世界が変わる。 自分も変わる。 -SORACOM Discovery 2020 レポート①

新型コロナウイルスの影響もあり、オンラインで開催されたSORACOM Discovery 2020レポートの第一弾は、ソラコム代表取締役社長の玉川氏と、KDDI代表取締役社長の高橋氏の対談だ。2017年にKDDIグループになったソラコムだが、不確実な時代に必要な通信サービス、そして、IoTとはどういうものなのだろうか。KDDI高橋氏によると、緊急事態宣言後通信は増加したという。ネットを介した働き方も一挙に拡大し、KDDI社内では、スマホからのビデオ通話が20倍に、ビデオ会議が72倍にもなったのだという。

ニューノーマル時代のIoT、データ活用

そんな情勢の中、ソラコムの玉川氏からは、星野リゾートの大浴場の混雑状況をカメラなしで取得できるソリューションが6週間で実現できたという事例が紹介された。

KDDI 高橋氏(以下 高橋):

こういうのは、スピード感をもってやれたかどうかが重要だと感じました。

ソラコム 玉川氏(以下 玉川):

原宿の店舗でも、S+ Cameraというソラコムのプロダクトを使って、店舗の前を通った人数を可視化している事例があります。そのデータを見ると、歩行者の量がコロナ前と比べて8割減ってきています。

こういった事例も、S+ Cameraが、アルゴリズムを簡単に作りこむことができるという特徴もあり、実現できていると考えています。

高橋:

KDDIでは、GPS情報を使って、人流解析を行いました。スマートフォンの位置情報をクラウドに持っていく、そして、クラウドで分析したものをリアルに生かしていく、という循環を行った例として面白いと思ってます。

玉川:

スマホを持っている人がとても多いので、そのデータを集めることで、これまでになかった価値が生まれますね。

高橋:

Society 5.0の概念において、データをサイバー空間に持ってきて、分析したものをフィジカルに戻してくるという考え方があります。私は、こういうデータの循環がDXを考える上でも、今後とても重要になるとしています。

玉川:

ビジネスの種類によっては、厳しい状況に追い込まれる企業がある一方で、新しいビジネス機会が生まれるわけですが、それをうまく取り入れるのは、経営者としては難しいなと感じています。

高橋:

経営環境としては、弾力性や柔軟性があるビジネスモデルかどうかを確認する良い機会になっているともいえます。DXという言葉の定義がいろいろあるわけですが、私としては、「モノを買ってもらう」というのは一過性であり、その後も顧客と企業がつながることができるようにしていくのが新しいビジネスモデルであると考えています。ずっとつながっていることで、価値を提供しつづけることができるのです。

玉川:

製造業において、モノを売るビジネスをやってきた企業にとってみれば、ビジネスモデルの転換が難しいのではないでしょうか。

高橋:

そこにIoTがはいっていき、通信によってお客様のことを知ることができる。その結果、顧客とつながっていくことが可能になると思います。現在、そこにチャレンジしている企業も多いと感じています。

玉川:

モノ売りの企業ほど変化が大きいということですね。

高橋:

この機会にDXが実現できたらよいのではないかと思います。

玉川:

個人的には、コロナによって進化しなければならないプレッシャーが大きいのではないか、と感じました。例えば、遠隔医療やハンコなどをみても、進化するプレッシャーがかかってきていて、チャンスが出てきていると感じています。

高橋:

以前の状態に戻るのは簡単なので、スピード感をもって小さい実績をだす。そして戻れなくするということが重要になると思います。

玉川:

スピーディーに成功例を作るということですね。ビデオ会議についても、当社の営業の場合、大手企業に対して、対面で会議するのがあたりまえでした。それに対して、現状ではオンラインがあたりまえになったので、むしろ効率的になったと感じてます。

高橋:

営業に関しては、むしろアポイントが増えているといわれています。これは、移動が少なくなったことが大きいと思います。そして、アポイントが増えている状況だと、上司も文句を言いづらいですよね(笑)。若い人が中心に、こういったオンラインツールを使い始めることで、年配者も使いたくなるというものだと思います。

ソラコムxKDDI これまでのあゆみ

2017年にKDDIグループに入ったソラコムは、2018年に、イノベーションファンドの取り組みを始めております。IoTのスタートアップに対して出資するこの取り組みにおいて、ニチガスの事例で使われているデバイスはこの事例なのだという。

高橋:

ソラコムが投資先の企業を探して、ハンズオンして、提供するというモデルを実現したということなのですが、これは、KDDI単体ではできないことだったと思います。

玉川:

KDDIグループに入ってから、SORACOM Air plan-KM1を発表、2019年には、アマゾンと提携してSORACOM LTE-M Button powered by AWSを提供開始しました。(このボタンの通信は、LTE-Mだが、KDDIの通信を使っている)これを提供したところ、わかりやすさからか、とてもヒットしました。

高橋:

この事例をみていて、技術で推すのではなく、わかりやすさで推すことが重要だなと感じました。

玉川:

