“ファミマ完全子会社化”が伊藤忠を真の総合商社トップにする?

コンビニ業界と総合商社がここ数年で連携を強化しています。

日本を代表する「五大商社」の一角である伊藤忠商事は8日、子会社であったファミリーマートに対し株式の公開買い付け(TOB)を実施しました。伊藤忠は総額5808.81億円でファミリーマートを完全子会社化し、同社は上場廃止となる予定です。

近年では、総合商社とコンビニをはじめとした小売企業の連携強化の例が目立ちますが、これによってどのような効果が得られるのでしょうか。


総合商社をみれば小売業界の相関がわかる?

まずは、国内のメジャーな商社と小売企業の連携の様子をおさらいしてみましょう。

■伊藤忠商事

伊藤忠商事は先月2日に三菱商事の時価総額を抜き、初のトップとなりました。7月15日現在の時価総額は、伊藤忠商事が3.75兆円、第2位の三菱商事が3.35兆円と4000億円程度の差となっています。一方で、2020年3月期の純利益は、三菱商事がトップの5921億円で、伊藤忠商事が5592億円と2位にとどまっています。

ここから、伊藤忠商事はファミリーマートを完全子会社化することで、伊藤忠商事に帰属する利益を積み増し、純利益でも総合商社トップを目指していることが推測できます。

■三菱商事

三菱商事は、ローソンを子会社に持っています。実は、ローソンはかつてダイエーの完全子会社でした。しかし、ダイエーの事業悪化に伴い、2001年には筆頭株主が三菱商事に代わり、2017年には三菱商事の子会社となっています。

ちなみに、ローソンは、2014年に550億円で高級スーパーの成城石井を買収しています。そのため、成城石井も三菱商事が実質的に影響を及ぼすことのできる立場にあるといえそうです。

他にも三菱商事は、近畿・関東地方で展開しているスーパーマーケットであるライフコーポレーションの筆頭株主にもなっています。

■三井物産

三井物産は、セブン&アイホールディングスの大株主となっています。出資比率は1.83%と、他と比較するとやや少ない比率となっていますが、特に海外展開において連携を強化しています。たとえば、中国・重慶市では中国最大手の民間農業企業の新希望集団とともにセブンイレブンの進出をサポートしています。

三菱商事のローソン子会社化、伊藤忠商事のファミリーマート完全子会社化という動きをふまえて、三井物産とセブンイレブンがどのような連携強化を模索していくかが注目となりそうです。

■住友商事

スーパーマーケットのサミットや調剤併設型ドラッグストアのTomod’s(トモズ)は、住友商事グループに属しています。しかし三大商社という枠の中では唯一、国内のコンビニエンスストアの事業会社を保有していません。

■丸紅

丸紅は、かつては東武ストアの筆頭株主でしたが、それまで第2位の株主であった東武鉄道が2018年に公開買付による完全子会社化によって資本関係が解消されました。しかし、丸紅と東武ストアの間では業務提携契約が締結されている状態です。

他では、丸紅はイオン系列のイオンマーケットインベストメント株式会社の第2位株主となっています。この会社は子会社にユナイテッドスーパーマーケットホールディングスをもち、その子会社にはマルエツやカスミ、マックスバリュ関東という企業が名を連ねます。丸紅はこの三社にも間接的に影響力を及ぼしうる立ち位置にいることになります。

■複数の商社が株主になっている例

高品質・エブリデイロープライス戦略で低価格路線をきわめるオーケーストアは、三菱商事との資本関係が色濃い状態でした。しかし、足元では伊藤忠商事のグループ会社である伊藤忠食品の持分比率が5.5%と、創業家を除けば筆頭株主となっています。

ただし、三菱商事と三菱食品の2社を合算すると、持分は約10%であるため、実質的にはやはりオーケーについては三菱商事の影響力が強い状況にあるといえるでしょう。

総合商社が小売と連携強化するワケ

上記のように、近年、総合商社が小売業と連携強化する背景には、小売業の収益が安定的なものであるという点が挙げられます。

近年、総合商社のビジネスモデルは「事業会社に投資をするファンドのような役回り」でといわれるようになりました。しかし、石油やガス、金属といった従来型のビジネスも依然として大きな割合を占めているのが現状です。

上記の五大商社では、各社の売上高のうち、概ね2~4割程度が資源やエネルギー関連の売上高となっており、決して無視できない存在です。現に、今年に入ってからの総合商社セクターは、資源に強い三菱商事が特に打撃を受けています。

一方で、この状況でも株価を大きく戻しているのが伊藤忠商事です。伊藤忠商事とその他の商社の間には「非資源ビジネス」の力の入り方という点で違いがあります。

非資源ビジネスとは、繊維や食料といった生活消費関連のセグメントも含まれており、価格変動が激しい資源ビジネスと比較して安定的な収益が見込めます。伊藤忠は、総合商社の中でこの非資源ビジネスの利益がトップでした。

今回のコロナショックで資源価格が大きく値下がりしたことも、伊藤忠が総合商社の中で存在感を高める上で追い風となりました。これも資源・エネルギーに強い三菱商事と安定的な生活ビジネスに力を入れていた伊藤忠商事の時価総額が逆転した要因のひとつといえるでしょう。

総合商社は世の中の動きの変化に応じ、起動的に事業やビジネスモデルを転換してきた業界です。足元ではコンビニエンスストアとの連携を強めていますが、よくよく考えてみると、卸売業の商社と小売業のコンビニ・スーパーが連携を強めることは、全体としてのコスト削減や業務の効率化にもプラスの影響を与える効果も期待でき、合理的といえるでしょう。

私たち消費者も、小売価格や商品の品質向上という点で恩恵をうける可能性があると考えられます。

© 株式会社マネーフォワード