンダミダンスホールスタイル』が良い。いやいや、ジャケットの絵がインパクトのある『Zenda Mi Don』が良い。このジャケットの絵、町にいた絵描きのおじさんに描いてもらうエピソードがYouTubeにあります。

とにかく、屈託のないゼンダマンの若さ弾ける歌を聴いて欲しい。そしてYouTubeの「ゼンダミゼンダ」をぜひ観てください。

戌井昭人(いぬいあきと)1971年東京生まれ。作家。パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」で脚本担当。2008年『鮒のためいき』で小説家としてデビュー。2009年『まずいスープ』、2011年『ぴんぞろ』、2012年『ひっ』、2013年『すっぽん心中』、2014年『どろにやいと』が芥川賞候補になるがいずれも落選。『すっぽん心中』は川端康成賞になる。2016年には『のろい男 俳優・亀岡拓次』が第38回野間文芸新人賞を受賞。

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