【おんなの目】 小さな遠出

 鬱陶しい梅雨の晴れ間、遠出した。新型コロナウイルス感染防止による自粛生活が解除されたので出かけた、といっても市内。長門峡へ。山口線で四十分弱。一両だけの列車。山口駅からは十人の乗客があったが二つ目の駅で八人降車。近くの大学の学生さんだ。残ったのは初老の私と同じ年頃の女性。

 車窓には繁茂した木々の様々な緑色が見える。美しいのは少し成長した苗の薄い緑色。整然と植えられた苗が風で同じ方向に揺れるのは見事。周囲に赤い石州瓦の家が点在する。コトコトゴトゴト、眠たい揺れで進んで行く。列車っていいなあ。

 無人駅の長門峡で私と女性が降りた。昨日までの雨で長門峡の空気は髪が濡れそうなほど湿っぽい。道の駅に向かう。目当ての名物阿東牛の牛丼を食べた。歩くことの嫌いな私は長門峡を散策しない。友達を誘わなかったのは−長門峡を歩きましょうよ−と言われかねないからだ。入り口の橋の上からソフトクリームを食べながら下を覗いたら、峡の流れは速く青黒い色をしていた。

 売店で同じ列車だった女性が阿東牛肉を大量に買っていた。夕食はすき焼き? それにしても大家族! 大きな深呼吸をして次の列車まで二時間の滞在。一両のワンマンカーに大きなリュックの女性も乗車。ゴトゴトゴトゴト。乗りたかったのだ。

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