劇場でクラスター発生は“新宿”のせい? 本質を見誤れば一層カオスを招く

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新型コロナウィルスの感染者増が続くなか、感染拡大の“主犯”と名指しされている東京、特に新宿へのバッシングが止まらない。

菅官房長官による「(コロナ拡大は)圧倒的な東京問題だ」とする指摘と、それに反論する小池知事のバトルが話題になったが、そもそも菅官房長官にしても、「感染拡大を防ぐと同時に社会経済活動を徐々に復活させていく」と舵取りが難しいことを平然と言い切っている。実際、7月22日からは1兆6794億円を投じた「GoToトラベル」も始まるが、これに対する政府への批判も少なくはないのだ。

さて、問題は東京、特に新宿バッシングだ。ワイドショーが盛んに取り上げている「シアターモリエール」のクラスター発生についてもネットなどでは、「また、新宿か」という声が上がっている始末である。検証が終わっていないなかで断定はできないが、今回クラスターを起こした主催者側に見通しの甘さはあったのだろう。しかし、「楽屋が8畳しかない」ということまで取り上げて、「クラスターが起こって当然!」と批判するのは如何なものか。

シアターモリエールはオープンしてから30年以上たつ老舗で、小演劇界隈では著名な劇場だ。しかし、その著名な劇場にしても8畳の控室しかないのが現実で、またここ独自の問題でもない。日本全国、多くの小劇場に共通するものと言ってもいいだろう。しかも今回の当該公演は、一応は“国のガイドライン”に従った対応をとっているのだ。

つまり、今回の主催者が脇の甘さを指摘されることはあっても、一義的な「責任」は経済を再開させたい国にあり、個々の人や団体に責任のすべてを被せるのは、一種の目くらましに過ぎない。いわんやシアターモリエールが新宿にあることで、「やっぱり新宿……」などと批判することが、的外れなのは言うまでもない。

新宿批判で言えば、区が独自に行ったコロナ感染者への10万円の見舞金支給についても否定的な意見が多いようだ。しかしこれも、吉住健一区長が歌舞伎町の(風俗業界の)特殊性を鑑みて、発生を隠蔽させるよりはあぶりだしたほうがよい、という判断に基づいている。実際、区長自身もワイドショーでその趣旨を述べた。

筆者も30年以上歌舞伎町を取材しているが、この街の「事情」を考えれば吉住区長の判断はベストとは言い切れないまでも、ベターの政策と言えるのだろう(別に区長の支持者でもなんでもない。為念)。世間がそれでも納得がいかないというなら、歌舞伎町自体(新宿自体)を封鎖するしかないだろう。もちろん、この場合は池袋や渋谷、六本木、あるいは他の大都市の歓楽街も同様な措置が必要だ。そんなことが現実にできるハズがないではないか。

いずれにしても責任の所在を個々に当てはめて糾弾することは、時に本質を見誤ることにもつながる。この場合は、東京が悪い→特に新宿が悪い→なかでも〇〇(ホストや小劇場)という論法だ。結果的に、より大きな責任があるハズの政府の政策を“擁護”することともなり、コロナ禍を一層カオスにしかねないであろう。(文◎堂本清太)

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