五島 「あとワンアウト」追求 心身成長いざ雪辱へ 【連載】球夏到来・中

五島の練習場に掲げている昨夏3回戦のスコアと教訓=五島市、五島高第2グラウンド

 昨夏の長崎大会。33年ぶりの8強に挑んだ五島は「あとワンアウト」が取れなかった。4-3の九回2死から3連続四球を与え、左前ぎりぎりに落ちるサヨナラ2点打を浴びた。当時、3年生は3人で、あとは2年生。「冷静に投げていたら」「あと一歩足を前に動かせていれば」。“たられば”の悔しさを忘れず、この1年間を過ごしてきた。
 練習場には今もあの日の結果とともに、こんな言葉が掲げられている。「運がなかっただけなのか?」「負けに不思議の負けなし」。その近くには一人一人の体重の増減表が張ってある。目標に達していない選手には「このままの体で試合に出ようと思っているのか? 出さん」などと谷口享監督からの厳しい文言が。資本である体づくりの本気度がうかがえる。
 主将の出口勝太は入学時から20キロ近く増加。昨夏、敗戦投手になった責任も胸に人一倍、努力を重ねてきた。コロナ禍で練習をできなかったときも、中学時代にバッテリーを組んだ五島海陽の主将、松本大夢を相手に公園で投げ込むなど気持ちを切らすことはなかった。
 島外遠征が解禁されると、結果もついてきた。6月20、21日は長崎日大と昨夏敗れた諫早農との練習試合で2日連続完投勝利。中学時代、一度は本土進学の意志を固めたが、みんなと一緒に島で白球を追い掛けることを選んだのは、間違いではなかった。「島でも強くなれるぞと思ってやってきた。ああいう形で負けたリベンジをしにいかないといけない」
 選手たちは離島というハンディを決して言い訳にしない。遠征では安価な宿舎を用意してくれたり、無償でバスを貸してくれたり、本土の学校に何度も助けられた。お礼に保護者が米を送るなど、支え合いの中で大きく成長。島にはない牛丼店へ大挙して朝食に行くのもひそかな楽しみだ。
 就任6年目、天気予報とのにらめっこにも慣れた谷口監督はこう強調する。「子どもの数が減っている中で(転勤がある教員の)自分たちは、しょせんつなぎ。島の野球の灯火(ともしび)を消せないし、実力校とも互角に戦える、勝てるというのを少しでも示したい。金をかけて本土へ行くからには、それ以上に価値ある何かを得ないといけないと思う」
 1回戦の相手は清峰。出口と“ダブルエース”で仲間を引っ張る浦隆紋は「引いたら負けだから気持ちで攻めて、攻めていく。小学生のころから選手よりも目立つ大きな声で応援してくれる母、お世話になった人たちに全力プレーと礼儀で感謝を伝えたい」と闘志を燃やす。
 島っ子たちの雪辱の夏が、いよいよ始まる。

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