住宅ローンを退職金で返済するのは損?メリット・デメリットを解説

最長35年間にわたる住宅ローンですが、老後を考えると、できるだけ早く完済したいものです。そのため、近年は退職金で住宅ローンを一括返済・繰り上げ返済する方が増えています。今回は、住宅ローンを退職金で返済するメリット・デメリットについてお話します。

定年時の残りのローンと退職金をチェック

まずは定年時のローン残高と退職金を確認し、「本当に一括返済する必要があるのか?」を考えてみましょう。その際のポイントは2つ、「金利」と「老後資金」です。

2020年現在、住宅ローンはかつてないほどの超低金利で推移しています。金利が低いほど返済負担が軽くなるため、早い段階で返済してしまう方もいます。いずれ訪れるインフレを考慮すると、その判断は間違いというわけではありません。

一方、定年退職後の老後資金も重要です。退職金で住宅ローンを一括返済した場合、老後の蓄えが減少します。

老後に何があるかは誰にも予測できません。怪我をしたり病気を患ったりして、思わぬ形で支出が増える可能性もあります。ある程度は手元に残すお金がないと、老後破産を招くかもしれません。

一般的には、定年時のローン残高が1500万円以下かつ70歳までに完済できるなら、退職金で一括返済しても問題ないとされます。この期間であれば、金利が多少変動したところで返済負担が増えません。ひとつの目安として覚えておきましょう。

退職金で住宅ローンを返済する2つのパターン

住宅ローンの返済パターンは大きくわけて2つあります。ひとつは、ローン残高の一括返済、もうひとつはローン残高の一部を繰り上げ返済するパターンです。これに加え、繰り上げ返済には「期間短縮型」と「返済額軽減型」の2種類があります。それぞれ詳しくご説明します。

退職金で残りのローンを一括返済して完済

退職金でローン残高を一括返済するパターンです。例えば、1000万円の退職金を同額の住宅ローンの返済にあて、一度に完済したとします。もし完済しきれない場合は、残高分を毎月支払うことになります。老後生活に余裕がある場合は、有効な選択肢といえるでしょう。

退職金で一部繰り上げ返済

退職金の一部を住宅ローンの返済にあてるパターンです。これにより返済期間が短くなったり、月々の返済負担を減らしたりできます。繰り上げ返済には期間短縮型と返済額軽減型の2種類があるため、目的に合わせて選ぶことが大切です。

期間短縮型とは、月々の返済額はそのままに返済期間を短縮する方法です。ローン残高の一部に退職金をあてるため、当初よりも早い段階で住宅ローンを完済できます。

また、期間短縮型は、残りの返済期間に比例して効果が高まります。早々に元金を減らせることから、将来的に支払う利息が軽減されるためです。返済期間の短縮が目的なら、期間短縮型で繰り上げ返済するのが有効です。

返済額軽減型は、返済期間はそのままに月々の返済額を軽減する方法です。例えば、住宅ローンの支払いが毎月15万円あるとします。元金の一部を返済額軽減型で返済すると、返済額によっては10万〜12万円程度に抑えられます。

これは繰り上げ返済の翌月から反映されるため、比較的効果を実感しやすいはずです。月々の返済負担が軽減されるほか、利息の総支出額も軽くなる、バランスの良い返済方法といえます。

住宅ローンを退職金で返済するメリット

住宅ローンの支払いに退職金をあてる場合、さまざまな金銭的メリットが発生します。ここでは、住宅ローンを退職金で返済する3つのメリットをご紹介しましょう。

住宅ローンを退職金で全額、あるいは一部を返済すると、将来的に支払う利息が減ります。特に一括返済の利息軽減効果が大きく、長い目でみると非常にお得です。繰り上げ返済も利息軽減につながりますが、一括返済ほどの効果は期待できません。老後資金に余裕があるなら一括返済、お子さまの養育費や生活費を確保したいなら繰り上げ返済と、状況に応じて選択しましょう。

毎月の家計の負担を減らせる

定年退職後は、当然ながら給与所得がなくなります。そのまま住宅ローンの支払いが続くと家計を圧迫し、生活が苦しくなることがあります。退職金で住宅ローンを一括返済すると月々の支払いがなくなり、その分を家計に回すことが可能です。また繰り上げ返済においても、返済額軽減型ならば月々の返済負担が軽減されます。結果的に家計負担も減り、安定した暮らしが送れるようになるでしょう。

