6月の練習試合で乱打戦頻発…データで検証、開幕延期は投手の調整に影響を与えたのか

西武・山川穂高、広島・メヒア、ソフトバンク・柳田悠岐(左から)【写真:荒川祐史、福谷佑介】

6月の練習試合は得点と本塁打が増…客観的なデータで見ても乱打戦が多かった

6月19日、ようやく2020年のプロ野球が開幕しました。今季は開幕延期や練習の自粛もあり、選手は例年とは異なる調整を強いられた中で開幕を迎えています。開幕前の練習試合では乱打戦が非常に多かったことから、開幕延期の影響が投手の調整不足を招いているのではという指摘もありました。例年と比べ調整具合はどうだったのか。データから検証を行ってみたいと思います。

まず、練習試合が本当に乱打戦だったのかどうか、客観的なデータで見ていきたいと思います。イラストには2019年のセ・リーグ、パ・リーグと、3月のオープン戦、オープン戦終了後に行われた3月の練習試合、そして開幕前の6月の練習試合における1試合平均得点と1試合あたりの本塁打を示しました。

6月の練習試合は本当に乱打戦が多かった

昨季のデータから見ると、セパともに1試合平均得点は4.2~4.3点。1試合あたりの本塁打は1.0本という値でした。これが3月に行われたオープン戦や練習試合では1試合平均4.0~4.2点。1試合あたりの本塁打も0.7~0.8本と、昨季のレギュラーシーズンに比べるとやや得点や本塁打が入りにくかったようです。

ただこれが自粛明けの練習試合では1試合平均4.6得点、1試合あたりの本塁打も1.2本と、昨季のレギュラーシーズンと比べてもかなり得点・本塁打が多く生まれています。6月に乱打戦が多かったのは客観的なデータから見ても事実だったようです。

乱打戦頻発の理由は? 本当に投手は調整不足なのか…

ただ乱打戦が多かった=投手のコンディションが悪かったと結びつけるのは早計です。それ以外の要因が乱打戦を生んでいる可能性も十分に考えられるためです。また、探せば調整の遅れている投手もいたかもしれませんが、その数名の投手の調整遅れをもって開幕延期の影響が出たとはいえません。

そこで今回は、NPB全体のストレートの球速に注目したいと思います。毎年選手の入れ替わりが多くあるプロ野球界ではありますが、ストレートの球速を集計した場合、毎年それほど大きな変動はありません。6月に行われた練習試合におけるストレートの球速が、例年のNPB全体の球速から逸脱して遅くなっているようであれば、それは開幕延期による調整の遅れであると考えられるのではないかと思います。

またストレートの平均球速は開幕時が最も遅く、その後はゆるやかにスピードが増していくことが研究によってもわかっています。これらから、単純に昨季とストレートの球速を比べるのではなく、月別に分けてストレートの平均球速を比較してみたいと思います。

開幕時と6月のストレート平均球速の比較

まず昨季までの月別の球速から見ていきましょう。イラストには2017-19年の3・4月と6月のストレート平均球速が示されています。2019年で見ると、3・4月のストレート平均球速143.6キロに対し、6月は144.4キロ。この年の場合、6月と開幕当初では0.8キロほどストレートの球速差がありました。これは2017-18年でも変わりません。前述の研究のとおり、シーズンが進むほどにやはり球速は上昇していくようです。

その傾向が今季についてどうなっているのかを見てみましょう。今季は調整不足が懸念されるため、例年のようにこの時期に球速が上がっていない可能性は十分考えられます。2020年についてはオープン戦、3月の練習試合、6月の練習試合の3つで比べました。これを見ると、オープン戦が143.2キロ、3月の練習試合が143.2キロだったのに対し、6月の練習試合では144.3キロ。例年と同じように6月にストレートの球速は向上していました。

また2019年の6月のストレート平均球速は144.4キロ。今年の6月の練習試合における144.3キロは昨季6月のレギュラーシーズンに比べても遅くありません。ストレートの球速だけで投手のコンディションのすべてを語ることはできませんが、少なくともスピード面から調整不足である様子は感じられませんでした。

球速を球場ごとに比べてみると…

ここまでNPB全体のデータを見てきましたが、6月に行われた練習試合は通常のレギュラーシーズンと違い、一部の球場で偏って開催される特殊な事情がありました。楽天生命パークや札幌ドームのように試合が開催されなかった球場もあります。ストレートの球速は球場ごとの計測環境の影響を受けるため、こうした要素が2020年のストレートの平均球速を歪めてしまい、例年と比べてそれほどストレート平均球速が変わっていないように見えた可能性は否定できません。

そこで2020年6月の練習試合と2019年の6月でストレートの平均球速の比較をしました。6月の練習試合がなかった、楽天生命パークと札幌ドームを除いたデータをイラストに示します。

6月におけるストレート平均球速を球場別に比較

2019年との比較では、甲子園での球速が2.2キロと最も上がっています。これについては今季から計測環境が変わった影響が大きいと考えられます。甲子園球場での球速は今季からトラックマンで計測されるようになったという報道がありました。トラックマンによる球速表示は従来の計測法よりも速く表示されることが知られています。

それ以外の球場に目をやると、球速が上がっているのは東京ドーム、京セラドームだけで、あとは2019年の6月とほぼ同等かわずかに球速が落ちている球場が多いです。最も遅くなっていたのはZOZOマリンの約1.6キロでした。とはいっても一部の球場の計測が全体のデータに大きな影響を及ぼしているというほどではなく、全体的にはこの程度であれば誤差の範囲と見ても問題ないレベルではあります。球場ごとに見ても、少なくともこの球速データからは今年6月の練習試合で投手のコンディションが落ちていたようなデータは得られませんでした。

ただし、ストレートの球速以外の部分で調整不足が起こっている可能性は当然考えられます。投手のコンディションのすべてが球速に反映されるわけではありません。ただ投手がどれだけスピードのある球を投げられるかがコンディションのバロメータのひとつとして考えられるのもまた間違いありません。6月に行われた練習試合での打高投低傾向をそのまま投手の調整不足とつなげて考えるのは慎重になるべきかもしれません。(DELTA・佐藤文彦)

DELTA(@Deltagraphs)
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』も運営する。

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