毎年注目を集める東大合格者数、「東大への道」に秘策はある?

中学受験に関する数字を森上教育研究所の高橋真実さん(タカさん)と森上展安さん(モリさん)に解説いただく本連載。

中学受験において、志望校選択の基準として注目されるのが「大学への進学実績」。特に東京大学への合格者数は、毎年大きな注目を集めます。上位にはお馴染みの伝統校が並ぶ一方、近年急速に合格者数を伸ばしている学校もあります。

そもそも「東大への道」は他の大学と大きく違うのでしょうか。合格者数の多い学校は秘策があるのでしょうか?

今回の中学受験に関する数字…185人


東大合格者の6%は開成卒

<タカの目>(高橋真実)
新型コロナウィルス感染拡大の影響で中止になっていた中学受験の模擬試験も、徐々に開催されるようになりました。7月の模試の結果を受けて、受験生は志望校選択をしていくこととなります。

志望校選択にあたって教育内容、学校生活、校風といった要素と並んで重要な選択基準となるのが大学への進学実績です。特に、東大をはじめとする難関国公立大学、早慶などの難関私立大学の合格実績が注目されます。

そこで今回の取り上げる数字は「185人」。これは全国トップである開成高校の2020年東大合格者数です。高校からの入学者もいる開成高校の1学年生徒定員は400名。その半分近い生徒が東大に合格しています。これは、東大全合格者(推薦入試を除く)の6%になります。

第2位の筑波大学附属駒場高校は93人ですが、高校の1学年定員が160人ですので、こちらは約6割が東大に合格しています。さらに驚異的な数字です。
ちなみに、女子校のトップは桜蔭高校で85人、共学校のトップは渋谷教育学園幕張高校で74人です。

多少の増減はあるものの、継続して多くの東大合格者を出しているのが、男子御三家(麻布、開成、武蔵)、女子御三家(桜蔭、女子学院、雙葉)といった学校です。関西で言えば、今年79人の合格者を出した灘高校。いずれも教養教育を重視する伝統校ですが、これらの学校には長年にわたって築き上げられてきた「東大への道」ともいうべきメソッドがあるのでしょうか。

東大合格者数は中学受験へも影響大

一方、渋谷教育学園幕張高校や、駒場東邦高校、豊島岡女子学園高校のように、近年急速に合格者数が伸びた学校もあり、東大合格者数の順位は常に群雄割拠。これによって中学の人気度も変わり、結果として中学入試の偏差値に影響を及ぼしています。このように東大への進学実績を急速に伸ばしてきた学校には、その秘策のようなものがあるのでしょうか。

そもそも「東大への道」は他の大学とどう違うのでしょうか。

毎年春になると週刊誌がこぞって掲載する大学合格ランキングを見ながら、次々と疑問がわいてきます。教えてください、モリの目さん。

東大は他の大学と何が違う?

<モリの目>(森上展安)

タカの目さんの今回のお題は、そのものズバリの直球ですね。次々と沸く疑問のうち、とりあえず2つの疑問に答えてよ、ということですので、お答えしやすい2番目から参りたいと思います。

「そもそも"東大への道"はほかの大学とどう違うのでしょうか」を先に。

正攻法で申し上げると、これは実に簡単にお答えできます。それは東大自身がHPに公表しているからです。東大のHP(「よくある質問」→「学部入学」)を見ていただくと、「高等学校段階までに身に付けてほしいこと」というメッセージが掲載されています。

たとえば、数学のところには"「数学的に問題を捉える能力」は、単に定理・公式について多くの知識を持っていることや、それを用いて問題を解く技法に習熟していることとは違います。そこで求められている力は、目の前の問題から見かけ上の枝葉を取り払って数理としての本質を抽出する力、すなわち数学的な読解力です。"とあります。

オーソドックスこそが王道

特に前段の文章はいわゆる受験勉強を真っ向から否定していて痛快ですね。そして後段の「見かけ上の枝葉を取り払って」これが難しい。どうしても凡人は見かけたことを手掛かりに考えよう、とします。「数理として本質を抽出する力」こそ身に付けてほしい、と続くのですが、ご説ごもっとも、なのですが、それはどうすれば身につくのかと思わず声がノドまで出かかってきますね。

でもこのメッセージを読んでテクニカルなトレーニングをつむのではなく、ひたすら本質を抽出する、追求すればよいのだ、ということは明瞭でしょう。もちろん、これだけではなんのことかわかりませんから実際の問題を解いてみるとよいのですが、特に文系の数学を解いてみると上記のポリシーがストンと腑に落ちます。特に「見かけ上の枝葉」に触れている一文のところがハハーンこれを言っているのだと具体的にわかります。

このようにメッセージとこれに対する実際の出題とを行き来してみると、東大の求めている「東大への道」が究めてオーソドックスは王道だ、ということがよくわかります。あえてテクニカルに言えば「見かけ」に目を奪われないよう初見の問題に挑戦することを心掛けるとよいでしょう。

ということで「東大への道」は東大自身が公式に表明している通りで、独自というよりごく真っ当でどの大学に進むのにもよいアプローチだ、と言ってよいと思います。

東大合格には中高一貫校の方がメリットが大きい

さて、タカの目さんの次の疑問「東大への進学実績を急速に伸ばしてきた学校には、その秘策のようなものはあるか」、という第2問に移ります。

これは第1問で明らかのされたアドミッションポリシーに対してどこまで正面から取り組めるか、というように考えればよい問題です。結論から言えば、3年でやるより6年でやるほうが対応しやすいということです。

わが国の学制は中学と高校の2つに分かれていて途中に高校入試があり、ここで分断されていますから、なるべくスムースに数学なら数学の学びを6カ年を通じて学べるに越したことはありません。そうなると中高一貫校が対応しやすい分だけメリットが大きいことになります。そのことはつい最近でも都立に中高一貫校が一挙に11校もでき、それぞれが東大実績をいきなり相当数出したことみれば明らかです。

でもそれが<急速に>できるには何か秘策があるのでは?ということをタカの目さんとしては知りたいわけですね。

合格数の急増に精神的成長の早い"女子の戦力"は不可欠

私見では最も「急速に」東大合格者大量排出校になったのは豊島岡女子学園ですね。さらに言えば共学の渋谷教育学園幕張、いずれも女子が「戦力」になっています。東大はご存知のように事実上男子校ですから、男子校のライバル校はたくさんありますが、共学校や女子校はライバルが公立校だったり、そもそも女子校は理系向きが少なかったりで、優位な競争戦略がとれたからです。

さて、これらの実例から導かれる「秘策」は何でしょうか。たとえば戦力化した女子は通常スイッチが入るのが高1ではなくて中3です。それだけ精神的成長が早く、よって戦闘モードが早くとれるのです。

この女子の先行がムードメーカーになって男子に影響するというのが成功モデルです。通常、男子校男子の戦闘モード入りはいわゆる御三家でも高2から。多くの男子にとって男子校のタイムスケジュールの方が精神的成長が合っているかもしれません。

都立一貫校の「秘策」は、中高一貫校化による中1、中2での「学習のしつけ」もさることながら、やはり私立にない適性検査による入学が大きい。偏差値でなくて(つまり相対評価ではなくて)、達成度評価なので自尊感情も冷やさず自己肯定感をもって入学することができる。モリの目からみると、そこが結構大きいと思います。

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