金利上昇の対策になる

日本はバブル崩壊後、約30年にわたって住宅ローンの低金利状態が続いています。ただ、何がきっかけで金利が上昇するかはわかりません。突然金利が上昇し、月々の返済負担が増加する可能性もあります。金利が低いうちに住宅ローンを完済しておけば、将来的な金利上昇の影響を受けずに済むはずです。住宅ローンの一括返済・繰り上げ返済は、金利対策としても有効といえます。

住宅ローンを退職金で返済するデメリット

ここでは、住宅ローンを退職金で返済する際に気を付けたい、2つのデメリットをご紹介します。

老後資金や急な支出に回せる現金がなくなる

最大のデメリットは、手元から現金がなくなることです。厚生労働省が公表した「平成30年就労条件総合調査」によると、勤続年数20年以上かつ45歳以上の退職金は、大卒で平均1983万円とのこと。ここでは約2000万円として計算します。

仮に40歳で3000万円の住宅ローンを組んだ場合、2%の固定金利であれば、60歳時点でのローン残高は約1500万円です。退職金で住宅ローンを一括返済すると約500万円しか残りません。

“人生80年時代”といわれる今、500万円の貯蓄のみで老後生活を送るのはやや不安です。家族が怪我をしたり、病気を患ったりして、思わぬ出費が生じることもあります。資金に余裕がない状態では、万が一の出費に回せる現金が不足するかもしれません。もし退職金で住宅ローンを一括返済・繰り上げ返済するならば、老後資金に余裕があるかしっかりと計算しておきましょう。

参考:平成30年就労条件総合調査

団体信用生命保険がなくなり死亡保障が減る

住宅ローンを組む際は、「団体信用生命保険」に加入するのが一般的です。これはローン契約者が万が一死亡した場合、ローン残高を保険金で弁済する保障制度のことです。団体信用生命保険に加入していれば、残された配偶者や子どもによるローン返済が免除されます。

問題なのは、住宅ローンを一括返済したタイミングで契約者が死亡した場合です。本来、保険金で保障されるはずの残高を自己返済することになるため、退職金を無駄に支払う形となります。当然ながら、家族に残せる財産も大きく減るでしょう。団体信用生命保険の死亡保障を考えると、住宅ローンの一括返済にはリスクがともないます。

繰り上げ返済は効果が実感しにくい?

一括返済に比べると、繰り上げ返済は効果を実感しにくいといいます。その理由について、シミュレーションしながらお話します。まずはシミュレーション条件を設定しましょう。

シミュレーション例(繰り上げ前)

借入額  年利  返済期間 月々の返済額 総返済額
3000万円 1.4% 35年   9万393円   約3797万円

上記の条件において、ローン契約後から2年のタイミングで100万円を繰り上げ返済するとします。期間短縮型・返済額軽減型でそれぞれ返済すると、以下のようになります。

期間短縮型(繰り上げ後)
借入額  年利  返済期間  月々の返済額 総返済額  
3000万円 1.4% 33年6ヶ月 9万393円 約3738万円

返済額軽減型(繰り上げ後)
借入額  年利  返済期間  月々の返済額 総返済額   
3000万円 1.4% 35年 8万7225円 約3772万円

期間短縮型の場合、返済期間が1年6ヶ月短縮されました。また59万円の利息分がなくなるため、総返済額は約3783万円となります。一方の返済額軽減額では、月々の返済額が約3000円下がり、8万7225円に軽減されます。さらに25万円の利息軽減があるため、繰り上げ後の総返済額は約3772万円です。

どちらも着実な効果はあるものの、ローン返済を続けなければわかりにくいのが実情です。その点、一括返済は返済期間短縮・返済負担軽減・利息軽減などが目に見えるため、効果を実感しやすい返済方法といえます。

家計の見直しや住宅ローンの借り換えの検討も

やみくもに退職金で住宅ローンを返済するのは、得策ではありません。家計を見直したり、超低金利の住宅ローンに借り換えたりするのもひとつの手です。

例えば、資金運用です。超低金利の住宅ローンに借り換えし、余剰金を定期預金や個人向け国債、投資信託・株式投資などで運用する方もいます。もちろん、全額を貯蓄に回し、これまで通りコツコツ返済しても構いません。利息分を損するかもしれませんが、老後破産に至るよりは堅実でしょう。

結局は、安心して老後を暮らせるかどうかが重要なポイントです。老後資金に余裕のない状態で返済をしても、その先の豊かな暮らしは担保されません。一生懸命働いて手にした退職金だからこそ、住宅ローンの返済にあてるべき否か、慎重に判断していきましょう。

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