職場で虐められていた男性が空き瓶で反撃 どんな事情でも裁判は情けなし

写真はイメージです

その日、都内の焼き肉レストランで金田和也(仮名、裁判当時24歳)と同僚のアベ、スガノ、ムラタは食事をしていました。仕事終わりに、アベの誕生日を祝うという名目で4人は集まったのです。

同じ職場の人間が集まって食事をしていれば、話題は自然と仕事の話になります。

そして酒も廻りはじめ会話は金田の仕事のミスをあげつらって嗤う、というような良くない内容のものになっていきました。彼は4人の中では職歴が最も浅く、一番年下でした。

3人から罵られ嘲られ、厳しい叱責もされました。それは数時間、延々と続きました。

じっと黙って話を聞き続けている彼も、以前から3人の仕事のやり方に不満を抱いていました。立場が一番下だから、という理由で最もキツい作業を押しつけられることは日常茶飯事でした。彼に仕事を押し付けた上でその人間がサボっているようなことはよくあることでした。それなのに、仕事中に大声で罵倒されることもしばしばありました。

「パワハラっていうんですか、そういうのはすごくありました」

と、裁判では職場環境について語っていました。

夜10時過ぎ、彼の我慢は限界に達しました。

突然席から立ち上がり大声で怒鳴りました。

「こんな会社、辞めてやるよ!!」

他の3人はそんな彼をなだめたり謝ったりしたでしょうか?

もちろんするわけがありません。

「お前らみたいな奴らの下で働けねえよ!! やめてやる!!」

なおも興奮して怒鳴る彼に対して、3人のうちの1人、スガノが冷ややかに言い放ちました。

「辞めてどうすんだよ。甘ったれてんじゃねえよ。お前なんか、何にもできないくせに」

その時、テーブルの上には焼酎の空き瓶がありました。彼はこれを掴み、そしてスガノの頭部に振り下ろしました。

――暴行を加えるにしても、なんでビンなんか使っちゃったんですか?

「カッとなってしまって…。ケガをさせようとは思ってました」

――これ、死んでもおかしくないですよ?

「大怪我をさせてしまって、被害者の家族のには申し訳ないと思ってます」

――スガノさんに謝罪はしてないんですよね?

「してません」

――それはなぜですか?

「正直、もう顔も見たくありません」

――スガノさんの気持ちって考えたことありますか?

「ありません」

――なんで考えないんですか?

「やられた側の気持ちはわかりません。やってしまったことに関しては後悔しています。でも、被害者に謝るつもりはありません」

普通、法廷で正式裁判ともなれば被告人となった者は、それがたとえ心にもないものだったとしても一応は被害者に謝罪や反省の言葉を並べるものです。

しかし、彼は被告人質問で1度もそのような発言をしませんでした。

犯行後、会社を間に挟んで示談交渉もしたそうです。会社としては事件を大事にせず、内々で済ませたいという意図がありました。

会社の提示した示談金の額は300万円です。

彼はこれを拒否しました。

「会社から300万円と言われた時、『高すぎる』と思いました。実際に治療にかかった金額を払うのは仕方ない、と思いましたがそれ以上のお金は1円も払いたくありませんでした。社長に『300万円払わないと事件にする』と言われましたが、この金額にはおかしい点が多々あると感じました。それに…僕がされてきたことは全く関係ないのかな、とも思いました」

彼は被害者への謝罪や示談こそ拒否しましたが、行為そのものについては反省しています。後悔もしています。

「取り返しがつかないことをしてしまったと思っています」

「被害者らに何を言っても仕方ないのはわかっていたし、黙ってその場を立ち去って何も言わず会社を辞めればよかったと思います」

裁判ではこのような言葉もありました。

暴力はたとえどんな理由があっても正当化されることはありません。

しかし、暴力行為をする人間にも必ずそれぞれの背景があり事情があるということもまた忘れてはならないのだと思います。(取材・文◎鈴木孔明)

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