『パブリック 図書館の奇跡』日本のアフターコロナを考えさせられる

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 俳優のエミリオ・エステベスが実際にあった記事から着想を得て作った感動作。大寒波が押し寄せたシンシナティの公立図書館で、居場所のないホームレスたちのために夜の図書館を明け渡した図書館員の男と、ホームレスたちの奮闘をユーモアを交えながら描きます。

 開館と同時に入ってきたホームレスたちがトイレで歯ブラシをしたり、身なりを整えるシーンから始まった本作。わたしも初めて知ったのですが、アメリカの公立図書館は場所によってはホームレスの居場所の一つとなっており、凍てつくような寒さから逃れるために、彼らは公立図書館へと逃げてくるのです。それでも夜には閉めてしまう図書館。凍死するホームレスが続出する大寒波の時期はシェルターも満員でマイナス10度の路上で寝なければいけない。死と隣り合わせの彼らの環境を考えれば、図書室に夜の間だけ残らせてほしいと訴える気持ちもよく分かります。それでも社会のルールでは許されないこと。駆けつけた検察官は、なんとかこの状況で活躍して、狙いを定めている知事選の票を集めようと躍起になり、暴力で強行解決しようとします。映画の中で、「図書館は、最後の民主主義の場」という言葉がありますが、ホームレスの人たちにももちろん人権があるのです。この映画を観ているとき、ふと日本の避難所で門前払いをされたホームレスの方の話を思い出しました。国のために戦った後にPTSDが発症してまともな職にも就けない退役軍人、幸せな家庭を築きながらも失職により路上生活を余儀なくされている人もいる。日本もまた、このコロナ禍で多くの人が突然の路上生活を強いられてしまっていると聞きました。今年の1月に観ていたら、違う受け止め方をしたはずの映画だと思います。明日は我が身、そんな思いで観ると改めて多くのことを考えられると思います。★★★★☆(森田真帆)

7月17日から全国順次公開

監督:エミリオ・エステベス

出演:エミリオ・エステベス、アレック・ボールドウィン、クリスチャン・スレイター

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