「テレワーク雑談恐怖症」「スマホ依存症」…すべて原因はコロナ? “脳リノベーション”でストレスに打ち勝つ方法を考える

リノベーション──一般的には「住まいの改修・改善」のことをこう呼びますが、空間環境だけではなく日常生活全般をもリノベーション(改革・刷新)すると、QOLはよりいっそう向上していくはず。LogRenoveは、日々の何気ない暮らしのなかで、我々が直面するさまざまな悩みの解決策を、斯界の識者とともに探っていきます。さあ、私たちと一緒に「ライフスタイルのリノベ術」を追究していきましょう。

Q1.新型コロナショックによる外出自粛要請以降、私の会社もテレワークがメインになりつつあるのですが、オンラインでのやりとりが続くなか、あらためて「自分は雑談が苦手だ」と気づいてしまいました。近ごろは“雑談”のネタを探すのに、けっこうな時間を要してしまい……。このままだとストレスが溜まるばかりです。(38歳・既婚男性/IT会社勤務)

「テレワーク雑談」が苦手な人はホスピタリティにあふれている?

テレワークが一般化するなか、同僚や取引先とのコミュニケーションもオンラインで行う必要性がでてきた。これがまた、仕事以上にややこしい…

21世紀に生きる人類にとって未曾有の経験である新型コロナウィルスの蔓延によって、これまでになかった“新たなストレス”に頭を悩ませる人が確実に増えています。今日は、これら多種多様な「コロナストレス」に打ち勝つ方法を脳神経外科医の菅原道仁先生に、脳科学の見地から語っていただきました。

まず、なによりも先に「いろんな出来事に対する心の反応とされる『ストレス』を起こす原因である『ストレッサー』を特定する作業が重要」だと菅原先生は言います。

前出の相談者に例えると、本当のストレッサーは「コロナ」なのか、それとも「雑談」なのか? 答えは明確! 後者の「雑談」です。

次に、ストレッサーとなっている「雑談が苦手」をリフレーミングしてみましょう。リフレーミングとは、物事を見る枠組み(frame)を変えて、別の枠組みで見ること(re-frame)です。たとえば「雑談が苦手」という、一見は“短所”と捉えられがちな性格をリフレーミングしてみると……。

コミュニケーションを億劫がる人のなかには「仕事の話ならできるけど、雑談は苦手」という人が、けっこういますよね? 「なにを話しても自由」という縛りの無さが、逆に「なにを話せばいいのかがわからなくなる」という混乱を招いてしまうわけです。マニアックな話をもちかけてドン引きされても嫌だし……。おそらく、そんなことを逡巡しているうちに、気疲れしてしまうのでは? ましてや、オンラインという慣れないツールを使用しての会話だと、その苦手意識がいっそう際立ってしまいがちで……。

しかし、それはべつの角度から見ると、いわばリフレーミングしてみれば、「この話って面白いかな?」「相手が興味無かったら申し訳ないな…」と、他人の気持ちに配慮できる性格だとも解釈できます。イコール、ホスピタリティに長けている──とても素敵じゃないですか! ホスピタリティはあらゆる仕事の基本ですから、ぜひともここは大切に持ち続けてください。

とは言え、他者と一切話さなくて済む特殊な仕事に就いている人でもないかぎり、雑談をせざるを得ない状況には必ず直面するはず。一体どうすれば……? 菅原先生のアドバイスを聞いてみましょう。

「雑談が苦手な人には、ある特徴があります。それは“意識のフォーカスを自分に合わせている”ということ。ホスピタリティの強さゆえ、自分が持ち出した雑談の内容を『つまらないって思われないかな…』などと、必要以上に気にかけてしまう。表現を変えれば、自分がどう見られているか…ばかりを考えてしまっているわけで、“自分”を関心の中心に置いているために、緊張して自ら話しかけるのが面倒になるのです。これは、いわば“脳が怠けている”状態。そして、油断していたらすぐに怠けてしまう脳をホンのちょっぴり動かすだけで、あなたは自身の評価や行動をガラッと変えることができます。この場合の“動かし方”は、定位置に固定化されたフォーカスをくるっと回してみること。“意識のフォーカスを他人に合わせること”です」(菅原先生)

