フリーランスは自由で華やか? 19年続けてわかった“バラ色じゃない”現実

昨今「フリーランスは自由な働き方」という論も聞かれるようになりましたが、19年間フリーランスでやってきた自分からすると「そんなことはないけどな……」と思うことしきりです。


フリーランスって自由?

妙な結論なのですが、フリーランスであればより「社畜化」する面ってあるんですよ。よっぽどの売れっ子の場合でしたら「オレは超自由だしやりたいようにやれてるぜ」なんて言いたくなるかもしれませんが、私のような「他に代えがいる」ような存在だと会社員よりも社畜っぽい仕事ぶりになります。

当然曜日に関係なく仕事はしなくてはなりませんし、何しろ発注主の会社の判断次第でいつ切られるか分からない。フリーランスは会社にとっては余計な社会保障もなく、残業時間を気にする必要もない。流動性のある労働力として使い勝手がいいのです。報酬は決まっているため、仕事が遅いと時給が下がるだけで残業代をもらえるわけでもありません。

常に「いつ切られるか」ということに怯えているわけで、ミスがないように気をつけなくてはいけない。発注主から電話があったら「今月で打ち切りね」と言われるのでは、と毎度ビクビクしています。

SNSで知人が華やかなフリーランス生活をしているのを見ると、会社を辞めたくなってしまうかもしれません。しかし、その人はあくまでも派手な部分と成功した部分のみを発信しているため、情けない体験や見下されたことを書くわけがない。人は外に出すものは「成功している」「楽しい」「自由だ」みたいなものばかりです。

その人にも知られざる苦労はあるわけで、表面上のキラキラした話だけを信じるわけにはいきません。多分、強がりを言っている面はあると思います。なぜなら自分もそうだからですし、自分の知り合いも大抵はそうだからです。

冒頭で述べた「社畜」を表すのが、私本人の体験と後輩のK君の話です。私は4年で会社を辞めましたが、その後フリーランスとして深く付き合うことになる会社は以下のようになっています。

・サイバーエージェント:2001~2020(19年間)
・メディア・シェイカーズ(WEB R25):2008~2017(9年間) ※同サイトの終了とともに終了
・小学館(NEWSポストセブン):2010~2020(10年間)
・扶桑社(週刊SPA!):2011~2020(9年間)
・東京新聞:2012~2020(8年間)
・新潮社:2012~2020(8年間)

4年しか会社員として稼働できなかった人間が、同一会社と最長19年間も付き合いを持たせてもらっているのです。それはやっぱり「安定」がないからこそ必死にやるからかもしれません。それだけ「社畜」化しなくては仕事が続かないのです。えぇ、「それはお前の能力が低いからだよwwww」なんて言いたくなるかもしれませんが、まぁ、凡人は努力と根性を見せなくてはいけないんですよ。

同様の経験は、後輩・K君にも言えます。彼は私の大学の4つ下の後輩ですが、2001年、新卒で電通に入るも8ヶ月で辞めてしまいます。その後はヒモになったりするのですがさすがにカネが必要になったのか、2004年2月に私のところに電話をかけてきて「なんか仕事ください~!」と泣きついてきました。

丁度人手が必要だったので「飛んで火にいる夏の虫」のごとく彼には様々なライター・編集仕事をお願いしました。一緒に雑誌『テレビブロス』の仕事もしたのですが、当初はライターとしてやりますが、私が2005年に辞めた後は彼にすべてを編集者として引き継ぎました。

今年4月の休刊まで彼はフリーランスとしてブロスの編集をやり続けたのです。電通に8ヶ月しかいなかった男がブロスは私の下にいる時代も含めて16年も仕事をしたのです。194ヶ月の仕事は電通時代の24.25倍にあたります。彼は好きでやっていたと思うのですが、私としては「よくぞそんなに続いたな……」と思うとともに、やっぱりフリーランスは「社畜」的だと長く続くんだろうな、とも感じ入りました。

私はフリーランスであることにはけっこう否定的です。時々若者から会社を辞めてフリーランスになりたい、という相談をされますが、その時に伝えるのは私の年金の額です。定年まで会社員を続けた場合、夫婦で22万円もらえる、みたいな試算があるじゃないですか。これって年収264万円に相当します。贅沢をしなければ貯金と合わせてそこそこの生活ができそうです。

この額の中でデカいのが所属企業が一定額を払ってくれる厚生年金です。国民年金だと年間78万円ほどです。私の場合は4年間のサラリーマン時代があるので厚生年金はもらえます。しかし、額を見てみたところ、年間14万円でした。これを合わせると年収は92万円になります。

昨年、「老後2000万円足りない」という試算がありましたが、あれはあくまでも厚生年金と国民年金両方を満額もらうモデル家庭を基準にしているだけ。厚生年金がない、あるいは少ないフリーランスにはまったく当てはまらない試算なのです。

こうした現実を話すと「今の方がいいかな…」と会社員を続ける決意をする方もいます。もちろん人生の選択は自由なのですが、より「社畜」化することと老後の不安を考えるとフリーランスはバラ色とは到底思えません。

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