絶景と秘湯に出会う山旅(10)霊峰・月山と湯田川温泉

都道府県境をまたぐ移動ができるようになりましたが、慎重な行動はまだ必要なようです。しかも梅雨の悪天候が続きます。ならば、清々しい山旅と伝統ある名湯で旅の気分を味わっていただければと、山形県の名峰・月山からの絶景と、千年以上の歴史を持つ湯田川温泉をご紹介します。

月山の高層湿原を散策

山形県の中央に位置する日本百名山の月山。標高1,984m。登山客だけでなく、現在でも山岳信仰の山として修験者や参拝者が数多く訪れます。上の写真のひまわり畑の向こうに見えるのが月山。その女性的なやさしい山容は庄内平野の至るところから見ることができます。

月山登山のもっともポピュラーなコースは北側の8合目、弥陀ヶ原(みだがはら)から登るルートです。登山口から2時間半から3時間ほどで山頂にたどりつきます。ちなみに鶴岡駅からこの8合目まで庄内交通の路線バスも走っています。

山頂までの登山はムリという方におすすめなのが、標高1,400mあまりの8合目周辺に広がる弥陀ヶ原湿原を高山植物や池塘(ちとう)を見ながら散策するコース。なだらかな湿原の中を整備された木道を歩きながら、一周1時間ほどで美しい自然散策を楽しめます。

7月から8月にかけて湿原は高山植物が咲き誇ります。上の写真は清々しいハクサンフウロ。そのほか、イワカガミやチシマギキョウ、チングルマにニッコウキスゲ、クロユリ、リンドウなどなど、たくさんの高山植物が見られます。積雪の多い月山では、雪が解けると同時にいっせいに花々が咲き乱れるのです。

そしてもうひとつ、弥陀ヶ原湿原の見どころが池塘です。池塘とは、高層湿原の泥炭層に生まれた小さな池のこと。尾瀬にもたくさんありますね。標高もこの弥陀ヶ原と尾瀬は同じ1,400mあまりなのです。

湿原からは、日本海や庄内平野、そして遠く北の山々が見渡せました。向こうに見える山影は標高2,236mの鳥海山。山形県と秋田県の県境にある名峰です。

山岳信仰の山・月山

弥陀ヶ原から10分ほど進むと「月山 中の宮 御田原(みだはら)参篭所」にやってきます。参篭所は、一定の期間こもって神仏にお祈りする施設です。とはいえ現在は出羽三山の参拝者だけでなく、観光客もここで精進料理をいただいたり、宿泊することもできます。

この中の宮にある御田原神社。社殿は山頂にある月山神社本宮の、20年に一度の式年遷宮の古材を用いて建てられ、月山頂上の本宮参拝が叶わない人のための遥拝所になっているのだそうです。ちょうど白装束の参拝者がお詣りをしていました。

そして、鳥居。ここからが月山神社の神域、境内ということなのでしょう。

登山道は中くらいの大きさの石がごろごろしていますが、傾斜は緩やか。途中の高山植物を観察しながら、のんびりと歩くことができます。

1時間あまりで中腹にある佛生池小屋までたどり着きました。ここがほぼ中間地点です。この夏も営業をしているといいます。小屋には疲れた体を癒す力餅やおでん、コーヒーに甘酒、ソフトクリームなどがあり、宿泊もでき、トイレもあります。

佛生池小屋の名前は、小屋の前にある池塘のひとつ、「佛生池(ぶっしょういけ)」からきています。

ちなみにこの月山と羽黒山、そして湯殿山の「出羽三山」。この3つの山は今から1400年以上前、第32代崇峻天皇(すしゅんてんのう)の皇子、蜂子皇子(はちこのおうじ)によって開かれたといいます。祖先の霊や山の神・海の神を祀る山として古くから信仰を集めてきた修験道の霊山、それが「出羽三山」なのです。

3つの山は一筆書きのように連なった山で主峰が月山、北に下ったところに羽黒山、西に下ったところに湯殿山が位置しています。そして羽黒山が現世、月山が前世、湯殿山が来世という三世の浄土を表し、参拝者は羽黒山、月山、湯殿山の順に回るのだそうです。

山頂にある月山神社本宮

周辺が賽の河原のような風景になってきました。山頂は間近です。西の伊勢神宮参りに対して、出羽三山に詣でることを「東の奥参り」というのだそうです。「生まれ変わりの旅」と考えられており、パワースポットとしても参拝者が絶えません。

ついに山頂に到着。とはいえ、ここは月山の最高所ではありません。ふつう山頂には三角点が置かれていますが、月山の最も高い場所には三角点がありません。国土地理院が測量をしたときには月山の頂上にはすでに月山神社本宮があったので、三角点を置くことができなかったといいます。そのため現在の月山の三角点は頂上よりも低い位置に置かれているのだそうです。

最高所がこちら月山の本宮です。ここで参拝料を納めてお祓いを受け、身を清めなければなりません。参拝料は神社の運営費のほか、参道整備やトイレの建設費などに使われているといいます。参拝を終え、清々しい気持ちで遠く美しい山並みを眺めました。

1300年の歴史を持つ湯田川温泉

下山後に宿泊したのは、「鶴岡の奥座敷」といわれる湯田川温泉。1300年ほど前の和銅5年、傷を負った1羽の白鷺が葦原に舞い降り、湧いていたお湯で傷を癒やしたといい、かつては「白鷺の湯」と呼ばれていたそうです。

お世話になったのは温泉街の中央に位置する「珠玉や(たまや)」です。こじんまりした宿ですが、大きな3つの無料貸切風呂を楽しむことができます。また姉妹館の「九兵衛旅館」にある2つの大浴場や、湯田川温泉共同浴場も無料で入ることができます。どちらも歩いて2分ほどの場所にあります。

古民家風の造りで、チェックイン時にロビーでひと休みして、夏は山形産りんごジュース、冬は北海道産韃靼そば茶をいただくことができます。

貸切風呂は事前に予約する必要はありません。空いていればカギをかけて入浴すればOK。湯田川温泉は毎分約1,000リットルと豊富な湧出量を誇る硫酸塩泉で、源泉かけ流しなのです。トロトロして柔らかい美肌の湯です。

日本海で採れる旬の魚介類や、庄内平野の新鮮な野菜が供されます。盛り付けもきれい。心も体も清々しくなれる山旅、ゆっくりと旅ができるようになったら、ぜひぜひ訪ねてみてください。

湯田川温泉 珠玉や

住所:山形県鶴岡市湯田川乙39

電話:0235-35-3535

http://www.kuheryokan.com/tamaya/

[All Photos by Masato Abe]

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