仮に、あなたがテレビクルーになったと想像してください。街へとビデオカメラ片手に取材に出ています。面白そうな人を見つけて、インタビューを撮るのが仕事です。

あなたはカメラを覗き込みながら、自分が好ましく感じる点や、共感を覚える点など、いい意味で興味をひく人を探します。「あ、あの人の服の着こなし、素敵だな」「自分の好きなデザイナーのバッグを持ってる。気が合うかも…」「声がとても通るけど、もしかして学生時代は演劇部? あるいは落研?」……といった具合です。この手のヒューマン・ウォッチングはホスピタリティにあふれたあなたの得意分野であるはず……。

さて。このときのあなたは、きっと緊張なんてしていません。理由は「見られる側」ではなく「見る側」にいるから。こういった“発想の転換”を実生活でも試してみてください。街頭インタビューの要領で「その服、素敵ですね。どこのブランドですか?」「よく通る声ですね。なにか特別なことをしていたんですか?」と訊ねるだけでOK。関心の中心はすでに“自分”から“他人”に移っているので、気負わずに会話をスタートできることができます。話し上手になろうとするのではなく、聞き上手になるのがポイント。「いきなり馴れ馴れしいとウザがられたらどうしよう…」と“自分”の心の声が聞こえてきた場合は、すかさず“相手”の「自分に興味を持ってもらえるのって、ちょっとうれしいな…」という心の声にフォーカスを移しましょう。

以上がリフレーミングによって、自分が“短所”だと思い込んでいた性格を“長所”に転換し、なおかつその“長所”を活かしながら「すぐ怠けてしまいがちな脳」を活性化させるテクニックです。

もう一つ、現在のウィズコロナ時代に、いかにもありそうな悩みをピックアップしてみました。

Q2.新型コロナショックで自宅にいる時間が長くなり、そのせいかスマホをいじっている時間も劇的に増えてしまいました。先月はとうとう一日平均が10時間を超えてしまいました。さすがにヤバいと焦ってはいるんですけど、最近は勤務先ですらスマホが手元になければ不安で不安で……どうしてもやめることができません。(30歳・未婚男性/リサーチ会社勤務)

スマホからインプットした情報は積極的にアウトプットを!

コロナ禍でスマホへの依存度が高まった人は多いと思うが、スマホの使用頻度が高いこと自体は問題ないと菅原先生は語る。問題なのは「スマホに主導権を握られている」状態

「スマートフォンを手放せない」という習慣は、とくに30代以下に多いと聞きます。新型コロナウィルスの猛威がまだおさまる気配も見えず、自主的に外出を自粛している人も少なくない昨今、“スマホ依存”に悩む人たちはますます増加しているようです。けれど、それははたして「ダメなこと」でしかないのか? さっそくリフレーミングしてみましょう。

「まったく問題はありません。気になったことをその場で調べれば知識も豊富になりますし、SNSで培ったゆるくて広い繋がりで、仕事がしやすくなることだってあります。スマホによって、手にしたチャンスを活用できるあなたは、成功への近道を知っている人。これからも使えるものはどんどん使ってください」(菅原先生)

でも、ポンポンと飛び込んでくるSNSやメールのプッシュ通知が気になって、何時間もスマホを触ってしまい、仕事がおろそかになるのはさすがに考えもの……。夜中までその調子だと、睡眠不足から生産性も落ちてしまいます。

そんなあなたの“伸びしろ”(=脳の怠けている部分)は、スマホを意識的に使いこなせるようになること。「スマホに人生を握られちゃっているな…」と感じている今こそ、その主導権を自分の手に取り戻すチャンスなのです。起こすべきアクションは次の二つ!

【アクション1】
じつは「スマホなしではいられない」という人は、スマホが視界にあるだけで、仕事や勉強の効率が下がることがわかっています。

テキサス大学オースティン校にあるマコームズ・スクール・オブ・ビジネスのワード准教授らの研究では、800人近くのスマホユーザーに、集中しなければ解くのがむずかしいテキストを受けてもらいました。その際、参加者にはスマホの電源をオフにした上で、「伏せてテスクの上に置く」「ポケットにしまう」「自分のカバンにしまう」「別の部屋に置く」のいずれかを無作為に指示──さて、その結果は……?

