<いまを生きる 長崎コロナ禍> 英国で暮らす母を案じ 再確認した家族の絆 佐世保の写真家 KAZUさん

 「体に力が入らないの。コロナかもしれない」。4月上旬。ミュージシャンであり写真家でもある葛城和久さん(45)=佐世保市皆瀬町=は、スマホに届いたメールを読んで固まった。送り主は英国で一人で暮らす母喜始子さん(67)。「え、マジか。うそやろ…」
 英国では当時、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっていた。葛城さんは母の身を案じたが、渡航することもできず、幼い子どもたち(孫)の動画を送って励ました。「これで負けん。ありがとう」。短文の返信が、事態が切迫していることを伝えていた。
 葛城さんは佐世保市の中学を卒業後、英国南東部サリー州の音楽学校に留学。母は「心配だ」と言って、英国まで付いてきた。葛城さんは23歳の時に帰国したが、英国暮らしを気に入った母は、永住権を取得して住み着いてしまった。
 「不思議な人でしょ? 自由というか、天真らんまんというか…」。葛城さんはそう言って苦笑する。母はレストランで働きながら趣味のカメラに没頭。今では、撮影した写真が雑誌の表紙を飾る。佐世保にはもう何年も戻っていない。

ドローンを操作する葛城さん=佐世保市内

 一方、「イギリスでバンドマンになってメジャーデビューする」と情熱を燃やしていた葛城さんは帰国後、夢を諦めきれず、音楽ユニット「サンディトリップ」を結成した。通称「KAZU」としてギターや作曲を担当。現在も佐世保を中心にライブ活動を展開している。
 2012年、妻に薦められカメラを始めた。自分でも「すぐに飽きるかな」と思っていたら、九十九島の夕日の撮影にのめり込み、写真漬けの毎日に。数年で全国のコンテストで入賞するまでになった。
 母親に影響されて始めたわけではなかったが、気付けば、親子で同じ「道」を歩んでいる。葛城さんがカメラを始めたのが37歳。母も同じぐらいの年齢だったような…。
 しばらくして、母からメールが来た。職場で感染者が続出し、母も喉に痛みがあったが、PCR検査の結果は「陰性」。「心配かけてごめんね」。葛城さんはメールを読み、胸にたまっていた不安をため息と一緒に吐き出した。そしてしみじみとこう考えた。
 「遠く離れていても、何年も顔を合わせなくても、やっぱり親子なんだな。コロナで家族のつながりを考え直した人も、案外多いのかもしれない」と。
 葛城さんはここ何年か、ドローンを使って佐世保の景色を撮影している。雄大な九十九島、雲海からのぞく西海橋、近未来的にも見える夜の造船所…。「誰も見たことがない街の姿を撮りたい」と思いながら日々愛機を飛ばす。見上げる空は、母が暮らす英国の空にもつながっている。
 

 葛城さんが撮った写真を紹介する企画「写真家KAZUのサセボ百景」を10日付の長崎新聞でスタートします。


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