いきなりIoTをやれといわれると難しいのですが、この商品は、導入として使いやすかったのだろうと思います。グローバル対応のIoT SIMでは、KDDIプロファイルが追加可能になったグローバルのIoT基盤にソラコムのテクノロジーを使えるようになりました。また、20年度内に5Gにも対応していくことが決まってます。

高橋:

5Gについては、IoTがメインになるのではないかといわれていますが、まずはネットワークを全国に普及させる必要があります。これには、一般コンシューマの5G利用者が全国に広がることが重要です。それが実現できたら、全国に基地局が立つこととなるので、産業で使うようなIoTのために、通信を安く提供していきたいと考えています。5Gを活用したIoTに関しては、通信そのものよりも、どんな付加価値をその上に載せてくかが重要だと考えております。

玉川:

AWSのイベントで発表されな内容なのですが、先日MECの実証実験を行いました。

5Gの高速・低遅延を実現しようと思うと、エッジデバイスから基地局を通り、クラウドまでの物理的な距離によって遅延がでるため、デバイスに近い場所で処理をやるという考え方です。そこに、ソラコムのテクノロジーを使った実証実験をやったものです。

高橋:

AWS、オンプレ、MECの組み合わせはなかなか見かけないですよね。

玉川:

AWSが出てきたとき、WEB上で設定するとすぐクラウドサービスを使えるということに驚きました。今回のMECサービスがあれば、WEB上で設定すると、KDDIのMECが表示されてきて、それを使うとスゴイ高速処理ができるようになるという具合になるんじゃないかと考えております。これを、わかりやすく提供できたとすると、そのうえで思いもつかない、いろんなサービスが立ち上がると思います。

高橋:

リーンに、こういった環境が立ち上がること自体ワクワクします。

玉川:

5G x MECというと、クルマの自動運転がわかりやすい事例ですが、それ以外の様々なケースが出てくると思います。

高橋:

データの民主化も今後進んでいくはずですよね。

玉川:

また、5Gに関して、高速・低遅延の特性は重要なのですが、大量につながる、同時多接続性と呼ばれる、小さいデータを集める特性にも期待しています。

高橋:

3G、4Gの時も大容量・高速をうたったのですが、実際は、メールのような沢山のデータが行き交うための同時多接続性が重要とされ、主流な特徴となっていました。

玉川:

通信を入れるとペイしないとされているサービスも、同時多接続性を活用することで、通信量を安くできるはずです。

ソラコム x KDDIの今後の世界に向けた展開

玉川:

KDDI入りしたタイミングではSORACOMは、8万回線くらいだったのですが、3年弱で200万回線以上伸びています。

インフラも人材も足りなかったのですが、KDDI入りしたことで、ビジネスを伸ばすことができたと思います。また、KDDIの「IoT世界基盤」の中でも、ソラコムのテクノロジーを使えるようになってきました。ソラコムは、グローバルコネクティビティを提供することで、新しい産業を創る、と考えてきました。通信は、投資が大きな事業なので、すべての国に基地局を作るのは難しいものです。しかし、その一方で、掲げたことを実現するには、世界各国の通信キャリアとつながっていかなければいけないと考えています。現在140か国でソラコムのIoT SIMが使えるようになってきていて、世界基盤でも使ってもらえるようになりました。今後、日本企業のグローバルな取り組みに使っていただくだけでなく、グローバル企業のグローバルな取りくみにも使っていただけるようにしたいのです。2年前に米国拠点、そして2020年には英国拠点を作りました。今後も、どんどん海外のチームを作っていきたいと思っていますが、実際にやってみると、日本からグローバルにでていくのは大変なことだと感じました。グローバルスタンダードの人材を獲得すること、そして、共にグローバル展開するパートナー企業の拡大をすることも重要です。この2つを乗り越えないと、本当の意味での「グローバルプラットフォーマー」にはならないと思います。そこで、私は、株式上場を考えるようになりました。

高橋:

ソラコムの株式上場について、「どうしようかな」と考えたことはあります。一方で、KDDIがスタートアップと付き合うのに、ベクトルを外に向ける、つまり、その成長に投資しようと考えてきました。なので、自社に力をつけていって、株式上場をする、という考え方はありだと思います。KDDIのアセットを使って、収益性ができた後も、世界基盤を一緒に作っていくということを一緒にやっていけるなら、株式上場もありえるなと思いました。

玉川:

KDDIに入った時、「EXITですか?」といわれました。その時は、「ENTRANCEだ」といっていたのですが、ソラコムは、SORA=宇宙、COM=コミュニケーションということで、「スウィングバイ(宇宙船が遠くに飛んでいくとき、地球の軌道をうまく使って飛び立つという考え方)」という言い方がいいなと思っています。

高橋:

KDDIから出ていくという考え方ではなく、新しいものを一緒に生み出すということにできるといいなと思います。

玉川:

最後にソラコムへの今後の期待について教えてください。

高橋:

ソラコムにはたくさんヒントをもらったし、仕組みも参考にしています。これからもソラコムと一緒にIoTの新しい時代を作っていきたいと思います。

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