もっとも成績が良かったのは、スマホを「別の部屋に置く」よう指示された人たちで、わずかな差で続いたのが「ポケット・カバンにしまう」よう指示された人たち。もっとも成績が悪かったのは「デスクに置く」ように指示された人たちでした。

なので、集中して仕事をするときは、まずスマホの電源を切り、見えないところへしまうこと。できればロッカーなど、離れた場所にしまってみてください。たしか、カリスマホストとして大ブレイク中のローランドさんも、自宅で就寝前には、スマホを黒いボックスに入れて封印する……みたいなことをおっしゃっていましたよね。

【アクション2】
スマートフォンは素晴らしいツールです。欲しい情報がどこでも瞬時に得られることによって、我々の生活は飛躍的に便利になりました。しかし、ここにも一つ問題があります。スマホで一日中、情報をインプットし続けることで、脳が情報でいっぱいになり疲れてしまうのです。

コンピュータが計算するときに扱える数値の最大値を超えることを「オーバーフロー」といい、システムが止まってしまうこともありますが、私たちの脳もそこは同じ。こうしたオーバーフローな状態が続くと、脳の血流が低下して、物忘れが激しくなります。意欲や好奇心が低下するなど、認知症のような症状が見られるケースもあるんだとか……。

「そうならないためにも、おすすめしたいのが“アウトプット”することです。脳は、インプットよりアウトプット志向。何度もアウトプットする(=思い出す)ことで、脳内の“海馬”がその情報を大切なものと認識して“長期記憶”へと振り分けます。インプットした情報を繰り返しアウトプットすることで、記憶力が高まるのです」(菅原先生)

スマホで得た情報をブログで公開するのも良し。「これこれこんな話があってね…」と友人や恋人に伝えるだけでも十分な効果はあります。あと、140文字にまとめて、ツイッターでユーモラスにつぶやいてみるのもいいでしょう。

悪いストレス「コロナ」は残念ながら無くならない

あなたの心を動かすストレスには「良いストレス」と「悪いストレス」がある、と菅原先生。

「良いストレス」とは「自分に役に立つストレス」のことで、夢や目標、やりがいのある仕事、良い人間関係……など、自身を奮い立たせてくれたり、元気付けてくれたり、ヤル気になる刺激をもたらしてくれます。

いっぽうの「悪いストレス」とは「自分に役に立たないストレス」のことで、人間関係の不和、疲労、不安など、自身の身体が苦しくなったり、気持ちが不安定になり、ヤル気をなくすなどの症状を起こしてしまいます。

これからの我々の悩みの多くは、冒頭にあった「ストレッサーを特定する作業」をすると、「コロナ」に行き着くことになるのかもしれません。そして、残念なことに「コロナ」が「悪いストレス」に部類するのは間違いありません。しかし、当面あいだ「コロナ」がいなくなることもない……。となれば、相手(=コロナ)を変えようとするのは不可能、結局は「自分が変わる」しかないのです。

コロナは無くならないので
逃げるは恥だが役に立つ!

このスローガンを胸に、みんなでこの煩わしい新型コロナショックに打ち勝っていきましょう。

取材・文:山田g事務所

菅原道仁(すがわら・みちひと)

1970年埼玉県生まれ。現役脳神経外科医。クモ膜下出血や脳梗塞といった緊急の脳疾患を専門として救急から在宅まで一貫した治療システムの提供を目指し、北原国際病院に15年間勤務。現在は菅原脳神経外科クリニック院長、菅原クリニック・東京脳ドック理事長。その診療体験をもとに「人生目標から考える医療」のスタイルを確立する。『名医のTHE太鼓判!』(TBS系)などテレビ出演多数。脳の仕組みについての独自のわかりやすい解説が支持されている。『「モテ」と「非モテ」の脳科学〜おじさんの恋はなぜ報われないのか〜』(山田ゴメス共著/ワニブックスPLUS新書)『すぐ怠ける脳の動かし方〜脳神経外科医が教える「すごい生産性アップ術」〜』(青春新書)ほか、著書も多数。

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