コロナ禍で全国の大学馬術部が悲鳴 資金繰り悪化「餌がなくなる」「バイトできない」

早稲田大馬術部の馬=東京都西東京市

 新型コロナウイルスの感染拡大で、全国にある大学馬術部の資金繰りが悪化している。馬の管理には多額の費用がかかり、餌代や医療費、装蹄代に加え、大会出場のための輸送費は部員がアルバイトをして一部を負担するのが一般的だ。しかし、コロナ禍による部活動の制限や社会活動の停滞で、競技会の運営補助や馬関係のアルバイトなど、主要な収入源が絶たれてしまった。ピンチを寄付金でしのいだ部もあるが、関係者は「資金不足は馬の命に直結する問題。いつ元通りになるのか」と話し、先行きに不安を抱える。(共同通信=岡田健太郎)

 ▽部を去った学生も

 「このままでは馬にやる餌がなくなってしまう」。6頭を所有する静岡大では、6月中にも餌代が払えなくなるという状況にまで追い込まれた。年間で約250万円がかかり、他の経費も入れると計約480万円が必要となる。うち300万円以上は、学生が大会補助や乗馬クラブでのバイトをして調達する予定だったが、大会が軒並み中止になるなどして収入が激減した。部員が直接納める部費の金額を大幅に引き上げて対応しようともしたが、学生には負担が重く、経済的な理由で部を去る学生も出た。

練習する静岡大馬術部の部員ら

 部の存続の危機だと感じた顧問の河岸洋和(かわぎし・ひろかず)教授(63)が地元紙などを通じて窮状を訴えたところ、県内外から2千件以上の寄付の申し出があり、当面の活動資金を確保することができた。河岸教授は「皆さんの協力で馬の命を守ることができ、感謝する。部で馬を養えなくなっても、引き取り手は見つかりにくいのが現実だ。寄付金は、飼育環境の改善などにも使わせてもらいたい」と話した。

 ▽OB・OGの支援でしのぐ

 約20頭がいる早稲田大では、大学から部活動を自粛するよう指示があったものの、馬の管理は中断できないため、感染拡大防止策として部員25人を2班に分けた上で厩舎(きゅうしゃ)での世話を続けた。競馬場で行うバイトができなくなったり、大学が提供している馬術の実技授業が中止になって指導代が出なくなったりしたため、年間運営費のうち約150万円が不足する恐れが出た。

練習する早稲田大馬術部の武井梧右主将

 OB・OGらでつくる組織が中心となり資金をかき集めてしのいだが、長期的には十分と言えず、感染の第2波への懸念もぬぐえない。4年生で主将を務める武井梧右(たけい・ごう)さん(21)は「OB・OGのおかげでいったん危機は脱したが、大会の中止などが断続的に続けばまた同じ事態に陥ってしまう」と心配の種は尽きない。

 ▽輸送費100万円以上

 全日本大会などの大規模な競技会は、競技場が充実している関東や関西での開催が多く、遠方の地方大学には輸送費が重くのしかかる。北海道大では、サラブレッドの競売会を補助するバイトなどがなくなり、部の貯金は大きく目減りした。

練習する北海道大馬術部の部員ら(同部提供)

 北海道から本州へ競技馬を運ぶと、1回の輸送費で100万円以上かかることもあり、今後も継続して出場する大会を厳選するなど、できる限り出費を切り詰めざるを得ない。4年生で主将の宮川寛希(みやがわ・ひろき)さん(21)は「以前から資金不足に悩まされいる。近年、20人以上いる部員に対して、馬を8頭まで減らした。コロナ禍が続き、これ以上資金が先細ると大変な事になってしまう」と強い危機感を感じている。

 ▽「余った物資などで支援を」

 全日本学生馬術連盟(東京)によると、加盟する大学公認の馬術部があるのは78校。このほかにも、加盟していない部活や同好会などが全国にあるとみられる。加盟校を対象としたアンケート調査を行ったところ、「経済的にかなり苦しい」との回答が多数寄せられた。連盟は経済支援の拡充を図っているものの、資金力には限界があるという。

馬の世話をする静岡大馬術部の部員

 橋本茂(はしもと・しげる)理事長(62)は「大学馬術部は日本の馬術競技の基礎と言える。資金繰りが悪化した状態が続けば、将来的には全体が盛り下がってしまう」と声を落とす。馬術部は競馬での活躍を終えた馬が第2の「馬生」を送る場所として機能している一面もあり、活動内容が理解されるようにPR活動を続けるとしている。橋本理事長は「自分が住む地域にある部に興味を持ってもらえるとうれしい。余った農作物や、厩舎に敷くおがくずなどを提供してもらえるだけで助かる大学もあるので、それぞれの地域で実情に合ったサポートを考えていただければ」と呼び掛けている。

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